軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145話 バリア魔法の終焉、かもしれない

最強の軍勢を引き連れて、ゲート地方にやってくる。

我が軍の評判はすこぶるいいので、街には歓迎して迎え入れられた。

野営してはいるが、軍人が気兼ねなく街を利用できるのはありがたいことだ。

「うーん、あいつやばそー」

竜人族が作ってくれた魔力を込めることではるか遠くまで見える双眼鏡を通して、ゲート地方に侵略してきたマナリンクスの天幕を見た。

噂通りの大男で、部下にも慕われている。

陥落させていった都市の統治もうまく行っているらしく、その勢力を拡大させる一方である。

カリスマ性というやつだろう。

この世界から魔法を消し去るという馬鹿げた考えの人なのに、その周りには不思議と人が集まるんだとさ。

「その引力はまるでシールド様ですね」

アザゼルがそう評価してくれるが、うーん。俺の場合バリア魔法の輝きが強すぎるからな。

人としての人望はマナリンクスに分がある気がする。

博識だし、剣術にも優れた、エリート中のエリートらしい。

若き日には、学者を目指し、由緒ある家系の長男で評判の子供だったとの情報を得ている。

あまりにもハイスペックだったため、途中で報告を聞くのをやめておいた。

自分との生い立ちの差に、ムキーとタオルを嚙みしめたくなったので、十分だと報告を拒否している。

ハンカチじゃないところが肝心だ。

俺のようなスラム出身者はハンカチを所持する文化などない。悔しくて嚙みしめのはザラザラのタオルになるのは至極当然のこと。

「それにしても……」

「なんでしょう」

「あいつ、いいな!」

双眼鏡で天幕を見ているのは敵情視察もあるのだが、何よりマナリンクスを知っておきたかった。

歴史を動かそうという人は、一体どんな人なのかと。

今やクズの代名詞であるガンザズ伯爵に出会った時、俺は心底あいつを軽蔑した。

なんて浅く、醜いやつなんだと。

しかし、此度敵は強敵なだけではない。

聞こえてくる話はどれも立派なものだし、何より今見ても部下に慕われているのが見て取れる。

「アザゼル、あいつ部下にしよう!」

「……また無茶をおっしゃる。しかし、シールド様が望むのであればそう致しましょう」

これは頼もしい。

なんだかんだ、俺が負けてもアザゼルとベルーガがなんとかしてくれないかなという期待がある。それほどに二人は有能だ。

いつも何か頼むと絶対にこなしてくれるからね、これ。

「相手の軍はずいぶんと気が緩んでいるように見えるな」

「バリア魔法があるから打って出て来ないと思われているみたいですね。どうやら過去の戦いの情報が知られているみたいです」

なるほど。

以前捕らえた賊以外にも、マナリンクスの部下がミライエにやってきていたのか。

俺たちの過去の戦いを知られている。

今までの大きな戦いは全て、俺がバリア魔法を張る。見かたはその内側から遠距離攻撃をする。勝つ!

