作品タイトル不明
ユ:そう簡単には終わらない
無事に合流して、石像にされているNPCを確保。
左腕でキーナを抱えて、右手に短剣。戦隊の後について地下を走る。
敵対錬金術士のアジトは、山の麓に地下を掘って作られていた。
入口こそ小さな駐屯地のようになっていたが、結婚指輪が指した位置はそこからかなり外れていたから、それなりに広く地下に展開しているんだろう。
突入する時は、戦隊イエローさんが高レベルの【土魔法】と【石魔法】で直通のトンネルを掘った。
戦隊の拠点は地下に秘密基地のように作っているから、それを全部担当しているイエローさんの魔法はかなりのレベルになっているらしい。あっという間だった。
トンネルのおかげで、入るのも真っ直ぐだったし出るのも真っ直ぐで、実に楽な逃走経路だ。
……と、思っていた。
さほど広くない通路を駆け抜けて、そろそろ外……という頃に、目の前を走っていた戦隊達がグワンと歪む。
「おお?」
「えっ?」
水面の波紋のようなエフェクトだけを残して、一瞬で掻き消えた戦隊の姿。
わけがわからないまま立ち止まる、残された俺と相棒。
「何だ?」
「えっ、戦隊みんな消えちゃった」
何が起きた?
近くに敵の反応は無い。
考えられるとすれば……アジトに何か仕掛けがしてあった?
「……『石像を持ち出そうとしたら何かある』とか?」
「……石像を持ってなかったレッドさんも消えてて、俺達は残ってるから……『石像を持ち出そうとしたプレイヤーと、近くにいる同パーティが対象の何か』……かな」
「あー、そっか。パーティ別だもんね」
即死トラップでは無いはずだ。エフェクトも死に戻りの時の物じゃなかった。
あの石像を外へ出したくないなら、十中八九、戦隊はアジトのどこかへ引き戻された可能性が高い。
まさか味方の誰かが何も言わずに何らかの手段で安全圏へ飛ばした、なんて事も無いだろうしな。
つまり。
「……多分、アジトのどこかに飛ばされたんだろうな」
「うわー」
問題は俺達だ。
場所が場所なだけに、ここでうろうろしてもいられない。
俺はキーナを降ろして、会話を念話に切り替える。
(さて、どうする?)
(んーと? どうしよっか?)
(じゃあ……選択肢、三つから選んで。アジトの中に戻るか、外の戦場に行くか、参加はここまでにして帰るか)
意図は簡単だ。
アジトに戻るのは、戦隊を探して援護する事。
外の戦場に行くのは、大乱闘現場に合流して戦力になる事。
そして帰るのは、正体がバレないようにするのを優先する事。
意図を理解した顔で、キーナは軽く思考した。
(相棒の疲労は大丈夫?)
(俺? ……まぁ、なんとかなる)
(そう? 無理してない?)
(してないよ。……つまり帰りたくはない?)
(うん)
(だよな)
森夫婦バレのリスクはあっても、こんな中途半端な状態を放置して帰るのは、俺も相棒も気が引けた。
まだ、被害者NPCの避難さえ完了していない。
(ただ……変装してないから、縛りプレイにはなる)
(だね。ここから変装して『途中参加ですー』ってするのもおかしいし)
(どっから来たんだよってなるよな)
変装無しの状態で俺達がどれだけ役に立てるのか。
アジトの攻略か。
外の戦争か。
ぶっちゃけどっちもどっちだ。
アジトには戦隊のレッド。
戦争にはガルガンチュア。
火力に関してはどっちも過剰なくらいあると思う。
それでも、配分や状況を加味して考えるなら……
(……アジトかな。石像守って戦うの大変だろうし)
(だよな)
敵の錬金術士は変わったアイテムを使ってくるから、さっきみたいな罠があったら一筋縄では行かないだろう。人手はあって損は無い、はずだ。
(そもそも僕が首突っ込んで見つけた石像だしね)
(それはそう)
手を出したなら、最後まで出し切ろう。
(じゃあ戻るかー。相棒はネモで透明化してたんだよな?)
(そう。これなら光学迷彩に見えるだろうし)
(相棒用の光学迷彩装備もあった方がいいな……とりあえず今はネモで頑張って。で、焼け石に水かもしれないけど、覚えたての【隠密】使って)
(隠れながらいくの?)
(そう、そうすればある程度敵を無視出来る。透明なら霊体化して俺に掴まっていいし、それなら俺の速さで走れるし、俺も両手が空く)
(なるほど)
光学迷彩装備は今となっては定番装備だ。誰が持っていてもおかしくはない。だから俺もこれは堂々と使う。
はぐれないように手を繋ぎ、俺はマントで、キーナはネモで、光学迷彩モード。
繋いだ手から、キーナが霊体化して浮かんだのを感じる。
手を引いて首元に誘導すれば、ふわりと腕が肩に回った。
(オッケー)
(よし、戻ろう)
侵入トンネルを逆走して、アジトの中へ向かって走る。
すぐに見つけられるといいけどな。
(気になるもの見つけたら教えて)
(はーい。あ、【解析】とかも使ってみよっか)
(ああ、いいんじゃない)
遠くの戦闘の音は距離が近くなったのか少し大きくなっている。
俺達がいてもいなくても大勢に影響はないと思うが……まぁここまで来たら、やれることはやろう。