軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:輝く理念の集大成

クラン『マルドゥーク』は、ロマンを追い求める魔法使い達によって結成されたクランである。

β勢は1人もいない。

β勢の楽しそうな体験レポを読み、正式サービスを今か今かと待ち焦がれていた新規勢の中でも、特に魔法の仕様に心惹かれた者達の集まりだ。

最初のロマンは上位属性だった。

クラン内で誰が最初に到達出来るかを競い合い、『最初に到達出来た者がピリオノート初襲撃の最前線で派手にぶちかませる権利を得る』というルールを作り、当日は敗れた面々が補佐に入ってモンスターのど真ん中に突っ込み氷の花を大輪に咲かせて大暴れ。

世間の評価は割と散々だったが関係ない。

『マルドゥーク』の精神理念はそんな所には無いのである。

そうして次のロマンを探していた『マルドゥーク』は、大街道敷設イベントのボス戦で運命に出会った。

『☆フェアリータウン☆』近郊のボス戦にて、魔法少女☆ドレッドノートがぶちかました極大威力のビーム攻撃。

なにあれカッコいい!

アレやりたい! アレ!

クラン一同、例外なく目が輝いた。

だが、そこで当の魔法少女に直接方法を問い合わせないのが『マルドゥーク』の特異な所であった。

攻略wikiは参考にするが、検証勢に混ざって意見交換や仮説の立て合いなどもしない。

大好きな魔法に自分達なりのアプローチを行い続けるのが楽しいのだ。

試行錯誤するその過程もまた、至高の娯楽なのだ。

効率を重視するプレイヤーとは分かり合えない思考回路で『マルドゥーク』は動いていた。

だから誰も、このクランが何に目をつけて、如何なる場所へ辿り着いたのかを知らなかったのである。

そしてやってきた冬のイベント。

その数日前に、クラン『マルドゥーク』のアジトへ、1人のプレイヤーがやってきた。

それはβ勢ではそこそこ名の売れているカステラソムリエ。

彼は『マルドゥーク』がそれなりにレベルの高い魔法使いの集団だと知っていた。なにせロマンを求めるならレベルは必然的に必要になるので。

そんなカステラソムリエは『マルドゥーク』にピリオノート防衛の協力を要請しに来たのである。

『マルドゥーク』は、彼がNPCの死をトラウマレベルで忌避している事を知っていた。なにせβの体験レポを片っ端から読み漁っていたので。

そんな『マルドゥーク』は、カステラソムリエの要請に、本人が拍子抜けするほどアッサリと快諾した。

このクランは周囲の視線も評価もガン無視で魔法に関わる事しかしない集団だが、別にコミュ症でも無ければ人嫌いでも無い。

能天気に楽しんでいるゲームの中で、やけに思い詰めた顔でやって来たプレイヤーがいれば、そっと良いお茶を出して心配するくらいの事はするのである。

ピリオの防衛? いいよいいよ、任せとけよ。だからそんな顔すんなって。な?

快諾されたカステラソムリエは、ちょっとズッコケかけたものの。すぐに立ち直って『防衛に使って欲しい』と取っておきのアイテムを取り出した。

『マナの果実』

食べると一定時間最大MPが倍になるというその効果に、『マルドゥーク』のテンションはブチ上がった。

なるほど、かの魔法少女がこのカステラソムリエと兄妹なのは周知の事実である。きっとこの果実があのビームの一端を担っていたに違いない。

このアイテムが世間では森一味と呼ばれる集団と思しき面々によってフリーマーケットで売られていた事など、彼らにとってはどうでもよかったので何も気にしなかった。

問い詰められるだろうなと思っていたカステラソムリエは、完全にその辺スルーされてやはりズッコケかけた。

なお、カステラソムリエが難しい顔をしていたのは、周囲から『好きな魔法研究しかしない』という評価を受けているクランが果たして聞く耳持ってくれるだろうか、という不安からだったのだが……当のクランは与り知らぬ事であった。

