作品タイトル不明
幕間:師弟の出会い
エフォ(EFO) のプレイヤー間において、『森一味の一員』と認識されている『夾竹桃』は、マイペースに竹林の中の道を歩いていた。
その前を、頭に葉を乗せた二足歩行のタヌキが先導し、その後ろを、妖怪らしい和風のゆるキャラめいたNPCが何体もちょこちょこと追いかける。
「この先の神社なんだなぁ」
「参拝して、『アヤカシの街へ行きた〜い』と願ってくださいまし〜」
「そうすれば『月夜桜の都』を御案内できますのでぇ」
「はいはい」
明るいのに、何処か薄暗い竹林の道。
それは夾竹桃が【呪術】で位相をずらしているからだ。
けれどもまさか、そのずらした位相が『アヤカシ』が隠れる隙間と同じだとは思わなかった。
転移オーブの登録ついでに観光しようと思った『日ノ出桜の都』はプレイヤーでごった返している真っ最中。
だから、ちょっと快適に街歩きしようと思って位相をずらしたのだ。
そうしたらアヤカシ達とバッタリ遭遇するなんて。
最初は少しおどろおどろしい見た目をしていたアヤカシ達は、瞬きする間にころんとゆるキャラのような見た目に変化し、目をキラキラさせて揉み手をしながら寄ってきたのだ。
「なんとなんと素晴らしい!」
「ヒトの想いの煮凝りたる呪いと祝福とを、そこまで見事に使いこなしていらっしゃるとは!」
「しかもしかも、その名は相応に世間に轟いていらっしゃる!」
「素晴らしい!」
「素晴らしいですぅ!」
褒められるのは悪い気はしない。
だから夾竹桃は、アヤカシ達の誘いを受けて、こうして神社へ向かっている。
「いやはや、『半妖』どころか『陰陽師』にも興味がお有りとは」
「将来有望!」
「是非是非、我らも配下に加えていただきたいですぅ」
そう、例え下心がバッチリガッチリ透けるどころかフルオープンだったとしてもだ。
夾竹桃は思わず苦笑い。
『半妖』という種族特性を聞いて、夾竹桃は悪くないかなと思っていた。
森一味の呪術士なんていうネームバリュー持ちではあるし、掲示板に一味の者として書き込む事があるから名前だけなら売れに売れている。
さらに、現状冒険者の中で呪術士として名が売れているのは夾竹桃だけなのだ。最近の拉致クエスト関係でNPCへの知名度だってうなぎ上り。
充分高い効果が見込めるだろう。
そんな事を考えながら、アヤカシ達と竹林を歩いていると……
「うそっ!? 【呪術】も必要なの!? ってそりゃそうですよね! 陰陽師と言えば呪術だって使いますよね!! うあーっ! 手がかりが無いぃいいいい!!」
なんとも悲嘆に塗れた声が聞こえてきた。
そしてこの声の響き方。
声の主は、どうやらこちらと同じく位相のズレた場所にいるらしい。
なんだなんだとアヤカシ達と顔を見合わせて、位相がズレたまま声のする方へと足を向ける。
道から外れた竹林の奥。
そこには、肩に鳳凰のような鳥のオバケを乗せた巫女姿の女性が、小さなコンニャクのようなアヤカシの前で半べそかきながら地面に崩れ落ちていた。
「ううっ……【死霊魔法】を習得して鍛えに鍛えて数ヶ月……アヤカシと出会えていよいよだと思ったのにぃいいいい……陰陽師遠いよぉおおおお……」
はぁ〜ん、なるほどねー。
夾竹桃は理解した。
ついさっき、アヤカシ達から【呪術】に達者ならと勧められた職業『陰陽師』
これは条件がアヤカシを使役している事に加えて、【呪術】と【死霊魔法】の習得が必須の職業らしいのだ。
せっかくだからなってみるかと思い、今度森女に【死霊魔法】について聞きに行こうと考えていた所だ。
この女性も同じだ。
彼女も陰陽師を志望している。
夾竹桃はしばし考えた。
オンリーワン呪術士の立場も魅力的ではあるけれど、最近の エフォ(EFO) 世の中における呪術士の重要性を考えると、そろそろ潮時かなーとも思っていたのだ。
使徒が絡んだ複数のヤバい組織。
対抗して被害を減らすには、やっぱり手数は多い方が良い。
呪い関係を自分ひとりで全て対応するのはさすがに無理がある。
加えて、日ノ出桜の都なんていう、もうひとつの初期地点が出来た以上、こっちをメインで活動する呪術士がいた方が良いのは自明の理。
とはいえ……奈落で手に入れた手記をいきなり図書館に寄贈というのも違うかなーと思っていたのだ。
そもそも【呪術】スキルは育てるのが難しい。
最も多く経験値が入る手段は呪い関係のクエストをこなす事。
今こそそれなりに街にもクエストはあるが、ゴリゴリに育てるなら奈落と行き来できた方がいい。
でも、住んでいないとはいえ、さすがに奈落の転移オーブまでフルオープンにはしたくない。というか、面倒くさいよねー。
登録させてくーださい! みたいな希望者に延々押しかけられるのはマジ勘弁。
と、なると……なかなか【呪術】を強化出来ないプレイヤー達は、今度は夾竹桃に押しかけるわけだ。それも面倒くさいよねー。スルーしたらしたで炎上するだろうし、やってらんない。
そういう意味では、目の前で悩み苦しむ女性は、中々に都合の良い存在かもしれない。
夾竹桃はひとつニタリと笑うと、周りでオロオロしているアヤカシ達にシーッと人差し指を立てた仕草を向け、森呪術士と呼ばれる姿に装備を変える。
そして、女性へ向かって、ゆったりと近付いた。
「やぁやぁ、そこのお嬢さん。【呪術】を習得したいんだって? 奇特だねぇー」
顔を上げた女性はヒュッと息を飲んだ。
「う、ウソッ……森呪術士!?」
「アヒャ、流石にこっちの事は知ってるかぁー」
何故か存在が知られていた事に対して、周りのアヤカシ達がドヤ顔をする。まだ契約も何もしてないじゃんキミたち。
「最近呪術士大繁盛しててさぁー、ちょっと手が足りないから? 弟子のひとりでも取ってみようかなーって思ってたんだよねえー」
「えっ、そ、それは……立候補してもいいやつですか!?」
食い付きが良い。
夾竹桃はアッヒャッヒャッと愉快に笑った。
前のめり、大変よろしい。
「いいよぉー……その覚悟があるならね?」
少し声を低くして凄んでみれば、巫女は一瞬怯んだものの、ギッと眼光を鋭くさせて力強く頷いて見せた。
「あります! よろしくお願いしますお師匠様!」
深々と一礼。
ノリも良い、素晴らしい。
決めた。
この弟子は必ずや死に戻る必要があると伝えた上で、奈落に叩き込む事にする。
「よろしい。じゃあまずは……何て呼べばいいー?」
「はい! 名前は 土御門園美子(つちみかどそのみこ) と申します!」
「なげぇ〜……ツチノコって呼んでいい?」
「よもやの!?」