作品タイトル不明
ユ:注文と称号と注文と
色々確認した俺達の今日の予定は、素材を職人に持ち込む事と、城へ行ってちょっと前に見た夢の内容を報告する事。
持ち込む素材は、キーナが死霊魔法使いのアジトで手に入れたこの2つだ。
【告死獣の毛皮】…品質★★★★
死を告げる闇色の獣の毛皮。
死に関わる事柄と親和性が高い。
【音無し鳥の鳴管】…品質★★★★
聞こえない声で鼓膜を破る鳥の、声を発する器官。
せっかく良さそうな物が手に入った事だし、新しい装備を作ろうと思う。
なので、まずは変装していない状態でピリオノートの露店広場とプレイヤー街に向かおう。
「もう冬用のケープはいらないかな」
「暖かくなったしな」
転移オーブからピリオノートへ。
春のアニバーサリーが近いピリオノートは、雪化粧が消えて若草が生え始めていた。街路樹も新芽が萌え始めている。
植木鉢や家庭菜園の準備をしている住民もチラホラ見えた。春を感じる光景だ。
「あ、見て見て。桜の木植えてるよ」
「……ああ、あれか」
キーナが促す先には、桜の木がエルフの【木魔法】で自らうぞうぞと移動し地面に植わっていくのが見えた。
花祭りの準備なんだろうな。
リアルではどうだか知らないが、ゲームだから植え替えてもすぐ咲くのは確定だ。アニバーサリー期間には、満開の桜が見られるんだろう。
エルフの作業場を通過して、露店広場に入る。
シイタケさんがログインしているのは確認済みだ。
ヒトが増え始めている最中の広場を、いつものあたりへ向かって移動する。……ああ、いたな。
「こんにちはー」
「……こんにちは」
「はい、いらっしゃいませー」
毛皮を袋に入れたまま渡すと、シイタケさんは中を確認して面白そうに何度か頷いた。
「へぇ~、こりゃまた面白そうな……仕様はいつもの感じで?」
「……いつもの感じで。お願いします」
いつもの仕様……ようは俊敏重視の暗殺者スタイルでフードと口布付きだ。毎度おなじみで通じるのは助かる。
「了解です。今回は犬耳にしますんで」
「お、やったね相棒!」
「……ああ、うん」
まぁ【感知】上がるらしいからな……俺は獣耳はあっても無くてもどっちでもいい。
素材を預けて、完成したら個人メッセージを送ってもらう事にして店を離れる。
そのままウェーニンさん達の店に向かおうかと思ったが……キーナがとある店を見つけて立ち止まった。
「あ」
「……あ」
……それはヤーンボールシープの露店だった。
小さなヤーンボールシープの仔羊と、ヤーンボールシープの毛糸から作ったらしいグッズが販売されている。
公式ムービーで見たぬいぐるみまみれの女性プレイヤー……ジョセフィーヌが、ニコニコと笑顔で売り子をやっていた。
店に立てられた旗には、デカデカと『ヤーンボールシープ愛好会』『入会希望者歓迎』の文字。
もう堂々と表に出てきたな……ヤーンボールシープ愛好会。
「……ちょっと行ってきていい?」
「……好きにしなー」
俺はそわそわする相棒を露店へ送り出した。キーナは嬉しそうに小走りで店へと向かう。
そこそこ繁盛していてヒトが多いから、俺はそのままの位置で終わるのを待つ。
キーナはジョセフィーヌと笑顔でいくらかやり取りをすると……コインと地図のような物を購入して戻って来た。
「入会費払って会員証と本拠地のある開拓地の地図貰ったー」
「……そういう感じなのか」
「会報みたいなのは任意だからやめといた」
「……会報あるのか」
コインのような物は、前に潜入していたハンナが持っていた物と同じ、ヤーンボールシープの絵が刻まれた小さいメダルだった。
「本拠地にはヤーンボールシープいっぱいいるから、気が向いたら遊びに来てねって」
「……へぇ」
それだけならまぁ、観光できる牧場の会員証みたいな物か。
「相棒は入らなくてよかったの?」
「……いや俺はいいよ」
「そう? 入会したらなんか『ヤーンボールシープ愛好会会員』って称号が増えたよ?」
「……マジかよ」
称号増えるのか……ヤーンボールシープ愛好会。
「称号いらない?」
「……別にいい」
* * *
露店広場で用事を済ませたら、次はピリオノートのプレイヤー街にある弓の店に向かう。
今日はウェーニンさんは不在で、上弦弧月さんが相談に乗ってくれた。
「ほう……『音無し鳥の鳴管』か、面白そうな素材だな。音関係の素材は弓に使うと威力が上がる代わりに撃った時の音が派手になったりする事が多いんだが……まぁこの名前の素材だと逆に音が減るかもしれんが……どうする?」
「……じゃあ使ってみてください」
音は【闇魔法】でどうにか出来るからな。
新しく作るんじゃなく、今使ってる弓に組み込み改造する事にして、素材と弓を渡す。出来上がるまではボウガンだけでどうにかしよう。
弓を受け取った上弦弧月さんは、弓の状態を確認して……「お?」と声を上げた。
「……ユーレイさんよ、多分だが……これ、前に言ってた魔武器の卵じゃないか?」
「……え?」
「んう?」
上弦弧月さんが指した場所を覗き込む。
撃つのに邪魔にならなそうな所に……直径1センチに満たないくらいの小さな膨らみがあった。
「あ、本当だー」
「……小っさ」
「はは、弓だからな。デカい武器と比べるとデカい卵にはなりようがないんだろ」
小さすぎて気付いてなかったのか。
弓は全体が動くからな、影響が出ない所ってなるとこのサイズになるのか。
思わず苦笑いがこぼれ落ちる。
「ボウガンの方は?」
「……あー……これか?」
「それっぽいな。なんだそっちも順調に育ってるじゃねぇか」
ウェーニンさんに見せたいからスクショを撮らせて欲しいと言う上弦弧月さんにOKを出す。
戦闘勢の掲示板ではチラホラ増え始めていた魔武器の卵報告。
とうとう俺の弓もその使い込みに達したらしい。
「楽しみだねぇ」
「……うん」
こっちも改造が終わったら個人メッセージで連絡を入れてもらう事にして、俺達は店を後にしたのだった。