軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:結晶幻獣のしていた事

音につられて視線を上げる。

そして目に入った光景に、思考が真っ白になった。

キラキラした宝石の上に鎮座していた、黒い宝石化していたドラゴンの骨が。

パラパラと土埃を落としながら、ゆっくりと動き出していた。

「わぁーお……」

「……」

僕はポカーンとしたまま見上げていただけだけど、この時の相棒は『エネミー表記が出ないから、即戦闘ではないな』って確認しつつ見上げてたらしい。さすが相棒。

僕らの前で通せんぼしてたハリネズミ幻獣ちゃんは、その音と振動でドラゴンの骨を振り向いて、大慌てでピョンと飛び跳ねた。

「わわわわわっ!? ド、ドラゴン様ー!?」

「……そろそろ頃合いかと目覚めてみれば……何をしておるのだ、騒がしい」

迫力のある骨から響いたのは、低くて渋い雰囲気の男性の声。

呆れたような声色でハリネズミ幻獣ちゃんに声をかけながら、ゆっくりと欠伸をするように天を仰いで口を開けて閉じる。

そして頭蓋骨が僕らの方へと向いて、2度見した。

「猿!? ……いや、違うな……その出で立ち、もしや不死鳥の噂に聞くヒトの子とやらか?」

怪訝そうなドラゴン(骨)さんの言葉に反応したのはネビュラ。

「……ヒトの子を知らぬと? よもや相当長い事ここで死んだままか?」

「む、そちらは死の精霊だな。左様、お前の言う通り、吾輩は死んでからそれなりの時をここで……」

シリアスな雰囲気でネビュラの問いに答えていたドラゴン(骨)さんは、確かめるように動かした自分の前足を見てギシッと音がしそうな感じに硬直した。

前足……そう、キラキラと煌めく黒い宝石に変質している骨を見た。

「……おい、結晶のハリネズミ幻獣よ」

「トゲェ!?」

「吾輩はお前が『死体を飾り付けても良いか?』という言葉に是と返しはしたが……死体を結晶にする許可は出しておらぬぞ?」

ドスの効いた声で問われたハリネズミ幻獣ちゃんは……思いっきり目をそらし、分かりやすく口を尖らせて素知らぬ顔になった。

「えー? 結晶幻獣にとって『飾る』とはすなわち『結晶化』みたいなところがありますトゲ? だからこうなるのは当然と言うか必然と言うかぁー、ハリネズミ幻獣はお仕事頑張ってますのでこれくらいのご褒美はあって当然というかぁ〜」ドスン!「ごめんなさい!」

んん~、言い訳の途中に叩き込まれた足踏みひとつで即謝罪したあたり、これは確信犯。

勝手に死体を宝石にされたドラゴン(骨)さんは、「はぁ~……」と深い深い溜息を吐いた。

「もう良いわ……そんな事より、アレは大丈夫なのであろうな?」

「あー、大丈夫と言えば大丈夫ですし、ダメと言えばダメですトゲ。やはり、ひと欠片とはいえ『滅び』を封じるなんて、そう簡単に出来る事ではありませんトゲ」

んんん?

なんだか聞き捨てならない単語が聞こえたぞ?

「『滅び』を封じるだと? お前達は何をしておったのだ?」

険しい声を出したネビュラに、ドラゴン(骨)はバツが悪そうな様子でカリカリと頬骨をかいた。

「うむ、吾輩の生前の話になるが……この世界に『滅び』が迫ってそう経たぬ頃に、ちとそこそこ強力な『滅び』に体を蝕まれてしまってな……このままでは魂まで滅すると思い、この幻獣に協力を要請したのだ」

