軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:フランゴの意地

フランゴが、天使になった。

……酷いパワーワードだな。負けず劣らず状況も酷いが。

当の本人であるフランゴは、呆然としたまま自分の背中に増えた翼を恐る恐る振り返った。

そしてバサバサと動かして、自分の身体の一部になっているのを確かめたんだろう。ギュッと眉間にシワを寄せて、血を吐くような声で叫んだ。

「っ…………何故!!??」

万感の想いが込められた叫び声。

まぁそうなるよな……神を威嚇したはずが重用されたような物だし。

ケロッとしているのはウニ先輩だけだ。

「うむ、見込み通りだったな」

「何がだ!? オレ様は今『神を喰い殺してやる』と言ったのだぞ!? それなのに……オレ様の身体にみなぎるこの命の力は、神のそれだろう!?」

全身全霊を込めたツッコミに、ウニ先輩は特に動じる事もなく淡々とフランゴに説明をした。

「良いか? まずこの世界の主神は、森羅万象を産み落とす生誕の神である」

うん、それは知ってる。

フランゴもそこは知ってたな。

「故に神は、強く生き抜こうとするモノを特に愛する傾向にあるのだ。お前はかつて世界までも喰らって生き抜いて来たそうだな? その気性こそ神が愛するそれそのものなのだ!」

「……その神を喰らうと言っているのにか!?」

「むしろそれ程に向上心が強い命こそ、神の寵愛の対象となる」

……マジか。

「そもこの世界の天使とは、『神の寵愛を受け、神への挑戦権を得る代わり、多忙な神の役目を僅かながらに引き受ける存在』の事を指す」

「……挑戦権?」

「うむ、神はお忙しいからな。我々との対戦をいつでもしていただけるわけではない。その挑戦の時間を工面していただくために、挑戦者である我ら自身が時間を作る手伝いをするのは道理だろう?」

まぁ……そうだな?

納得しかけた俺たちを正気に戻したのはフランゴだった。

「いやおかしいだろう!? 神が、己を討つ事を良しとするのか!?」

「なんだ、他所の世界の神は良しとせんのか? 不死鳥を直下の眷属とする神が、復活しないわけがない。死んだ所で、滅び消滅していないなら生まれ直すだけだろうに」

「そんなわけあるか!」

これはひどい。

常識のズレが大きすぎる。

ギャーギャーと納得のいかなさを訴えるフランゴと、それに冷静に答えるウニ先輩。

そんな2者を横目に見ながら、相棒とラウラさんが天使について話している。

「えっと、て、天使になる条件はですね。『神の見ている場所で、神に挑む意思を示す』事なんです」

「……って事は、森天使さんも挑もうとしたの?」

「は、はい……その、わ、私、入植直後にですね、ウニ先輩が来まして……『この地に住まうのならば、相応の力を示せ』と、お、仰って……」

「……うん」

「わ、私、特に何も考えずに……『えっと、神様を倒せばいいんですか?』と言ったら、天使の種族変更のあれそれが出まして……後は、ご、ご覧の通りです」

「あー、うん……なるほどね」

……ラウラさんも、脳筋だもんな。

なんだ天界は脳筋の巣窟か?

いつの間にかフランゴとウニ先輩も2人の会話に耳を傾けていて、フランゴはパカリと口を開きっぱなしで、ウニ先輩はうんうんと頷いている。

「滅びの使徒の事は神も気にかけておられるからな……ついに死んで死霊が生まれ直しの準備に入ったとなれば、神が見ているのも当然。ならば先程の言葉で天使となるのもまた当然。天使の翼と輪、そして光の力は、『その意気や良し!』という神からの祝福なのだ!」

「そんな馬鹿な!!」

そんな馬鹿なったって、現になってるからな……天使に。

(……ようするに、神様的には異世界の魂ガチャでSSR引いて、嬉々としてボイス確認してたら 癖(へき) にぶっ刺さったから、大喜びで強化素材ぶち込んだ感じなのかな)

(かな……)

フランゴ、めちゃくちゃ気に入られてるな……

そしてこの感じだと……他所の世界をいくつか滅ぼしているという事実も、この世界だと善悪どちらの枠にも入っていないんじゃないか?

