軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:迅速な対応と、小さな目覚め

最後の巨大ウミウシの目を潰して、軽く息を吐く。

軽く後退して、アリーナ席とフィールドを区切っている柵に着地。不要になった目隠しの魔眼を解除。告死紋は維持しながら、ザッと広範囲を確認した。

一般NPCの避難はおおよそ完了したらしい。観客席はヒトが減って、開けた戦場へと姿を変えていた。

そして所々に捕縛した敵対獣人が転がっている。

ボロ雑巾のようにボコボコに敗北してから縛られているのもいれば、ほぼ無傷の状態にも関わらず何かの力で強く拘束されている奴もいた。

非戦闘員の避難が済めば、当然誘導に回っていた人員が戦力として復帰する。

こっちの戦力が相手を上回れば、たとえ生け捕りの方針であっても後は時間の問題だ。

現にフィールドには余裕が出来た高レベルプレイヤーが突撃してほとんどの獣人を捕縛済。

そして巨大ウミウシも、俺が魔眼を引き付けている間に、プレイヤー達が王様達と一緒にレイド戦よろしく集中砲火を浴びせて。ちょうど今、撃破した所だった。

よし、王様からの指示もこれで完遂だ。

「残り5人ー!」

「捕まえられる人、お願いしまーす!!」

そろそろ終わりそうだな……いや、まだ結晶が残ってるか。

観客席とフィールドの間あたりに浮かぶ、複数の使徒の結晶。

闘技場のシステムに干渉して、巨大ウミウシをスポーンさせてからは沈黙していたから、誰もが獣人を優先して後回しにしていた。

何人かが殴っているから、俺もそっちを攻撃するか……

と、思った時だった。

再びバチバチと派手に反応を始める結晶。

プレイヤーと王様達は警戒して身構える。

敵対獣人達は……呆気にとられたような、驚いた顔をして結晶を見上げていた。

まさか予定に無い事態なのか?

数個の結晶はクルクルと回りながらさらに高く浮かび上がった。フィールドの中央へと飛んで集まって……ひとつの大きな結晶へと姿を変える。

そして……結晶から大量のモンスターがスポーンした!

「【ダブルクリエイト】!!」

「【フレイムクリエイト】!!」

「【サンダークリエイト】!!」

予測を立てていた魔法使いタイプの戦闘勢がすかさず魔法を放つ。

結晶真下に広がる溶岩。

荒れ狂う炎と雷の渦。

全方位へと広がろうとするモンスターの群れを、力任せの広範囲魔法で押し留める。

「波状攻撃! 撃てる奴は適当に続けぇえ!!」

「途切れさせんなよ! 広がったら地獄になるぞ!!」

「今のうちに捕まえた獣人どっかやれー!!」

そうだ、拘束した敵対獣人をどこか安全な場所へ運ばないと、あれに襲われて殺される。

とはいえ、無闇にオーブに接触させていいものか分からない。それで外に出るのかも分からないし、拘束しているとはいえ一般NPCを逃がしたのと同じ場所へ送るのはマズいかもしれない。

一瞬悩んだ直後、すぐにアンサーを出したのはカトリーヌお嬢様だった。

「拘束済みの獣人さんはこちらへ!! 安全地帯を作ります!!」

ひとつのオーブ付近で、誰かの【石魔法】が観客席を押し退ける。

魔法陣が刻まれた石がステージのように土台となり、その魔法陣へ麗嬢騎士団のメンバー数人が掛け声と共に魔力を流した。

そして中央に立った1人が唱える。

「【緊急避難所構築】!!」

魔法と呼ぶにはあまりにも無骨な詠唱の文句。

しかしファンタジーゲームは特に頓着する事なく、頑丈な石のドームをその場へと作り上げた。

なるほど、あそこに拘束した獣人を集めれば守りやすいな。

「【ツリークリエイト】!」

近くで聞こえた声変わりシロップ特有の声に振り向くと、キーナが拘束した獣人1人につき木を1本生やし、歩かせて運んでいるところだった。

……足は遅いが、一度に複数運べるから効率はいいか。キーナの筋力ステだと、そもそも1人も運べなさそうだもんな。

見渡す限り、避難の人手は足りている。

だったら……俺はさっさと結晶を片付けに行くか。

透明化は継続したまま、空中を走って結晶の方へと向かう。

敵が溢れて乱闘にならないように、結晶は激しい魔法攻撃の嵐に包まれていた。

色んな属性の範囲魔法に撃ち落とされて、スポーンと同時に消えていくモンスター達。

……王様に挑戦する条件を満たしたプレイヤーを相手にするには、レベルが低い気がするな?

これだと、乱闘になった所で、拘束していた獣人くらいしか倒せないんじゃないか?

透明化したままボウガンを撃っていると、近くを飛ぶ鳥獣人のプレイヤーが音で驚いてバランスを崩しかけたので……俺は武器を弓に持ち替えた。

刻んだ無詠唱刻印で【追い風撃ち】を起動する。

引き絞る。

結晶を狙って……放つ。

その瞬間、弓についていた卵が、割れた。

── パキ ン

小さな小さな卵が孵る。

弓に後付けしていた鳴管を飲み込んで。

俺と一緒に敵を見据えるような位置に、眼球のような宝玉が目覚める。

──使用中の武器が、魔武器として誕生しました。

──所持特性『弓引き軽量化』

──『音無し鳥の鳴管』との同化による追加特性

──『無音射撃』『鳴弦衝撃波』

──魔武器は名前をつけると新しい武器への付け替えが可能になります。

──【悪魔使役】スキル取得

……すごいタイミングで魔武器になったな。

まぁ細かい確認は帰ってからだ。

次の矢をつがえて引き絞る。

『弓引き軽量化』の効果なのか、さっきよりも少ない力で安定して引く事が出来た。

放つ。

弓に『音無し鳥の鳴管』を取り付けた事で得ていた、矢を放つ時に音が鳴らない効果は継続してそのままだ。それが『無音射撃』なんだろう。

矢は敵と魔法の間をすり抜けて結晶へと命中。

……うん、使いやすくなったな。

とはいえ、やる事は変わらない。

魔法の波状攻撃が途切れて敵が溢れる前に、結晶を始末しないと面倒な事になる。

他のプレイヤーと一緒に、俺は使徒の結晶が砕け散るまで、ひたすら攻撃を叩き込み続けた。