軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:1名気疲れ増しただけ

やれやれ……

俺達は石の街ロックスの防衛を終えて、謎の神輿に乗せられそうな雰囲気だった戦場から逃走して帰還した。

なんでわっしょい用の神輿が用意してあるんだあの街は。

まさか防衛の度にやってるのか。

でもリターンスティックは良かったな。忽然といなくなれる。

テレパスイヤーカフスを取って余裕があったらいくつか確保したい。

さて、拠点に戻った俺達は、なんだか今日はもう外に行く気力を無くして、ゲーム内の昼食をとった後は各々適当に作業をすることにした。

相棒はジャックと一緒に何か作っている。

俺はどうするかな……ひとまず畑にでも行くか。

ここの畑は食べられる野菜を育てるために、デカい植木鉢を埋めたような構造にしているわけだが……俺はその脇の小さく囲いを作った中で、あえて地面に直植えして一通りの野菜を少量育てていた。

【奈落ニンジン】…品質★★

齧れば意識が奈落へ落ちる。戻って来れるかは本人次第。

特にこれ、使えると思うんだよな。

奈落がどこだかわからないが、ようはこの世ならざるどこかって感じだろうから、矢にでも塗って撃ち込めば相手を奈落送りに出来るんじゃないだろうか。

せっかく環境のおかげでデバフの手段には事欠かないんだ。

有効活用していかないともったいない。

俺は育った奈落ニンジンを収穫して、地下の自分の作業場に向かう。

ロウソクに火を着けると、中世のマッドサイエンティスト感が出るな……まぁ奈落ニンジンなんて使うなら間違ってはいないか。

とりあえず、すりおろす。

果肉というか根の自己主張が激しいから、濾して奈落ニンジンジュースにした。

それをまた煮詰める。

奈落行き成分を濃縮するわけだ。

……奈落はあの世みたいなものなんだろうか?

土に埋まる野菜ほど命に関わる効果が出るって事は、死の海成分を吸収してるって事だと思うんだよな。

その結果、奈落ニンジンが出来るなら、奈落は死の海と関わりがあるんじゃないだろうか。

おっと、考えてる間にかなり色が変わったな。

火から下ろして粗熱を取る。

赤黒いニンジンの汁は、煮詰まって血液みたいな見た目になっていた。

……なんか呪われそうな見た目だな。

【奈落行きの秘薬】…品質★★

その身に入れれば奈落に落ちる危険な秘薬。

強靭なモノは多く取り入れる必要があるだろう。

ついに説明に危険って入ったか。

今までのも結構危険だったけどな。

じゃあ、これを矢に塗って……と。

【奈落送りの矢】…品質★★

危険な秘薬が塗られた奈落送りの矢。

強靭なモノには多く撃ち込む必要があるだろう。

よし、できた。

説明を読む限りは即死に近そうだ。

『強靭なモノには多く必要』っていうのは、ボスを早々即死にさせないための予防線かな。肉体デバフは強靭が高いと利きにくいし。

作業を終えて上に上がる。

相棒とジャックは……鍛冶場か。何してるんだ?

近付く俺に気付いた相棒が、笑顔で何か見せてきた。

「見て見てー、ジャックが作ったランタン!」

相棒の手には、小さめのランタンが握られていた。

光る部分に、ジャックに似た顔が作られていて愛嬌のあるランタンだ。

「良いじゃん」

「でしょー?」

「顔はマスターのアイデア!」

だろうな、知ってた。

相棒は割と何にでも顔描くからな。

「これね、夢の牢獄坑道に置くつもりなんだって」

「あそこ?」

「オレがいない時、暗くて大変なんだっテ。でもオレもずっとアッチにはいられないシ」

それはそう。

俺達もジャックを坑道専用NPCにする気は無い。

キャッキャとはしゃぎながらランタンを量産している二人を見ていると、俺のシステムにメッセージの通知が届いた。

誰だ? ……ああ、シイタケさんか。何だ?

メッセージを開いて目を通す。

────────────────

お久しぶりです、シイタケです。

ユーレイさんの装備ですが、刻印が入っていないので、良ければ店にお持ちになってもらってアップグレードしたいなと思って連絡をしました。

まぁ奥さんが改造してるかもしれないですけど。

良ければ一度店に来てください。

PS.『森ップルを考察するスレ』って見てますか?

奥さん、普段と違う格好の時は木魔法控えた方がいいっすよー

────────────────

………………落ち着け。

とりあえずスレを見よう。

えっと……これだな。

スレでは『通称森女が木魔法を使ったからエルフなんじゃないか』って考察が流れていた。

あー……しまった、そうだった!

木魔法は草魔法の上位で、草魔法はエルフを選ばないと習得できないのを忘れてた。

スレを追いかけると、シイタケさんとグレッグさんの指摘で『エルフはブラフ』って説が主流になっていた。

……危ない、助かった。

片方が不遇武器の弓使いで、もう片方が木魔法の使えるエルフで、接触許可してる夫婦ってなれば……さすがに絞られてもおかしくなかった。

……いや、今後は歩いてるだけでも『もしかして』って思われる可能性はあるな……それはもうどうしようもないか。

そもそも人前で戦う機会がそう無いから大丈夫だとは思うけど、相棒にも注意するように言っておこう。

スレの流れは最終的に、森女エルフ説を上げた『番犬ジョン』ってプレイヤーが、急に沸いてきたお嬢様口調のプレイヤー達に四方八方から「駄犬」呼ばわりされ「ありがとうございまぁす!」って礼を言って次スレに行った。ドMか。

* * *

とりあえずシイタケさんがどういうつもりでメッセージを送ってきたのか確かめないと話にならない。

そういうわけで、俺は一人で露店広場にやって来ていた。

うっかり特定されそうな話題が出ている最中に、わざわざ二人で出てくる事は無い。

……あと、キーナはちょっとチョロイところがあるから向いてないんだ。

リアルで詐欺に引っかかるほどじゃないけど、相手の言う事をだいたい良い意味にとって鵜呑みにする。……豆ヒヨコ詐欺は引っかかったしな。

俺はその反対で、なんでもかんでも疑ってかかってストレスを溜める人嫌い。

ある意味バランスはとれている。

夕暮れの露店広場はずいぶん閑散としていた。

イベント中だしな、皆ポイント稼ぎに行くか。

シイタケさんはいつも通りのあたりにいつも通りの露店を出していた。

俺が近付くといつも通りの笑顔で「どーもー」なんて声をかけてくる。

「お早いお越しをありがとうございます」

「まぁ……アレは来ますよ」

PSが本題なメッセージが来ればさ。

「で、どういうつもりです?」

「どうって?」

少し距離を詰めて、周りに聞こえないように声を低くした。

「こっちとしては、今後も珍しい素材を使いたければ……まぁわかりますよね?」

「あれっ、もしかして脅迫するとか思われてた? やだなー、しませんよ。仰る通りにレア素材使いたいですもん」

……なんだ。

それならいい。

思わず安堵の深い深い溜息が出た。

そんな俺を見て、シイタケさんは吹き出した。

「メッセは『気付いたけど内緒にしとくんで安心して買い物来てください』以外の意図ないっすよ。今後とも御贔屓にー」

「……どーも」

「ユーレイさん、心配性なんすね。奥さんはあんなにケセラセラ感強いのに」

ほっといてくれ。