そして幕が上がった、使徒『咀嚼のフランゴ』との決戦イベント。

クラン『マルドゥーク』の面々は、テンションMAXで街の中央に巨大な魔法陣を描いていた。

なんだなんだと困惑するプレイヤーやNPCをまるっと無視し、冒険者ギルド前の広場のド真ん中を占拠して勝手に規制線を引いた。

描いたのは円の中に八芒星。

描き上がったら「ウェーイ!」「イエーイ!」と奇声を上げながらハイタッチする様に、周囲のギャラリーはさらに一歩引く。

『マルドゥーク』は、ファンタジーロマンがこれでもかと詰まったダンジョン召喚の動画を大喜びで見ていた時に、こう思った。

──これって、いわゆる合成魔法じゃね?

その考えを共有した時、クラン一同のテンションは、かのドラゴンがいた山よりも高くブチ上がった。

そこから速やかに研究に突入し、魔法陣を描く素材の探求を進め、魔法陣を用いた魔法の使い方についてトライアンドエラーを繰り返した。

カステラソムリエがやって来たのは、ちょうどその集大成をイベントでぶちかましてやろうと画策していた時の事だったのである。

「行くぞぉ!!」

「「「「「「「「応!!」」」」」」」」

人数分の頂点を持つ芒星を描き、その頂点にクランメンバーが1人ずつ立つ。

果実を食べて倍になっている魔力を円に流せば、全員分のそれが混ざり合ってひとつの巨大なうねりと化した。

そして魔法陣の中央に立つ者が、全員分の魔力を使った魔法をイメージし起動するのだ。

……全く流通していないけど、パーティメンバーのMPを共有するアイテムがあるって?

違うそうじゃない。

『マルドゥーク』が求めるのはロマンである。

そうじゃないんだ。

そもそもそのアイテム持ってないし。

大きな大きな魔法陣という分かりやすい舞台装置を使って、クランみんなで力を合わせて大きな大きな奇跡を起こす。

そんな映えにこそロマンと価値を見出すのが『マルドゥーク』である。

「敵襲ー!!」

「西方向から飛行系のモンスターが来たぞぉー!!」

「タイミング完璧かよ」

「やっちまいなぁ!」

中央に立つのはエルフの男。

使う魔法は決まっている。

防衛なんて今までとんと縁のなかったクランだが、奇しくもちょうどいいモノを見たことがあった。

気の狂ったとしか言えないマッスラゴラの襲撃イベントで、文字通り最後の砦となったピリオノートの城を守っていたモノ。

森女が使っていた、木で鳥籠のように拠点全体を包み込むあの魔法を!

「【ツリークリエイト】!!」

広い広いピリオノート。

その二重防壁の外側から、力強く伸び上がる複数の木。

防壁を包み込み、街中へ葉を降り注ぎながら半球状に覆いつくす。

中の人々が驚きの声を上げながら見上げる空に完成した緑の天蓋。

その強固な屋根に向けて、すぐ側で見守っていたカステラソムリエが飛び上がりながら【召喚魔法】を放つ。

草木の生い茂るフィールドで最も力を発揮できる虫たちが、緑の天蓋を足場にして陣を組んだ。

それを見た虫系召喚持ちのプレイヤー達は、彼にならって迎撃の為に戦力を呼び出す。

空から襲いかかる滅びの虫を迎撃する準備は整った。

不安に駆られていたピリオノートの人々は、心の安定を取り戻しパニックを起こすことは避けられた。

……そして当の『マルドゥーク』達は

「最っ高かよ合成魔法!!」

「ヒュー!!」

「次こそビームだ! 前線にビームぶちかましに行こうぜ!!」

ロマンの余韻もそこそこに、大騒ぎしながら唖然とするギャラリーを置き去りにして、ピリオノートの西門から飛び出して行ったのであった。