軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:本とコンビとバレンタイン

サジェイクは、剣士系の職業で エフォ(EFO) を遊んでいる男性プレイヤーである。

実力はほどほどで魔法はイメージが下手なのか爆発しかさせられないが、仲間のエミリーという女性魔法使いのプレイヤーとコンビを組んでいるのでバランス良く戦う事が出来ていた。

エミリーはサジェイクのリアルの同年代の友達……いわゆるリア友だ。

黒くてレースやヒラヒラが多い装備を好み、体格に対してやけに胸が大きいのが特徴のアバターで遊んでいる。

お互いアバターの顔はプチ整形ボタンを使っただけでほとんど変えていないのに、彼女は胸だけやたら大きくなっていて驚いた。リアルは胸の膨らみが全然無いのに……特に指摘した事は無いが、もしかして気にしていたのだろうか。

彼女は『仲の良い友達』だ。

そうとしか言いようがない。

『幼馴染』と呼ぶには出会った年齢が微妙だし。

『クラスメート』よりはずっと仲が良いし、登下校の方向が同じだから一緒の時間はずっと長い。

お互いそれぞれ同性の友達はいるが、こうやって同じゲームで一緒に遊ぶのが日課になっているくらいには気が合うし、過ごしていて楽しい。

『ゲーム仲間』も少し違う。ゲーム以外にも勉強や外出も一緒にする。

だから、彼女は『仲の良い友達』だ。そうとしか言いようがない。

そんなエミリーが……最近ちょっと様子がおかしい。

具体的には、隠し事が増えた、気がする。

ある日の事。

いつも通りリアルでそれぞれ帰宅して、諸々済ませてログインし、いつもの待ち合わせ場所へと向かった。

すると、エミリーはそこでサジェイクを待ちながら、1冊の本を読んでいた。

見たことのない本だった。

高級そうな革張りで、表紙には魔法陣が書いてあったり輝石が埋め込まれていたりして、ファンタジーゲームにぴったりな『魔導書』そのものな見た目のそれ。

タイトルは見当たらなかったから、何の本なのかは分からなかった。

だが、それを読むエミリーがものすごく嬉しい時の顔をしていたから、内容が気になった。

「エミリー」

「……!」

声をかけると、エミリーは顔を上げて……すぐにその本をインベントリへと入れてしまった。

「何読んでたんだ?」

「……」

別に、おかしな事は訊いていなかったはずだ。

ただの本だったはずなのに。

エミリーは……少し気まずそうに視線を彷徨わせてから、人差し指を立てて口の前にもってきた。

『……内緒』の意。

え、なんで?

予想外の返事に、サジェイクは少し面食らって混乱した。

俺に言えない本って、何の本?

その時は「そ、そっか」と流してしまったが……心の片隅に居座ったその本の事は、何故か時折頭をよぎった。

エフォ(EFO) は全年齢ゲームだから、いかがわしい本ではないはずだ。

属性魔法を覚える本なら内緒にする理由なんてない。

内容を知られたくない本……日記か?

いやいや、それもおかしい。エミリーは読んでいただけで、書いてはいなかった……自分の日記を待ち時間に読むのもピンとこないし……

え、まさか交換日記?

……いや……いやいやいやいや…………てか誰とだよ?

いや別に、コンビで遊んでいたって自分の知らないフレンドがいてもいいのだ。

こっちが用事でインできない時にソロで遊んでいるかもしれないし。そこで友達ができたのかもしれないし……

ただエミリーはリアルだと変な男に絡まれやすいからそこが心配なだけだ。たぶん……きっと……この気持ちは心配のそれだ。

なんて思っていたら、それを肯定するかのように、エミリーがドレス姿の美女と立ち話をする事が増えた。

……いやその人知ってる。

なんか裏社会のボスみたいな人がアジトにしてる街の女幹部じゃん!

エミリー?

マジで最近俺の知らない所で何してるんだエミリー???

あんまり心配になったから、時々パーティを組むフレンドの虎太郎に相談してみた。

「……って感じなんですよ」

「なるほど……青春だね」

「えっ?」

「いや何でもないよ」

厳ついマッシブなアバターの虎太郎は、頭が虎だからあまり細かく感情が読めない顔でも分かるくらいにほのぼのとした笑みを浮かべて頷いていた。

「怒らせたわけではないんだろう?」

「怒ってはいないですね……」

「なら、落ち込んだりしていなければ、とりあえず様子見でいいんじゃないかい。女性は、女性同士でしか話したくない事とか、男に聞かれたくない事とか、色々あることが多いから」

「なるほど……」

「ああでも、トラブル防止のために、心配している事と心配な理由はきちんと伝えておいたほうがいいと思う」

「確かにそうですね!」

そう、心配なだけなんだ。

さすが妻子持ちの虎太郎さん、落ち着いていて余裕がある。

後日。

虎太郎のアドバイス通り、変なプレイヤーに絡まれていないか心配な事と、プレイヤー間のトラブルがあったら遠慮しないで言ってほしい旨をエミリーに伝えた。

エミリーは、何故か少し嬉しそうな顔をして頷いた。

そして差し出されるプレゼント。

バレンタインイベントのチョコレート。

『友達なんだから、友チョコを渡すのは何もおかしいことじゃない』とサジェイクに教えたのはエミリーだ。リアルでも毎年貰っている。

だからサジェイクは気楽に礼を言って受け取った。

……そこで、何故かふと脳裏をよぎった内緒の本。

もしもあの本が交換日記だったとして、その相手はたぶん友達だろうから、その友達にも友チョコを渡したんだろうか。

「……そういえば話変わるけど。前に待ち合わせの時に読んでた魔導書みたいなのって、結局何の本だったんだ?」

なんでもない世間話の流れなら、さらっと教えてくれたりして。

そんな目論見の問いに対する返答は……

……少し気まずそうに視線を彷徨わせてから、人差し指を立てて口の前にもってくる仕草。

『……内緒』の意。

「そっか」

ダメなのか。

まぁ虎太郎さんが言うように、男に聞かれたくない類いの事なのかもしれない、と己を納得させる。

けれど。

自分の知らない彼女がいるのかと思うと、何故か内心穏やかではいられなかった。