作品タイトル不明
キ:国王陛下登場
会場で人口密度の薄めな所を探して……僕らは気持ちヒトが少なく感じる一角にやってきた。
手合わせをするフィールドの出入口が真下にあって、入ってくる選手とかがちょっと見えにくいから人気が無いのかな?
とは言っても誤差みたいなものだけどね。
ちゃんとフィールドの上空に、イベントでちょいちょい使われてる巨大スクリーンみたいな物が浮いてるから、始まったらちゃんと戦ってるヒトの姿はバッチリ見えると思う。
そんな一角の後ろの方、端っこの席を確保してしばらく待機。
順調に席はヒトで埋まっていく。
殆どは、のほほんと『スポーツ観戦に来ましたー』って感じの街人っぽい格好。多分一般NPCなのかな?
兵士じゃないけど、思いっ切り戦闘装備っぽいヒト達はプレイヤーかもしれない。お嬢様クランの制服も会場のあちこちに散ってるのが遠目に見える。
……あとは、フード付きマントで体を覆っているヒトがチラホラ。
あ〜あ〜あ〜あ〜、その雰囲気は見覚えがありますねぇ!
ケモ耳とか尻尾で押し上げられた輪郭のフード付きマント!
(獣人系の敵対組織かな?)
(かもしれない。とりあえず、マントの隙間からチラ見えした服は錬金術士っぽくはなかった)
って事は、うちのキャトナちゃん兄弟を攫って酷い事した一派ですねぇ! うーん、ギルティ!
そしてイベント開始時間。
兵士っぽいヒトがイベント開始を宣言して、華やかなファンファーレが鳴り響いた。
(このイベントの司会は実況妖精ちゃんじゃないんだねぇ)
(まぁ、普通にクエストもあるからなぁ)
(あー、そっか。実況妖精ちゃん達も警備クエストやってるかもしれないもんね)
楽隊の演奏と湧き上がる歓声に包まれながら、スクリーンに1人の男性が大写しになった。
くすんだ赤毛の髪とヒゲ。
王冠は被っていないけど、威厳と迫力に満ちた不敵な笑顔。
筋肉質の体に使い込まれて傷だらけの鎧を着込んで、マントだけは鮮やかな新品の緋色。
煌めく沢山の勲章と、輝石がいくつも嵌め込まれた身長程もある大剣。
ククロスオーヴ王国の国王陛下が、冒険者時代の装備を引っ提げて意気揚々と会場入りした。
(強そう!)
(うん、強そう)
そして王様めっちゃ人気! 会場に黄色い声が響き渡ってるよ。王様が軽く片手を上げて周りを見ただけで黄色い声が3倍くらいになった。イケオジアイドルかな?
僕らの席からは、下のフィールドを歩いて進む王様の後ろ姿が見えた。
メインの王様が到着した所で、改めてイベントの詳細の説明が入った。
まず、外の通常フィールドでは生誕の神の加護により冒険者同士の相打ちが無いようになっているけれど、闘技場内では訓練のためにそれが解除されているので気を付けて下さい。あと一般人はそもそも冒険者のような加護が無いので特に気を付けて下さい、って事。
けれども闘技場なので、聖女が生誕の神の力を借りてどれだけ瀕死の重傷を負っても死なないようになっているので安心ですよーって事。
あと、観客席と試合をするフィールドの間には魔法で防壁が張ってあるので、安全ですよーって事。
……まぁこの辺はゲームシステムに設定をこじつけてるやつだね。それを改めてアナウンスしている感じ。
そして王様が今回持ってきた宝剣の力により、挑戦者は王様と戦う事で強くなれるので、全力で頑張ってください。という鼓舞で前置きは終了。
さぁイベント最初の腕試し挑戦者は……もちろん騎士団長ラッセル君です。
騎士団長さんも人気が高いから、会場の歓声は最高潮。
ラッセル君は真面目な顔で……でも苦笑いめいた笑みを口の端に浮かべて一礼。
王様はそんなラッセル君を面白そうな顔で見ていた。
(そういえば、騎士団長が戦う所初めて見るかも)
(同じく)
β時代はまだ騎士団長じゃなかったから前線に出る頻度高かったみたいで、共闘したプレイヤーもいるらしいけどね。
今はフィールドで演習なんかにかち合うと、討伐クエストが出て共闘する機会があったりするんだって。僕らはあんまり狩りでフィールドうろつかないからねぇ。
お互い剣を構えて向き合う。
そして兵士のカウントダウン。
『3……2……1……GO!』
同時に飛び出した両者、まずは力強く剣をぶつけ合う。
そこから二回、三回、と打ち合い、しばらくはお手本のような演武が繰り広げられた。
うーん、僕はあんまり対人の上手い下手が分からないから、どっちも流れるように動いててすごいなーって印象なんだけど。
……ところが、どちらも同時に大きく後ろへ下がった、次の瞬間から動きが変わった。
速度が上がり、重心が下がる。
踏み込みが力を増して、叩きつける武器の音が荒れ狂う。
騎士団長の目は鋭い光を宿し、王様の表情は凶悪な笑顔。
そして最後に魔法を詠唱。
騎士団長が炎を、王様が雷を、それぞれ武器に宿して衝突し──轟音と共に派手な爆発が発生した。
煙の中から、吹っ飛んで地面を転がったのは騎士団長。
歓声と悲鳴が混ざり合う観客席に、爆風の名残の風だけが届く。
『一本! そこまで!』
あっさりと終了宣言。
さっきの爆発に負けず劣らず弾ける歓声。
ボロボロで、それでも立ち上がろうとする騎士団長に駆け寄る兵士達。
王様は首をゴキゴキ鳴らしながらそこへ近付き、ようやく立ち上がった騎士団長の肩を叩いて労った。
(ふあ〜……途中からギュンッて凄くなったねぇ)
(うん、あれは慣れてる。いつもあんな感じで訓練してたんじゃない?)
(そっか〜)
本国のお城にも、こっちの闘技場みたいに全力で訓練出来る所があるのかな。
そんな感じで初手のNPC対NPCの試合が終わって、相棒が僕に問いかける。
(どう? 怖かった?)
(んー……ホラーよりは平気だけど……)
(だけど?)
(急に自分に向かってこられたらピャッ!?てなるかもしれない)
(だろうね)
ああいうのと戦うなら、これから戦うぞーっていう心の準備がしたいかな。