軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:キミの素性を夢に見る

ログインまだです。

仕事を終えて、日は暮れた後。

雪の降る中、マフラーに顔を埋めて白い息を吐きながらの帰宅。

寒いなぁ。

気温は氷点下。でも夏の蒸し暑さよりは寒い方がいい。

家に着くと、雄夜の作る晩御飯のいい匂い。

今日はリクエストのシチューリゾットだ。

「ただいまんどらごら〜」

「おかえりんとぶるむ」

雪を払い落として、荷物を置いてコートを脱いで……と、帰宅直後のあれそれをやっていたら「そういえば……」と雄夜が呟いた。

「 エフォ(EFO) のフランゴ関係が、なんか俺達待ちかもしれないってさ」

「むえ?」

フランゴ君が?

「え、なんで?」

「さぁ……?」

なんでも、ログインしたらフランゴ君の過去っぽいムービーが流れるんですってよ。

* * *

シチューリゾットを堪能してログイン。

……いつもなら拠点の寝室で目が覚めるのに、聞いた通りにムービーが始まった。

場面は暗いどこか。

見覚えのないそこは……人工的な部屋の中みたいだった。

自然の草木はひとつも見当たらない。複雑な模様の描かれたざらついた壁に囲まれた、そこそこ広い場所。灯りのない室内。

ムービーは、誰かの視点で見ているらしかった。

きょろりと見渡す視点主の周囲には、大きな虫とかトカゲとかがたくさん。

──『……腹が減った』

モノローグ。

うん、なるほど。確かにフランゴ君っぽい声だ。

でもちょっと、幼い? もう少し、無垢というか、邪気が無いというか。今のフランゴ君よりも、もう少し単純そうな感じの声色で。

腹ペコ宣言した後、相手を見繕って飛びかかった。

狩って、食べる。

幸いただのムービーだから、見ている僕にその感触は感じない。

今度は別の虫に襲われる。

戦って、返り討ちにする。

そして食べる。

ひたすらそれの繰り返し。

狩って、食べる。

返り討ちにして、食べる。

……このシチュエーション知ってるなぁ。

あれあれ、ホラーとかファンタジーの創作でたまに出てくる……蠱毒。

蓋をした容れ物に毒虫とかトカゲとかをいっぱい入れて殺し合わせて、最後に残った一匹を使う呪術。

……でも、ムービーの視点主からは、そんなドロドロしたモノは感じない。

狩って、食べる。

返り討ちにして、食べる。

それは、ただ生きるために必要だから。

恨みは無い。怒りも、悲しみも、不安さえも無い。

呪いなんて、概念すら知らないんじゃないだろうか。

勝ち続けて、食べ続けて、視点主はどんどん大きく強くなっていく。

視点主はそれを自覚している。

──『オレ様は強い』

それはただの事実。

そして確固たる自信。

──『強くなれば生きられる』

──『もっと強くなれば、もっと強い相手も食べられる』

──『食べればもっと強くなれる』

実にシンプルな弱肉強食。

もしかしたら、食べた相手は怒りや恨みや呪いを視点主にぶつけていたのかもしれない。

でも、視点主はそれを受け取らなかった。

認識すらしなかった。

もしもそんなモノがあったとしても、気にせず身体と一緒に噛み砕いて食べてしまった。そんなくらいの単純さ。

だから……

『おお……! コイツが生き残りか』

見るからに邪法を使ってますみたいなヒトが、この容れ物を開けた時も……

──『……獲れるな』

『なっ!? アッ、ガッ……馬鹿なっ……』

特になんの感慨もなく、喰い殺してしまったらしい。

そこからはもう止まらなかった。

視点主の無双ロード。

狩って、食べて、返り討ちにして、食べて、狩って、食べて、返り討ちにして、食べて……

そうしてこの視点主は、世界を食べ尽くしてしまった。

そうしたら、次の獲物を求めて世界を渡った。

色んな世界を狩って食べてを繰り返し続けて……

……それを延々と続けた先で、ついに視点主が負ける時が来た。

『アッハッハッハッ! こんなに単純な思考のヤツが、よくここまで喰らい続けたもんだ!』

瀕死の視点主を踏みつけているのは……全身をすっぽり黒マントで覆った誰か。

深く被ったフードの下で、唯一見える口元がニィイと嗤う。

『喰った相手を自分の身体に取り込んで、イイ感じに混ざっているけど……なんだ、魂はピュアッピュアなままじゃないか』

じっくりと視点主を観察していた黒マントは、面白そうに問いかけた。

『消えたくないかい?』

……そう訊かれたら、この視点主は『是』って答えるしかないよ。

だって弱肉強食。

生きる事しか考えずに生きてきたんだから。

そうして……この視点主は『咀嚼のフランゴ』になった。

胸を貫通した水晶片と混じり合って、ただ生きる以外の事を知った。

世界を噛み砕く、滅びの使徒になった。

一度死にかけたのと、使徒の力なんて慣れないモノを扱うから、まだ最盛期ほどの強さは取り戻せていないけれど。

それでもフランゴ君の望みはただひとつ。

──『世界を喰らいながら機をうかがって……』

──『いつか必ず、滅びの使徒を喰ってやる』

そう……混ざりあっても、何に成っても。

フランゴ君の目的は、ただ狩って食べて生きる、それだけだった。

……そしてプレイヤーに敗北し、女性の使徒に水晶片を砕かれて。

それでも、黙って消されてたまるかと足掻いて死んだフランゴ君は……どこか、井戸のような穴の中にいた。

そこに紫色のオーラのようなモノが揺らめく深い深い穴。

壁にあいた無数の小さな穴の中には、チラホラとヒトの姿。

──『……獲物はどこだ』

死んだと思ったけれど、まだ、存在はここにある。

それならフランゴ君がやる事はただひとつ。

──『強くなれば生きられる』

──『もっと強くなれば、もっと強い相手も食べられる』

──『食べればもっと強くなれる』

フランゴ君は……『夢の牢獄坑道』の穴の中に囚われながらも、強くなるための捕食対象を探していた。

「なんという食いしん坊脳筋!」

「……うん、おはよう」

ムービー終了。

ゲームログイン、拠点のベッドでこんにちは。

「フランゴ君……ビックリするほど過去編に悲しみが無かった!」

「そうだね……」

「野生のアニマルドキュメンタリー見てた気分」

「うん……そうだね」

「ね! 弱肉強食がちょっと強すぎて世界獲っちゃった☆ってだけだったもんね!?」

「ちょっとどころじゃないが」

脳筋極めすぎて蠱毒キャンセルからの実力で怪獣まで上り詰めたのがフランゴ君という存在だった。

「あの黒マントと会わなかったら、今もせっせとどこかの世界を食べてたのかな……?」

「かもね……ってか、あの黒マント、マッスラゴライベントで俺が会ったヤツだ」

「マジで?」

わぁ……まぁ、黒マントにフランゴ君が出会って使徒になってるから、やっぱりあの黒マントも使徒って事でいいのかな。

そうやって、2人でムービーの感想を話し合っていると……窓をコツコツと叩く音が聞こえた。

「「ん?」」

振り向くと、窓ガラスの向こう側に……可愛いモモンガの姿が!

「……モモンガ幻獣ちゃん?」

「たぶん?」

はて、なんのご用事かな?