作品タイトル不明
キ:敵の最後の悪足掻き
イェーイ! やったぜ、ざまーみろー!
敵の錬金術士が、中身が酸っぱい葡萄汁に変わった鍋を見て崩れ落ちたのを見て、僕は内心小躍りしていた。
実際に小躍りすると足音が煩いからね……こういう時は回っておこう。通路の角に引っ込んで喜びの回転、ぐ~るぐる。
ねぇどんな気持ち? どんな気持ち?
可愛いパン屋の娘さんに手を出した罪は重いぜ。
そこまで関わった相手じゃないけど、もうすぐ結婚するんだって女将さんにバラされて照れていたのはちゃんと覚えてる。
だから、あの幸せそうな娘さんを身勝手な理由で石にして使っていた敵の錬金術士には普通にムカついた。
僕はそんなに性格良くないからね、身勝手な理由を振りかざす輩の企みが打ち砕かれるのを見れば、ザマァみやがれって思いますとも。フッフー
あ、そろそろ酔いそう……回るのを止めた所で、ちょうど相棒が戻ってきた。
(おかえりー)
(ただいま。こっちは誰も通らなかった?)
(あー……たぶん? 回ってて気にしてなかった)
(ええ……?)
広間の方を再び覗き込むと、ちょうど戦意喪失した老年錬金術士を縛り終えたところだった。
「検証勢から連絡が来たわ、アジト内を調査して操られている被害者の情報を手に入れたそうよ」
あ、情報あったんだ。良かったー
石像に乗せられてた白夢草、何も考えずに外していいのかわからなくてそのままだったもんね。
特にペナルティはなかったみたいで、ヴェールみたいな白夢草はさっさと外して焼き捨てられていた。もしかしたら夢の中から何かしないといけないかなぁと思ってたから、簡単で良かった。
その段階で、操られていたNPC達が意識を失ったように脱力する。白夢草の操作が無くなったって事なんだろうね。
外に出る前に引き戻された現象についても、白夢草を取り去った事で処理は済んだみたいだった。
このあたりで、奥の扉から他のプレイヤー達も駆けつけ始めた。
(外の戦闘終わったのかな?)
(いやー……それにしては人数が少ないから、検証勢みたいにドラゴンに送ってもらって少数精鋭で着てるんじゃない?)
(なるほど)
駆け付けたヒト達が石化回復の薬も持っていたみたいで、石像になっていたNPC達は順に元の状態に復活していく。
1人復活する度に、倒れていたNPCが1人意識を取り戻して起き上がっていった。
(あー、良かった)
(一件落着か)
……誰もが終わったと思っていた、けれど、どうやらまだ終わってはいなかった。
突如、老年の錬金術士が、呵々と全力で見下すような笑い声を上げる。
「ぬるいぬるいぬるい! ぬるま湯に浸りきった腑抜けた冒険者共め! ワシひとりを捕まえて勝ったつもりか?」
「何ぃ?」
「ただの負け惜しみじゃん?」
まぁ拘束済みだしねぇ……なんて思ったのも束の間。
続く言葉に僕らはハッと気が付いた。
「愚か者共め、何のために外であれだけのモンスターを呼んだと思っているのだ! 今頃同胞達は別の拠点へと移動が済んだ事だろうよ」
「なっ……」
あ、そういえば確かに!
それなりにバタバタ走り回っていた錬金術士達はこの部屋にいない! なんならレッドさんが担いでたはずの二人組もいつの間にかいなくなってる!
外の大群とあの錬金術士は、敵対錬金術士達が避難するための囮だったってこと!?
「しまった!」
「もう遅い、どのみち薬の製造方法には辿り着いているのだからな! ここを捨てた同胞が、別の場所でもう一度調合すればいい話よ! そして今度は子株ではない、本体の白夢草に使うだけだ!」
勝ち誇る錬金術士は、縛られた手をそのまま床に叩きつけた。
鈍い音と同時に、鋭い光を発する指輪の輝石。
呼応するように光り輝いたのは、雑多に置かれた物品で目立たなくなっていた床の魔法陣。
「タダで帰れると思うな! たとえ蘇るのであろうとも、二度と生など欲しくないと思う程に惨たらしく散らせてくれるわ!!」
まぁゲームだからそんな痛い思いはしないだろうけどね。
それでも、救出したNPCがまだいるから、この状況は普通にマズい。
輝く魔法陣から溢れるように現れたのは、硬質な樹皮を持つ太い蔦。
何本も何本も何本も……数え切れない量の蔦が魔法陣から這い出してくる!
「逃げろぉ!!」
戦隊ブラックさんのひと声で、我に返った全員が動き出す。
最優先はNPCの避難。
元に戻った四組の夫婦が悲鳴を上げて怯えるのを、数人のプレイヤーが急いで外へと連れて行き、その後に敵の錬金術士を抱えたプレイヤーとそれ以外の面々が続く。
(俺達も出よう、掴まって)
(ウィッス!)
凄まじい速さで溢れ出す蔦は部屋を揺らし、壁を壊し、天井を崩落させ始めた所で僕らは別の区画へとオーブで飛んだ。
適当に他のプレイヤーがいない所で、相棒が【石魔法】と【土魔法】を使い、さっさと地上へと抜ける通路を開ける。
上がった場所は、山の麓。木が多い所だったから、そこで木々に隠れるような位で、霊体化からの切り替えと光学迷彩状態の解除を済ませる。
揺れる地面。
広範囲が陥没し始めるアジトのある土地。
離れた所にプレイヤー達が……何あの大群? え、あの数で来たの? ……とにかくたくさんのプレイヤー達がいたから、その後ろにそっと合流出来るような方向へと走り出す。
相棒に抱えられながら、僕は崩れ落ちるアジトを見ていた。
溢れ出る大量の蔦は、タコみたいな形に収束して、ぐねぐねと動く足には吸盤のようにズラリと並んで毒々しい色の花が咲く。
うぞうぞと蠢く頭部の蔦の中、目の部分にはギョロリとタコらしい目玉が現れた。
──ヒュージマッドネスオクトパフラワー Lv69
アジトを崩しながら現れたボスを目にして、プレイヤー達は武器を構えながら言う。
「ようやくボスのお目見えか」
「さっきまでのを蹴散らした勢いで、このまますり潰してやんよ」
「こっちが何人来てると思ってんだ」
うん、すごい数だよね……まだ春イベントだっけ?って勘違いしかけたよ。
そんなプレイヤー達の前に立つのは、逃げる時に殿を務めていたらしい戦隊のヒト達。
「皆で力を合わせればきっと勝てる! 行くぞ!!」
鼓舞する声に、応じる鬨の声。
駆け出す勢いは、むしろボスの方が気圧されているように見えるほど。
(……僕らどうする?)
(……ぶっちゃけ必要ない気がする。避難させてるNPCの所行こう)
(あ、そうだね。そっち守ってようか)
……一斉に突撃するプレイヤーの軍勢は、そう時間をかけずにアッサリとボスを撃破しましたとさ。