作品タイトル不明
キ:1番怖くて見たくない夢
くっそマズイ柘榴を食べたら気絶したっぽい、キーナです。
別に不味すぎて気が遠くなったわけじゃない。
なんか霧の中みたいな白い謎空間を漂ってるから、こういうイベントが起きるアイテムだったんだと思う。
夢の中……なのかな?
確認したくてペタちゃんを出そうと思ったけど、そもそも身体の自由が利かなくて無理だった。
要するに、半分くらい強制ムービー視聴みたいな演出なのかな。それなら無駄な足掻きはしないで身を任せる事にしよう。
忘れ物の柘榴……つまりは、あの使徒ちゃんが忘れてしまった記憶とかなのかな?
もしかしたら、使徒ちゃんのカウンセリングに一役買う内容なのかもしれない。
ゆらりゆらりと、穏やかな大河に浮かんでゆっくりと流れているような感覚。
それが少し続いて……白一色だった視界に変化が起きた。
そして……
──死なな…で……
涙に濡れた声が聞こえた。
深く透き通った女性の声。
振り抜くと、霧で霞む向こう側に、黄昏の景色。
火色の空の下、黒く堕ちた地面の上に2人の人影が見えた。
男性は地に倒れていた。
目を閉じて、ピクリとも動かない。
青白く血の気の引いた顔。完全に脱力している身体。
その身体の所々が黒く隠れて地面と同化して見えるのは、酷い状態なのを隠している表現なのか。
そして女性は、そんな男の肩から上を膝の上にもたれかからせて、それを見下ろして泣いていた。
──ど…して
涙声のモノローグは、掠れて所々聞こえない。
──貴方も……私を…いて逝ってしまう……
あ、まずい……これはダメ。
──置…ていかな…で……
これはダメ。
これは僕に覿面に刺さるから。
──私には……貴方…か、いな…のに……
大切な人生のパートナー。
そうだよ、君しかいない。
君しかいないんだ。
──貴…だけが、私…一緒にいてく…たのに。
僕と一緒にいてくれるのは君しかいないんだ。
こんなに一緒にいて、落ち着けて、安心出来て、穏やかで幸せな気持ちになれるのは君だけなんだ。
──もう二度と会えない
もう二度とこんなに気の合う人には巡り会えない。
──いかな…で……
置いていかないで。
考えるだけで怖くてたまらない。
二度とその温もりに抱きしめてもらえないのを想像すると、心臓が締め付けられるような感覚に襲われて、涙がこぼれそうになる。
──い…ないで……
どこにもいかないで。
君がいないと生きる意味だって見出だせないんだ。
──……もう、イヤ
嫌と言うほど共感していた僕の耳に届いたのは……感情がゴッソリと抜け落ちた諦めの言葉。
──もう……全部……何もかも忘れてしまいたい。
そして、僕が絶対に選ばない、これ以上ないほど恐ろしい解決方法だった。
霧の狭間から垣間見えた、泣き崩れる女性の顔。
それは、あの図書館の裏側で座り込んでいた使徒と同じ顔で。
僕は、あの使徒の女性が何を選んだのかを理解する。
と、同時に
『……情けない』
今までのモノローグとは別人の声。
冷たく響くその声を、何処かで聞いた事があるような気がして。
そこで記憶の断片は終わりを告げた。
黄昏は消えて、白い霧も消えて、真っ暗になる夢の中。
あの子は、二度と会えないのかな、大切な人と。
それなら……この悲しみを二度も味わう事になる。
少しずつ、ぼんやりとしていた意識が改善されてきていたあの使徒。
あのまま進んで、もしもこの記憶を思い出したら……
……いっそ、死んでしまった男性のオバケを呼んだりする事は、出来ないのかな……
心の片隅でそう考えた途端、暗闇に包まれた視界の片隅に、長い長い髪の毛のような帳がひらり、ひらめいた。
そして細長い手が視界の上から、ひらり、1枚の羊皮紙の破片を僕に手渡して消える。
それを握りしめて……僕はボロボロと泣きながら夢の終わりを迎えた。
* * *
「なんだ……どうした」
「……っ、ぁ……ぅ……っ!」
「うん、大丈夫……よしよし」
泣きながら目を覚ました僕は、ひたすら相棒に縋り付いて泣き続けていた。
だって無理だよ……あれは無理だよ……僕が1番怖い事だもん。
これは駄目だって事でログアウト。
当然リアルに戻った所で、一度スイッチが入ったギャン泣きモードが解除されるわけもなく。
僕は嗚咽が収まるまで、どうにも出来ずに相棒の腕の中で温もりを確かめながら泣き続けた。
……明日が休みで本当によかった。