ヒトのいなかった世界だから、弱肉強食の一部くらいにしか思っていなさそうだ。

混乱しっぱなしのフランゴに、苦笑い気味の声色をしたキーナが言う。

「フランゴ君的には嫌なの? 今まで通り狩って食べて強くなってオッケーって話なわけだけど」

改めてそう問うと、フランゴはめっちゃ悩ましいしかめっ面をして沈黙した。

……まぁ、たぶん嫌ではないよな。生き方を肯定されたわけだし。即拒絶しない沈黙は実に雄弁だ。

ただ、素直に認めるには色々と納得いかなさそうではある。

「神様的には大歓迎だろうし……いっそ僕らヒトとも仲良くなって一緒に使徒に一泡吹かせようよ」

敵の敵は味方。

そんな提案をすると、フランゴはまたしても『信じられない』って顔になった。

「貴様……散々殺し合ったヒトがオレ様を受け入れるわけがなかろうが!」

「いやそんなことないよ。むしろ大喜びされると思う」

「そんなわけがあるか!」

頑ななフランゴに、キーナはフランゴ君人形を取り出した。

「……なんだそれは」

「フランゴ君人形です」

「……何故そんなモノがある」

「みんなフランゴ君をかわいいと思っているからです」

「な……なん……?」

「あ、そ、それ私も入手しました! かわいいですよね。お、お祭りでフランゴ焼きも食べました!」

「オレ様知らぬ内に喰われていたのか!?」

若干の誤解が生じたな?

とはいえ、それが何故かフランゴには、何か飲み込める鍵ではあったらしい。

ものすごく渋い顔をしながら、絞り出すように言葉を紡ぐ。

「………………良いだろう。そうまでオレ様を欲するのなら、この世界に所属してやってもいい。オレ様が使徒を喰らうため、精々利用させてもらう事にする……いずれは神も喰い殺してくれよう」

「うむ、有望な新人だ。これは後輩に追い抜かれぬよう我らも精進せねばな」

「は、はい、ウニ先輩!」

「だが!!」

イイハナシダナーで終わるかと思えば、フランゴはそこで力強くbutをぶち込んだ。

「ヒトに与するかは別だ! オレ様はまだヒトには負けておらぬ! オレ様に致命傷を入れたのは沈黙の使徒であって、貴様らではない!」

それに応じるように、洞窟内に地鳴りが響き始め。

成り行きを見守っていた夢の幻獣達が、洞窟を見上げて言った。

「モン! 牢獄坑道の夢のルールがお上によって一時的に変更になるモン!」

「神様! そういうつもりなら事前にそういう夢を見せるとかするもんじゃないの!? お気に入りの居場所に突如決闘会場爆誕とか生誕クオリティの無駄遣いが過ぎるでしょうが!」

ギャーギャー文句を言うイモリ幻獣を他所に、フランゴは再び形態を変化させて巨大な姿で俺達を威嚇した。

形態変化しても、天使の輪と翼はちゃんとある。頭が増えた分、輪は巨大化して背中に背負うような状態になっていた。

「ヒト族よ、オレ様と共闘したいと言うのなら、かつての使徒のようにオレ様を下して見せるがいい! 相応の数がオレ様を下せたなら、貴様らを認めてやろう!!」

──《キークエスト『大食天使フランゴ』が開始されました》

──《このクエストをクリアすると、『大食天使フランゴ』が協力的になります》

そして流れたワールドアナウンス。

……これはあれだな? 緑の蛇精霊の時と同じタイプの、全プレイヤー参加型の討伐クエストか。