軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:戦隊とボスのシリアスシーン

パピルスさんへ錬金術士アジトのスクショを送り、再び光学迷彩状態でキーナを載せて部屋を出ると、それからそう経たない内に返信が飛んできた。

(……検証勢がドラゴンに送ってもらって、俺達がさっき見つけた部屋に行くらしい)

(おー、そりゃ気になるよね)

(あと、戦隊はマップの中央あたりにある部屋がメインじゃないかって当たりをつけて、そこに向かうって)

(あ、それなら僕らもそこに向かえば合流できるかな)

戦隊はブラックさんが【闇魔法】持ちらしい。

オーブが使えるようになったので、アジト内に引き戻された原因がアジトのボスじゃないかと予測し、ボス部屋を目指す事にしたようだ。

マップにはどの通路がどことオーブで繋がっているかも書かれている。

俺達が今いる所から1番近いのは……この経路か。

(じゃあ最短っぽい通路行くよ)

(はーい)

【闇魔法】で足音を消しながら走り抜けて、オーブを三つ経由。

辿り着いたのは……少し湿り気を感じる上に、灯りが少なく狭い通路だった。通気口か? ヒトが通れる幅と高さはあるが、普段は使っていなさそうだ。

(……1人でここ歩きたくないなぁ)

(大丈夫、俺がいるから)

(好き)

さて、ここを行くと広い部屋の入口が三つ並んでいるはずなんだが……なんで三つも入口があるんだ?

その答えはすぐに出た。

通路の曲がり角に近付くと、聞こえてきたのは会話の声。

速度を落として立ち止まり、曲がり角の向こうを覗き込む。

そこに見えたのは……3つのアーチ状の穴。

(……ああ、なるほど)

(ここ、後ろの高い所なんだね)

広間のような空間で俺達に背を向けて立つのは、マントのように白夢草を背中にかけた腰の曲がった老年の錬金術士、その横に虹色の怪しい液体が煮込まれている大鍋。

周囲には所狭しと書籍や紙束、そして様々な素材が積み上げられている。

その向こう側で錬金術士を守るように立ち塞がっているのは、明らかに街人っぽい服を着ている四人。

さらにその向こうで四人と対峙しているのは、石像を少し離れた所へ置いた戦隊の面々。

広間の奥には、戦隊が入って来たのだろう大扉。

そう、俺達が辿り着いたのは……シリアス真っ最中なボス部屋を、背後から見下ろす位置。

ボスの背中側の壁の上部の、飾りのような場所だった。

* * *

「くっ、一般人を盾にするとは卑怯な!」

「お優しい冒険者諸君にはよく効く薬だろう? 気絶させよう等とは考えない事だ。 そ(・) れ(・) は死ぬまで動かせるからな」

(……どうする?)

(どうするもなにも……ちょっと割って入っていい状況じゃなくない?)

(それな)

場所が悪かったし、同時に場所があまりにも最高だった。

敵のボスの真後ろという、後から『無事ですか!?』とか言いながら合流するには、ちょっと微妙な位置。ここからその合流の仕方をしたら、余りにも目立つし空気が読めないにも程がある。

そして敵のボスの真後ろという事は、不意打ちに最適だという事だ。

俺の戦闘スタイルと完全に合致しているこの配置。まだ気付かれていないのなら、無駄にするにはもったいなさすぎる。

なので俺達は、戦隊が会話で情報を引き出そうとしている雰囲気も感じたし、とりあえず【隠密】を使いながら壁の陰から様子を伺う選択を取ったのだった。

「お前達の目的はなんだ! 何故平和に暮らしているだけの人々に危害を加えるような事をする!?」

ブラックさんの迫真の問いに、老年の錬金術士は鼻で嗤って語り始めた。

「平和ボケした無能など、いくら使い潰した所で惜しくもない。我らが叡智の礎となるのだから、むしろ幸せな事だろうよ」

「何!?」

ケタケタと嗤う錬金術士は、白衣のような白いローブの袖から見えるシワだらけの手で、トントンと頭を指した。

「我らの望みは、無能共の心を繋ぎ、ひとつの大きな魔道具とする事よ」

忌々しそうな声色で、吐き捨てるように語り続ける。

「資源を食い潰す低能も、使える道具に作り変えてしまえば、膨大な資源を新たに得る事も容易くなる。一部の明晰な頭脳の持ち主のみを残し、他を全て道具とすれば研究もはかどるだろう。……わかるか? これこそが効率化だ。そうして世界の効率を良くしていけば、ヒトはもっともっと早いペースでさらなる高みへと至る事が出来るのだよ」