この構図だった。

今回もそう思っているのだろうな。それともただ、自分たちの実力に自信があるのだろうか。

「どちらにせよ、甘いな」

今回はな、相手がまじでやばい雰囲気しているから、俺も頭を使っている。

「あいつらはもう出たか?」

「はい。既に動き始めています」

「よし」

伝説の傭兵団アトモスをこの地に呼び寄せた。

最高戦力を連れて来たというのは嘘偽りない。

今ミライエにはバリア魔法と最低限の軍を残しているだけで、精鋭は全てこちらにいる。

そして、アトモスをいよいよ実戦で使うこととなる。

彼らが名を挙げたのは、戦場での強さだけではない。

立ち回りのうまさがある。

土地を知り、相手の動きを読んで動ける機転の良さ。

そんなアトモスに、ある仕事を任せた。

「マナリンクス、流石に急ぎすぎたな」

次々と都市を落としていってはいるが、あくまでマナリンクスの本拠地は彼の領地である。

統治もうまく行っているらしいが、それはすなわち仮拠点が判明しているも同じ。

補給点を特定できるということだ。

急ぎすぎた侵攻で補給は征服した都市から都度得ているのは分かっている。

そして、進みすぎたマナリンクスはここら一体に詳しくない。

補給路は必然、単純でわかりやすい道を通ることとなる。

そこを叩くようにアトモスに指示している。

こちらは前もって土地を覚え、計画も立てている。

すぐに成果は出るだろう。

「オリバーとカプレーゼも同行しています。なんとか取り戻したいみたいです。無事に任務を果たしたら、褒めてやってください」

「真面目なやつらだな」

本当に真面目だ。先に戦ってくれている二人だから休むように伝えたはずなのに。

まあ、それだけ気合が入っているのだから、期待してもいいだろう。

そして、三日もしないうちに成果が出始めた。

補給部隊を襲撃したアトモスの傭兵団は着実に成果を積み重ね、マナリンクスの軍を締めあげていく。

食料がないというのは、さぞやきついことだろう。

今はまだ備蓄があるだろうけど、補給が絶たれた情報は伝わっているはず。さぞや不安になっているだろう。

この後、目の前でショッギョのバーベキュー大会を見せてやるつもりだ。

さてさて、どう動く? マナリンクスよ。

「今日中に打って出てきますね」

報告があったのは、偵察部隊のアイラークからだった。

先のヘレナ国との戦いで大いに活躍してくれた魔族だ。

今回も逐一、マナリンクス軍の報告をしてくれている。

「まずは先手を取ったと言っていいかな」

相手の計画を狂わす。焦らす。そういった成果はあった。

しかし、やはり最後には戦って決着を付けなければならないだろう。

軍の規模はこちらの方が大きい。兵の質もこちらが上だ。

しかし、トップである俺がマナリンクスに負けるかも。

これまでの戦いと、まるで逆な状態だ。

逃げる訳にもいかないので、服を着替え戦いに備える。

空には聖なるバリア魔法が展開されている。

なんだか寂しい思いだ。

時間制限のあるこのバリア魔法だが、今まで壊されたことなど一度もない。

フェイも、イデアも、異世界勇者でさえはね返してきたこのバリア。

今回ばかりはそうはいかない。

相手はバリア魔法を消し去るギフトなのだから。

我が子が消されるような思いだ。

悲痛な気持ちになる。

「すまないな」

バリア魔法に謝罪しておいた。

なんだか不思議な気持ちだ。

俺はバリア魔法に支えられてきたからな。感謝の言葉や謝罪の言葉も自然と出てくるってわけだ。

「やりますか」

軍をバリア魔法の内側まで進める。

作戦は伝えている。

今まで通りバリア魔法内から相手へ遠距離攻撃だ。

魔法なり、弓矢なりで削っていく。

バリア魔法が壊れたら、そこからは守りの戦いを指示している。

各部隊に指揮官がいるが、相手の出方、ギフトの寄り正確な情報を持ち帰ることを優先させている。

ギフトの解析に挑めるかもしれないのと、何か弱点が見つかるかもしれないという願望がまだあるからだ。

決戦はまだ数日先だ。

こちらは補給がある。急ぎたいのは相手だ。

足元を掬ってやろう。なんとしてでも、勝つ! この戦いに!

両軍向かい合い、総大将の俺はグリフィンに跨る。

聖なるバリア魔法の向こうにひと際大男がロードホースに跨っているのが見える。

この大陸で騎馬として主流となっているロードホースだ。ミライエでも少し数を増やしているので見慣れて来た。

マナリンクスの進軍の声がここまで聞こえてくる。

地響きがし、大戦がはじまったのがわかる。

ひりついた空気がどっと押し寄せる。

生暖かい風が、やけに敏感に感じ取れる。

軍は静かだが、皆腹の底に気合をためているのがわかる。

一体になっている感覚がする。

進軍する相手の軍にあわせて、例の赤い霧が現れた。

マナリンクスを中心に、それが広がっていく。

「来たか。魔法を消し去るギフトが」

赤い霧がイナゴの大軍のように聖なるバリア魔法へと向かってくる。

いよいよ、最凶のギフトと最強のバリア魔法がぶつかり合う。