作品タイトル不明
111話 バリア魔法展開
俺の視線の周りで素早く影が宙を動き回る。
「私の動きについてこれまい」
その通り。
彼女の圧倒的スピードの前に俺はついていけない。
その速さはもはや人間の域を超えている気さえする。視線でわずかな影を捕らえるので精一杯だ。
たまに挑発してきているのか、顔の前を飛び回ったりする。
届きそうだが、手を出しても届かないんだろうな。
顔の周りを飛び回る蚊くらい絶妙な距離感とうざさ。本当に蚊と同じレベルだ。
わずかな風と音がまたうざい!
かーなりうざい!
「この程度でもうついてこられないの?」
「まだ先のあるような言い方だな」
「当然」
そう答えたばかりの彼女の顔が、俺の顔の真横にきた。
……まじではえーな、こいつ。
とっさに反応してしまって、右手が出てしまった。
当然簡単に躱される。
「そんな調子では、一生私に指一本触れられませんよ」
「おっ、挑発されとるではないか。そんな調子でどうする。胸の一つでも揉んでやれ!」
風呂からフェイが茶々を入れてくる。
触れられないのに、胸もなにもないだろう。
ミライエでもこれだけ早く動けるやつは早々見つからないだろう。
異世界(別大陸)にきていきなり出会うレベルの敵じゃないな。
最初がこんな敵では、ゲームバランスが崩れているとしか言えない。
対応を考えていると、ガキンっと俺の首の後ろから鋭い音が響いた。
ミュートの攻撃がようやく俺に届いたみたいだ。
しかし、その恐ろしい一撃は、俺の首ではなく彼女の短剣を綺麗に真っ二つに折った。
「……!?」
振り返ると、ミュートが急いで後ろに飛んだ。
言葉にならない驚きが、その顔から見て取れる。
口元を覆ったその顔だが、大きく見開かれた目から、表情がこれでもかとこぼれていた。
少し面白い。
「びっくりしたか?」
「……全然」
ぷっ。強がりが見え見えだ。
俺のバリア魔法最強説をこの大陸にも広める。その第一歩の犠牲になって貰うぞ。
「バリア――夜の帳」
半円状の聖なるバリアに似たバリア魔法を使う。
濃い紺色のバリア魔法が俺とミュート、風呂に浸かっているフェイを覆う。
「なんじゃ?なんじゃ?」
見たことのないバリア魔法に、フェイが少し興味を持つ。
酒の半分くらいは興味を持って貰ったみたい。
「わりーな。俺の勝ちだ」
「寝言は寝て言え」
そうは言うが、完璧な攻撃を俺に防がれたからだろう。
ミュートの表情には言葉ほどの余裕はない。
悪いな。確かにお前のスピードには付いていけない。
首への攻撃も完ぺきなものだった。短剣が当たるその瞬間まで、殺意の気配すら感じなかった。
しかし、それはそれ。探知できなくても、俺の体の周りには常にバリア魔法を張ってあるんだ。
身体を守るバリア魔法なので、当然一番シンプルに強力なバリア魔法を採用している。
突破するのは俺のバリア魔法の中でも最難関のものだ。
もちろん一番脆いであろうと思われるバリア魔法も突破されたことはないんだけど……。
ちなみに、一番強度の低いバリア魔法は、国を覆っている聖なるバリアです。
内緒です。
国を覆ってるバリア魔法が俺のバリア魔法で一番弱いなんて、とても言えません。
墓まで持っていくつもりです。
あのバリア魔法、見た目がいいのと、単純に大きさ、そしていろいろと人が通れるように条件を追加しているから脆いんだ。
すぐに壊れるとか思ってたのに、フェイの全力パンチでも壊れない頑丈さ。
じゃあもう壊れないね。
その聖なるバリアよりも数段硬いのが、俺の体を守るバリア魔法である。
これを破れないとなると、残念だがもう勝算はなくなるんだよね、これが。
「このバリア魔法の中は、俺の領域だ」
展開しちゃった。
「ほう?何ができるんじゃ?」
フェイ、やめろ。
馬鹿野郎、やめろ。
はったりだよ!
俺にはバリア魔法しか使えないんだ。
バリア魔法ならなんでも使えるが、バリア魔法以外はなにもできないんだ。
バリア魔法で領域とか作れないから。
そんな便利な魔法じゃないから!