そして石化しているNPCを指した。

「そやつらはその研究の過程で生み出した技術だ。石化させた片割れの体の夢へ夫婦の意識を諸共閉じ込め、婚姻という契約を含んだ絆という繋がりを用いて夢魔がもう片方の体を操作する……画期的な工作員であろう?」

「っ……なんて事を!」

「尊い絆を何だと思っているの!?」

ピンクさんとフクロウの従魔が怒りの声を上げている。

……そして、俺の横でもキーナの怒りが燻っているようで、苛立ちの籠もった念話が飛んできた。

(アイツ、企み、潰す)

(なんでカタコト)

戦隊はそこで武器を構えたが、錬金術士は動揺することも無く、スッと片手を上げる。

「おっと、動くなよ。動けば手駒となっている者に自害を命じる」

「くっ……」

「そう焦るな……もうすぐ完成するのだから」

そう言うと、ゴポゴポと粘度の高い音が聞こえる鍋の火を止めた。

「我らが辿り着いた叡智のひとつ、『夢魔の目覚め』。これを我らが白夢草に使えば……万能の夢魔が、現実でその力を奮う事が出来るようになるのだ! ヒトを眠りの中に閉じ込め、ひとつにする事も容易くなる!」

そう言いながら、錬金術士は待ちきれないかのように鍋の縁へ飾り付けるようにの白夢草を這わせた。

「ここにあるのは子株だが……それでも貴様らを捻じ伏せるには充分だろう。粗熱が取れたらお披露目してやるから、もう少しこの年寄りに付き合うがいい」

なるほど。

つまりあの鍋の中身をどうにかしないと、もっと不利になるって事か。

(ねぇ相棒。僕、良いこと思いついたんだけど)

(俺もひとつ思いついた)

状況に反して、二人揃って楽しい時の声の念話。

こういう時の俺達は、同じ事を思いついたと相場が決まっている。

(じゃあちょっと行ってくるわ)

(行ってらっしゃーい)

相棒を通路に残して、俺はスルリと通路の穴から広間へと入った。

光学迷彩の揺らぎは戦隊の面々に見えているはずだ。

戦隊は覆面装備で目線の方向は分からないが、フクロウの従魔が一瞬俺の方をチラリと見てすぐに平静を装ったのが見えた。

「……そんな事はさせない! お前達の悪巧みもここまでだ!」

「ふん、威勢のいい口だな。しかし人質がいる以上、お優しいお前達に勝ちの芽などあるまいよ」

「いいや! 我々は、そのような非道な行いには決して負けない!」

声量の大きめな啖呵。

もしかしなくても、こっちから意識を逸らそうとしてくれているんだろう。

鍋は目の前。

俺はインベントリから、アイテムをひとつ取り出した──

「何故ならば……我々には、たくさんの頼れる仲間がいるからだ!!」

──グジュッ!

とてもシリアスなカッコいい場面をぶち壊したのは、俺の右手から響いた音。

バッと驚愕の顔で俺を振り向いた錬金術士。

間髪入れずに操られていたNPCを取り押さえる戦隊達。

鍋の上、握りしめたアイテムからボタボタと滴る汁が、そのまま湯気を上げる中身へと落ちる。

──ポヒョン

間の抜けた音がして、煙をひとつ吹き上げた鍋の中身は……サラリとした透明度の高い酸っぱそうな液体へと変わっていた。

「ば、馬鹿な……『酸っぱい葡萄汁』だとぉおおおお!?」

【キツネの葡萄】…品質★

何故かキツネが持っている葡萄。

とても酸っぱい。

俺が鍋の上で絞ったのはコレの汁だ。

ポーション系レシピよりも完成品優先度の高い謎のアイテム。

論丼ブリッジさんの著書でもアンチレシピのような結果が報告されていたコレならと思ったが、当たりだったな。

「馬鹿な……我らの叡智が! たかが葡萄ひとつでぇえええ!!」

悔しげに鍋を覗いて呻く錬金術士へ、自害出来ないようにNPCを拘束し終えた戦隊が勝利宣言のように握り拳付きで決め台詞を放った。

「見たか! これこそが仲間の力!」

「ヒトにはそれぞれ役目があるのよ!」

「それを分からないお前達に、我々は決して負けはしない」

そしてシュババッと手足を動かし、メンバーが揃ってビシィッと綺麗に並んだポーズを決めて……レッドさんがポイッと背後へ小石を投げた。

「「「「「我ら、カラフル戦隊フエルンジャー!」」」」」

背後で小規模な爆発。

……そういえば、わざわざ魔道具で起こしてるんだったな、その画面効果。