軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:ビーナスのエビ籠

バンに掴まって移動する優雅な海底散歩。

僕らはグイーッと水中を引っ張ってもらいながら、のんびりとすれ違う魚とか海藻とかイソギンチャクとかを眺めてる。

いいねぇ〜、水族館好きには堪らないね。

泳ぐの苦手だからダイビングはリアルでやる気にならないんだけど。フルダイブVRは手軽に水中を楽しめて良い。

ただMMOだから襲われる可能性はあるんだけど。

「……今襲われたらどうやって反撃すればいいかな?」

「むあ? んあおんおえあわまむいももみえわんお」

「何言ってるかわからんけど、バンに任せればいいんじゃない?」

「うん、そうだね」

サメと一緒なんだからサメにお任せすればいいよね。それはそう。

そして口の中にグミちゃんがいるのに喋ろうとするバンがちょっと面白い。

そんな感じでのんびり観光水泳していると、進行方向の海底が一段低くなった。

そして深い海の底から、巨大な白い筒状の網みたいな物が姿を現す。

「「おおー」」

それはものすごく大きなカイロウドウケツ。

村がまるっと入りそうなサイズの壺みたいな輪郭をしたカイロウドウケツが3つ、くっついた形で鎮座していた。

そしてその中に人工物がチラホラ見える。

「あそこだ」

「あれか〜」

巨大カイロウドウケツの開拓地は、地面に近いあたりに出入口がある。

住民NPCを脅かせちゃうと申し訳ないから、バンにはある程度近付いたあたりで杖の籠に戻ってもらった。気にされないかもしれないけど……一応ね?

グミちゃんは再び僕が抱っこ。今の内に声変わりシロップも飲んでおく。

海底に足をついて、相棒にグミちゃんを抱いてない方の手を引いてもらって、ぽーんぽーんと地面を蹴るようにして進む。

おお〜、パーティっぽい数人の人魚とすれ違った!

ファンタジーだなぁ!

そうして辿り着いた開拓地の入り口には、大きな貝殻で出来た扉があって、そこに槍を持った人魚の門番が立っていた。

そう……エビの人魚の門番が!!

(エビだー!?)

(エビだなぁ……)

見た目のインパクトが強いよエビの人魚!

他の人魚と同じように下半身がエビなんだけど、ちゃんとエビの尻尾で小さい足が複数並んでるリアルなエビの腹部!

で、本来エビの頭がある場所にヒトの上半身があるんだけど……普通の人間みたいな見た目じゃない!

ケモ度MAXなのかなぁー? エビの甲殻のフルメイル着てるみたいなヒト型の上半身!

腕は普通のヒトの腕で、手も鋏じゃないけど、やっぱりガントレットみたいにエビの殻で覆われてる!

そしてヒト型の頭の部分もフルフェイスの兜みたいになってるんだけど……ちゃんとエビっぽい目と口と触覚があるから、装備じゃなくて体そのものっぽい!

……すごい、不思議な生き物と相対した気分。

門番さんは、近付くと朗らかな声で挨拶をしてくれた。

「初めての方ですね! ようこそ『ビーナスのエビ籠』へ!」

「はじめましてー」

「……どうも」

開けてくれた貝の扉を潜って開拓地に入ると……中には色んな色をしたエビの人魚がたくさん!!

(エビの街だー!!)

(これはすごい)

さすがに全部プレイヤーって事は無いだろうから……住民NPCもケモ度MAXのエビなんだと思う。

ポカーンと街を見上げていた僕ら。

そんな僕らを見つけた誰かが、「おやおや」と言いながら近付いてきた。

「まさか森夫婦さんに訪問していただけるとは光栄ですエビ。『ビーナスのエビ籠』を開拓しました、『甲田 海老之助』と申しますエビ」

(エビだー!?)

(エビだなぁ……)

すごい! 開拓したプレイヤーさんからしてケモ度MAXタイプのエビ人魚だ!! 色が赤いけど茹で上がったりはしてない? 大丈夫?

「えっと……はじめまして、森女です」

「……森男です」

「アハハ、やっぱり初見さんはエビの人魚の見た目にビックリしますエビねぇ」

見た目どころじゃないけどね???

その語尾はあれなの? 語尾が自動で鳴き声っぽいやつに変換されるロールプレイ機能使ってるの?

その場合、この世界のエビは『エビエビ』って鳴くのかもしれない。

「ケモ度MAXにするとビジュアルこそイロモノですが、仕様はガチですエビよ? 強靭ステ素で高いですし、筋力も俊敏も高めなんで近接にお勧めですエビ。……まぁ【火魔法】もらうと一瞬で干物ですエビが」

「「でしょうね」」

干物通り越して焼きエビになりそう。

「おっと失礼、ついエビ語りを……お二人は観光ですエビか?」

「あ、えっと……うちのスライムのレベル上げに来ました」

「ああ! オキアミと昆布の狩場をご所望でしたかエビ。でしたらまずは念の為オーブ登録を済ませたほうが良いですエビね。こちらへどうぞエビ」

「「あ、はい」」

いそいそと歩き出すエビさんの後を僕らはついて行く。

……わぁ、たくさんある足がピロピロ動いてる。

「……その足って、全部自分で動かしてるんですか?」

「もちろんですエビ」

「わけわかんなくなりません?」

「慣れれば気になりませんエビねぇ。それにタコの人魚ほどじゃないですエビよ」

……人魚って獣人と比べると人外に片足突っ込みすぎじゃない?