そこんとこ、身内にツッコミ入れられると困るんだよね。営業妨害になっちゃうんだよね。
「……いろいろとな」
「いろいろ?はぐらかしおって。本当は何もないとか言わんじゃろうな」
やめろ、やめろ。
誰かあいつの口を塞いでくれ。
「怪しげなドーム……。何かありそうですが、どのみち私を捉えられない」
フェイの営業妨害はあったが、無事ミュートはこのバリア魔法を警戒してくれた。
警戒が高まったことと、一度攻撃を防がれて本気になったのだろう。
先ほど零していたが、まだ加速できると言っていた通り、彼女の動きは更に速くなる。
流石に凄い。
先ほどからずっと人間の動きの域を超えていたが、今度は生物の限界を超えようとしているんじゃなかと思えるほど速い。
あの動きでタックルされるだけでも致命傷になり得る。
「おいおい、そんなに動いたら筋肉痛になっちゃうぞ?」
「心配ご無用」
動き更に速くなる。おいおい、どこまで……。
もう黒い線が移動しているようにしか見えなくなってきた。
俺のバリア魔法まで足場に使うものだから、動きが立体的で更に予測がつかない。
「勝手に使われては困る」
グイっと拳を握り締めた。
バリア魔法が指示通りグイっと中心の俺に吸い寄せられるように縮まる。
隣を凄まじい勢いで何かが通り過ぎ、それは地面を抉ってざざっと滑って行く。
砂煙が収まると、服をボロボロにしたミュートが立ち上がっていた。かなり痛んでいるご様子。
俺が急にバリア魔法を縮めたから足場を踏み間違えたみたい。
そんなに速く移動したら危ないよ。
「……なんの魔法?」
バリア魔法。
「この領域は俺のものだと言ったはずだ」
「くっ」
もう一度拳を握ると、バリア魔法がより一層縮む。
こちらも早いペースで縮め続ける。
今はまだ飛び回るほどのスペースがあるが、更に場所を削る。
そして、俺とフェイの風呂、ミュートの三人しか入れなくなるまでバリア魔法を縮めた。
「はじめまして、最強のバリア魔法使いです」
ミュートを間近にし、改めて自己紹介しておいた。
「なんじゃ、ただバリア魔法を縮めただけではないか。興味をなくしたわい」
やめろ、ネタバレやめろ。
ミュートは閉じ込められたことを悟って、何度かバリアに攻撃を加えていたが、それが無効とわかるや俺へと攻撃をシフトしてこようとする。悪いが、どれも通じない。
「はー!!シャドウフレイム!!」
黒い炎で作られた短剣が俺に向けられる。
動きは相変わらず速いし、凄い魔法なのも確かだ。
しかし、これだけ狭い空間で正面からの攻撃。
流石の俺でも反応できる。
「バリア――魔法反射」
黒い炎をそのまま彼女に返す。
悪いが、勝負ありだ。
黒い炎がそのまま彼女を覆う。
燃えた服を急いで脱ぎ、彼女の肌が露になる。服に魔力防御の効果があったみたいで、ダメージは入ってなかった。それよりも……。
「え」
まさかの展開だ。
声や口調から気づいてはいたが、彼女は女性だった。
そして、服の下にはなぜか下着を着ていない。
「お前、なんで脱ぐんだよ。しかもなんで何も着ていないんだよ!」
「アサシンの服以外は、全て速さの邪魔。炎を消す手立てがない故、服は捨てた」
凄い執念だな。
その執念があの速さを生み出すのか。俺のバリア魔法に通ずるものがあるかもしれない。
「敗北だ。この黒いドームのせいで、逃げることも叶わぬ。敵の実力を見誤った私に生きる価値はない。殺せ」
どいつもこいつも極端なやつだ。
それに、俺はこいつのことそんなに嫌いじゃない。
なにかのスペシャリストって好きなんだ。それを極めた道筋を考えると、称賛したくなる。
「ミュートお前の命、俺が貰い受けよう」
手を差し伸べる。
「掴め、そして俺と共に来い」
「……私の給料は高いですよ?」
「金要求するのかよ。まあいい。俺は結構金持ちだ」
「では」
現金なやつだ。
手を取り、立ち上がった。
「あっ」
裸の体がもろに見える。
お色気展開はありがたいが、こんな真面目な話をしている二人が素っ裸というのはいかがなものか。
「とりあえず、風呂入る?」
「はい、命令とあらば」
命令ではないかな。
けど、結局肌寒いのもあって、3人仲良くお風呂に入りました。
先ほどまで殺し合いをしていたとは思えないくらい気持ちの良い湯でした。
「私に勝った人は初めてです。あなたのことを認めます。男としても認めます。私の……お、お身体に手を出される場合、それなりの手当てを頂きます……」
顔をお湯に沈めながら、ミュートがボソッと言う。マスクを外した彼女の顔は質素な美人さんだった。
「……あ、そう」
なんかいらん心配されとる。