軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話 バリア魔法で治水

ミライエの領内には辿り着いたものの、俺たちの路銀はまたもや底をついた。

理由は言うまでもなくフェイの食費だ。

あれだけあったのに!あんな大金が……!

全てフェイの腹の中に。

ということで、また仕事だ。

自分の領地に辿り着いたというのに、仕事をするというのも不思議な感じだ。

「何か仕事はないか?」

のどかな街の宿屋にて、人の良さそうな大柄の店主に仕事がないか尋ねてみた。

「仕事か、先代領主様が放置された件なら頼みたいが、大仕事だぞ」

「どんなものだ」

「川が良く氾濫する場所があるんだ。毎年小さな規模だけど洪水になってしまって、街中が困っている。雨季が近いから、堰き止める程度の土嚢袋を積んでおきたいのさ」

力仕事ってわけか。

悪いがパスだ。

ひょろがり、もやし、針金、全て自分のことを揶揄されているんじゃないかとドキッとしてしまうこれらの単語。

残念ながら力などない。

目の前にいる店主と腕相撲をしたら余裕で負ける自信がある。

「宿代は出るし、飯代も別途支給だ。いい仕事だと思うぞ。街の発展にも役立つから、みんなからも感謝される」

「飯代が出るのか?」

「ああ、宿を指定してくれればうちにも泊めてやれる。雨季の近いこの時期限定の仕事だ。俺も店が忙しくなければ、手伝いに行きたいところだよ」

飯代というざっくりした表現。気にいった。悪い考えが働く。

ここは俺の領地でもあるし、洪水に苦しむ街を助けるのはそのまま俺自身を助けることとなる。

そう考えてみれば、非常にうまみのある仕事だ。

俺も、体を使う時が来たみたいだな。

「ふんぬぅぅぅぅぅああああ!!」

土嚢袋を一つ肩に担ぎ、俺は目的のポイントに積み重ねていく。

川の近くに山のように積み重ねられた土嚢袋を、街の方向に湾曲した部分に積み上げていく。

平常時でも水が豊かに流れる川だった。

それが雨期ともなると水の嵩が上ることは容易に想像できる。

湾曲した部分はもっとも川が氾濫しやすい場所らしく、しかも街に近い場所でもある。

大きな工事が必要とされる場所だが、領主が放置し続けたために街の人がこうして毎年対処療法を繰り返していたわけか。

自治領主なんてものになれて浮かれていたが、こういう問題は各所にありそうだ。ただ楽できる仕事ではないことを知っておいて、取り敢えずは目の前のことに集中する。

土嚢袋をまた担ぐ。

「ふおおらああああああ!」

二袋目もとんでもなく重たい。

フェイも珍しく仕事を受けてくれて、既に土嚢袋を10袋も積み上げていた。

「おらぁ、新人!腰使え、腰!お嬢ちゃんのを見習わんか!あんなに線の細い体なのに、大したもんだ」

現場監督のひげ面が説教をしてくる。

ったく、あいつはドラゴンだっての。

背中に翼が生えてんだろ!ただの少女が指一本で土嚢袋を運べるか!

二つ目を積み上げて、額に流れる汗を拭った。

「ダメだこれ。無理ある、無理ある」

「飯のためじゃ。働け!」

「ぐっ」

フェイも気づけば現場監督の側に立っていた。

やたらと自分だけ褒められるものだから、あいつ現場監督と仲良くなりやがって。

「そんなんじゃ金は出さんぞ!」

「横暴だ!俺はちゃんと仕事をしている!」

あと三つくらいならなんとか行けそうだが、それ以上は無理。

俺の腕と腰が折れること間違いなし。

『バリア』

川の湾曲した、せり出した部分に沿ってバリアを展開していく。

土嚢袋よりもこちらの方がかなり頑丈だ。放って置けば3年で壊れるが、それでも今の対処よりはるかに長持ちする。

一番水が強く当たるであろう部分を、全てバリアを張って水の勢いをバリアで受け止める。

少し高めにバリアを張ることで、水かさが増したときのことを想定している作りである。

「どうだ、これなら土嚢袋はもう必要ない!」

「あんた魔法使いだったのか?それもこんな器用なことが出来るような」

「ああ、そうだ。どうだ?これでも金は支払わないと言うか?」

現場監督に食ってかかる。

金を支払わないと言った先ほどの発言、訂正して貰おうか。

なんたって、こちらは死活問題だからな。

「なんで、土嚢袋なんて運んでたんだ?最初から魔法を使ってくれれば、楽できたのに。それに、魔法使いならこちらもっと金を用意した」

たしかに!