「結晶は生命から遠くなれる物。だからドラゴン様を蝕む『滅び』を、結晶の中に閉じ込めてしまう事にしたのですトゲ!」

ドラゴンさんとハリネズミ幻獣ちゃんの作戦はこう。

まず、そもそもドラゴンさんの体が死ぬのはもう避けられそうになかったから、せめてドラゴンさんがその身に受けた『滅び』を心臓に集めた。

そしてその心臓を生きたままハリネズミ幻獣ちゃんが結晶化。

さらに強固な結晶で包んで『滅び』が外へ出ないよう、ドラゴンの命ひとつ滅ぼした所で終わるように押し留めようとした。

それによりドラゴンさんは死亡。

魂は死の海には向かわず、自分の判断の結果を見届けるため霊体のまま幻獣の保護下で眠りについた。

そしてハリネズミ幻獣ちゃんは、亡骸と封じた心臓と『滅び』の経過観察を行っていた。

……って感じらしい。

「ほら、どうせなら亡骸も結晶化してしまえば『滅び』の残滓とか残ってても良い感じに抑えられるかもしれないトゲ? だからこれは当然の処置なのですトゲ」

「その場しのぎで適当な事を言うでないわ。どうせ欲望に抗えなかっただけであろうに」

「テヘトゲ」

悪びれないハリネズミ幻獣ちゃん。

それを尾の骨で小突き回すドラゴン(骨)さん。

呆れた様子で溜息を吐くネビュラ。

そんな三匹によるそこそこ重要そうな会話を、僕と相棒は飲み物片手に聞いていた。

「……で、そうやって死んでる間に、地上ではヒトの子が入植開始してたんだね」

「そうトゲねぇ」

「ならば何故起こして言わぬ」

「いやぁ〜、起こすほどの事じゃないかなぁーって思いましたトゲ。……まだ亡骸の結晶化も終わってなかったし」

「おいこら」

「……その心臓ごと封じた『滅び』はどうなったんですか?」

「どうもなってないトゲ」

そう言うと、ハリネズミ幻獣ちゃんは少し離れた所に大きな卵のような結晶を出した。

分厚い結晶の層の奥には、赤黒いドロリとした色が閉じ込められているのが見える。

「隔離と維持で限界トゲ。結晶が耐えきれなくなると滅びかけるから、定期的に塗り重ねないとダメトゲ」

「うぬぅ……やはりそうか」

「これは仕方あるまい。生誕の神を主神とするこの世界には相性が悪すぎるのだ。死の精霊たる余とて、完全な消滅をもたらす『滅び』は死なせる事が出来ぬ」

あー、この世界の『死』って、完全な生まれ直しの一部だもんね。

『死』が終わりじゃないから、終わらせてくる『滅び』には勝てないのかな。

でも、定期的に包み直さないといけないのは、ハリネズミ幻獣ちゃんが大変そう。

「【封印魔法】でも封じれないの?」

僕の中で封じると言えばそっちなんだけどな。

「【封印魔法】トゲ?」

「なんだそれは」

あ、この子達は【封印魔法】知らないんだ。

僕は【封印魔法】の仕様を簡単に説明した。

「でも、その『滅び』に耐えきれるかどうかはわかんないけど」

「ふむ……しかし試す価値はありそうだな。そこなヒトの子はできるのか?」

「んー、属性ひとつだけなら?」

前に拉致された時の封印パズルゲーム抵抗で【封印魔法】のレベルが20になったから、他の魔法との混合は出来るようになってる。

「では試してみてはくれぬか」

「いいよー」

ものは試し。

僕は『滅び』を閉じ込めている結晶に少し近付き魔法をかけた。

「【ダブルクリエイト】」

【封印魔法】と【火魔法】の混合。

イメージは、今『滅び』が結晶っていう入れ物に入ってるから、それを火の縄でギュッと縛り上げるような感じ。荷造りかな?

僕の魔法の炎が結晶を取り巻いて……そして僕のMPがギュン!と減った!

「ちょちょちょ! 待って待ってMP足りない!? あーっ!!」

失敗エフェクトじゃないからやり方は間違っていないはず。

でも僕の魔法は、僕のMPを全部持っていってそれでも足りなかったのか。封印は結晶を縛り上げた直後、すぐに解けて消えてしまった。

「重っ、これは今の僕じゃ無理」

「……もしくは、1人じゃ足りないのかもしれない」

あー、それはあるかも。

何にせよ、今この場で何かの手が打てる物では無さそうだった。