軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:闇の聖域にて

闇の聖域はかなり暗かった。

リアルの部屋の灯りの、消灯一歩手前にある小さな豆電球よりも暗い。

真夜中にカーテンを開けて月や星の灯りだけで目が慣れて室内を見る時のような。視界はそんな感じの、色彩が死に絶えた暗さ。

完全に真っ暗じゃないのはゲームだからなんだと思う。じゃないと、『闇の聖域』なんて場所、【夜目】のスキルがあっても視覚が仕事できる程の光源なんてないと思うし。

そんな暗い空間の中でも存在感を放ってるのは、奥に見える祭壇みたいな物。

粗削りに四角に近い形に削られた黒い岩が積み上がっている台のような物の上には……暗い部屋の中でもハッキリとわかる位に黒い球体が浮かんでいる。

……たぶんアレが目的のモノかな?

なんて考えながら観察していたら、祭壇の前に大きな半透明の狼が、ふわりと溶け出るように現れた。

死の狼精霊。

「よくここまで辿り着いたヒトの子よ」

ネビュラよりも大きな体の狼精霊は、 厳(おごそ) かに話し始めた。

「分け身を通して経緯は把握しておる。根源に触れ、我らに近しい存在となる事を望む……相違ないか?」

ちらりと見た相棒は、「はい」と短く答えた。

雰囲気がシリアス。

とても良いね、カッコいい。

返答を受けた狼精霊は、どこか満足そうな笑みを浮かべる。

「よかろう。ならばそれに相応しき力を持つか試してやろう。闇の根源より生まれ落ちたひとつとして、同じ根源に触れたヒトの子があまりにも脆弱では業腹である」

その言葉を肯定するかのように……空間の周りに流れ落ちる死の海の水の中に、仄暗い紫色の微かな光がいくつも現れた。

2つ並んでワンセットの光が、大きいモノ、小さいモノ、無数に滝の向こうに浮かぶ。

それは明らかに双眸で、そして全てが相棒を見ていた。

たぶんこれは……死の精霊達?

狼精霊と同じ、闇の根源から生まれた者達が、新たに仲間入りしようとしている相棒の品定めをしているような……

そうやって見ていた僕は……突然、半透明の黒いシャボン玉みたいな物に包まれた。

「わぁ!?」

「試練に挑む資格を持つのは分け身の主のみ。契約しておらぬ者は、そこで見ておれ」

「あ、はーい」

ようするに見学席だね。

うっかり巻き込まれたら死にそうだからむしろ助かった。ありがとうございます。

僕が入ってる闇シャボンはぷかりと浮かんで、いい感じに空間を見下ろせる高い所の角で静止した。

「相棒、頑張ってねー」

「うん」

軽く手を上げて応えてくれた、好き。

狼精霊が一瞬、ネビュラがたまにする『解せぬ』って感じの顔になった気がした。気のせいかな?

「試練は余と戦ってもらう。……とはいえ、根源と繋がる余を倒せるとは思っておらぬ。我らが認める程に力を振るい、我らが認める程に持ち堪えればそれで良い」

「……ネビュラは?」

「分け身を使うのは構わぬ。それは既に、お主の力であるからして」

「分かった。……地形は変わってもいいか?」

「……後で直すのなら構わぬ」

うん……柱とか床の粗い感じからして、闇の精霊ってたぶん建築得意じゃないよね。大地の精霊とかの方がそういうの得意そう。

ひと通りの確認を終えると、狼精霊はお座りの姿勢からゆっくりと立ち上がった。

グルルル……と喉で唸る声が、僕の所まで聞こえてくる。

「では行くぞ!!」

開戦の合図のような遠吠え。

……と、同時に、狼精霊を中心に床一面へと闇が広がった。

たぶんデバフか継続ダメージの類なんだと思う、相棒が舌打ちして跳躍したから。

「……【ロッククリエイト】」

相棒のお気に入り、初手で遮蔽を兼ねた足場を展開。

1段上がった所で地面の闇を避けながら、最初は様子見の射撃を撃ち込む。

対する狼精霊も様子見なのか、特に避けるでもなく矢を数発受けながら歩いて……そして突然力強く跳躍した。

大きく開いた口で、邪魔そうな岩の柱を噛み砕く。

足場を滑るように噛み付きを避けた相棒へ、更に前足で薙ぎ払った。

相棒はもうそこにはいない。

高い俊敏で追い打ちに対応して、別の足場へ跳躍しながら弓を構えた。

「【フレイムクリエイト】」

矢に炎が灯る。

周囲の気配が動揺する。

闇の聖域に、炎とはいえ光を持ち込まれる事なんて、きっと無かったんじゃないかな?

放った幾本もの火矢の内、何本かが狼精霊に突き立つと、狼精霊は見るからに嫌そうな顔をした。

でも闇の聖域だからか、矢の炎はあっという間に燃え尽きた。

プレイヤーの手を離れた光は、ここだとあんまり長く存在出来ないのかな?

でも相棒は、それを良しとはしなかった。

インベントリから取り出したのは油の瓶。

あれば何かと便利だろうって、買ってあった素材のひとつ。

その油を振り撒いて、唱える魔法の言葉。

「【フレイムクリエイト】」

暗い闇の聖域に、容赦なく炎が灯った。