で、でも!力仕事って聞いたから!まさか、魔法が有効だとは思わなくて!

めっちゃ力仕事する気で来たから!

「魔法で土嚢袋を運んでくれても良かったのに。不思議なお方だ」

それはできない。

残念ながら、俺はバリア魔法師か使えないからな。

バリアを張った場所の強化具合を確認しながら、現場監督が驚いた表情でこちらを見てくる。

「これは凄いや。街の歴史が変わりそうだ。あんた、領主様が放置した仕事を一人でこなしてくれたのか。なんて御礼を言えばいいのやら」

「仕事だ。礼はいらん。金と飯を求む」

「それは当然だ。しかし、こんな大きな成果になるとは……。俺じゃ対処しきれんかもしれない。洪水がなくなれば、街は一気に大きくなるぞ。ここは交易の街でもあるし、洪水が亡くなれば、更に定住してくれる人が増える」

なるほど。治水一つでそこまで変わるものなのか。

報酬のことは一旦おいておこう。そこまで言うなら、俺は更に働くことにした。なにせここは俺の領地だ。

またいつ来られるかもわからないので、やれることはやっておこう。

「他の強化ポイントも案内してくれ。これと同じように、補強する目的でバリアを張る。今年は氾濫とはおさらばだ!」

「うおおおおっ」

フェイの信者だった現場監督の心は、俺のものにさせて貰った。

どこかの大物貴族を扱うように、俺は丁寧に案内されて、川の危険ポイントに全てバリアを張っていった。

「よしっ、金と飯を頂こうか」

「はっはいぃぃぃぃ」

日暮れの頃には俺の信者になりつつあった現場監督が、土嚢積の仕事をしていた全員に給金を支払った。

俺とフェイの分も貰う。

宿に泊まれるチケットと、今夜の食事を食べられるチケットも手に入れた。

この街の名前はヘリオリだ。街の中の店ならどこを使ってもいいらしい。ミライエで一番西に位置した街で、そこそろ栄えていた。

既に気の良さそうな大柄の店主と話はつけてあるので、あそこの宿に決めている。

店も綺麗で、話しを聞いたときに嗅いだうまそうな香りもまだ脳裏に残っている。

「じゃあ俺は今日の件を街長に使えねば。あんたらはゆっくりして行ってくれ」

「おう。俺たちも宿にいく」

こうして飯にありつけた俺たちは、しばらくの余暇を街で過ごすことが出来た。

これがミライエ、ヘリオリ街の、伝説の治水工事として語られるとは、俺たちはまだ知りようもなかった。

――。

ミライエの領主邸に辿り着いたオリヴィエは、今度こそ追いついたと確信して、門番に声をかけた。

「オリヴィエ・アルカナです。自治領主に用がある。名前を言って貰えれば、伝わるはず」

「領主様は不在です。未だミライエの地にはやってきていないものと思われます」

「なっ!?」

ずっと後を追っていたから、今度こそ移動魔法を使い、先を越したと思っていた。

しかし、まさかの追い越しである。

「ここで待たせていただくわけには……」

「領主さまは国を見ながらゆっくり来られると聞いています。いつになるかわからないので、素性の分からない方を泊めるわけにはいきません。お引き取り下さい」

「うっうう……」

少し、涙が漏れた。

美しい女性の涙だったが、門番は毅然とした心で追い返しす。

オリヴィエはまたしてもシールドに出会えず、泣く泣く引き返した。

追い越したため、もう一度足跡を追うために以前の街まで戻ることにする。

オリヴィエは未だに、シールドに会えずにいる。