軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:美人女幹部キャサリンの本気

ぐ~るぐるぐ~るぐると似たような岩壁と石材の壁が繰り返される薄暗い地下の街の景色。

フルダイブVRのゲームで良かった。

道幅が広くないから、画面を見るタイプのゲームだったら僕は100%画面酔いに苦しんでいた自信があります。

大き目の下り階段に来たあたりで、キャシーさんが僕らを振り返る。

「本日、NPC達にはこの階段より下層への立入を禁止する処置をとりました。問題のブツは下層になります」

あ、僕等との約束の件だね。

『解除する時には死んだら再起不能になる人達を安全地帯に避難させる事』

うん、これだけ分厚い岩盤のずっと下なら、何かあったとしても上の方にいるNPC達は脱出できそう。

……でもあの、それはそれとして、そんな分厚い岩盤くり抜いて街を作ってる事実がそろそろ信じられない規模になってきたんだけど?

「……これ、全部キャシーさんが掘ったんです?」

「正確には私とプロフェッサーとで掘りました。元は渓谷の底にあった小さな洞窟がスタートで、そこから出入りに便利な地上を目指しまして、このような形に」

へぇ~、じゃあ渓谷の底の方にも出入口があるのかな? それともそっちは埋めてあるのかな。

キャシーさん曰く、プロフェッサーさんとはリアルの友人だから、入植段階から結婚システム使って二人で開拓したんだって。

「いいですねぇ。この規模を一人で掘ると途中で虚無に陥りそうですけど、二人ならマシになりそうですね」

「はい、とても楽しかったです」

パァアアッと輝くようなキャシーさんの笑顔。

うう~ん、イブニングドレスが似合うセクシー美女の笑顔、プライスレス。

そんな世間話をしながら階段を下りきると、建物二階分くらいの高さの通路がまた迷路みたいになっている階層に出た。

構造どうなってるんだろう……地図とかあるのかな? 少なくとも地下だから地図の魔道具は仕事してくれなさそう。

再び通路をぐ~るぐるぐ~るぐると案内してもらった先に、ようやくヒトの気配。

ちょっと広めの空間に、石造りのお屋敷みたいなのが建っている不思議な場所。

その玄関を潜ってホールに入ると、最近よくみるアカデミックな集団の内の数人がいた。

「どーも」

「こんにちはー」

挨拶に挨拶を返す。

さっきピリオで話した石板NPCに弟子入りしてる人と、他に3人くらい。

たぶんこの人達が、追加で来るって言ってた検証勢かな。

そして検証勢さん達が固まっていたホールの中央に…… そ(・) れ(・) はあった。

ドラム缶みたいなサイズと形をした、円柱状の物体。

【封印されし物体】…品質?

封印を解かなければ詳しい事はわからない。

説明も僕が持ってるのとまったく同じ。

でも思ったよりデカいね!?

僕が持ってるのが水筒サイズだから、もう一回り大きいくらいかと思ってたけど、それどころじゃなかった。

もしも本当に爆発物だったら怖いサイズだなぁー……

なんて考えていたら、奥からヒトが二人歩いてやってきた。

「到着したようだね。キャシー、御苦労様」

キャシーさんがスッと優雅に礼をする。

やって来たのはプロフェッサーさん。

そしてもう一人は……

((あ、忍者だ))

思わず相棒と脳内でシンクロしたくらいにわかりやすい忍者装束を装備した、THE忍者って感じの人。

この人、夏のレースとかラリーストライクの大会とかで見た事ある忍者さんだ。

名前は忘れたけど、この忍者忍者してる恰好は記憶に残ってる。

その忍者さんは、僕らを見た途端、ショックを受けたように目を見開いた。

「キェエエアア!? リ、リア充筆頭の森夫婦だとぉおおおおおお!?」

そしてプロフェッサーさんに掴みかかろうとして……接触許可が出てないっぽくて、掴めないのに掴もうと空中で手をぬるんぬるんと動かした。

「プロフェッサー殿! 聞いておらぬ! 聞いておりませぬぞ!? 森夫婦がここに来るなど聞いておりませぬぞー!?」

「言っていなかったからねぇ」

「 何故(なにゆえ) 教えて下さらなかったのでござるか!? 知っておればあらかじめカピバラ温泉動画を眺めて心頭滅却してきたものを!!」

「こういう反応が見られるだろうなと思ったからだとも」

「カァアアーッ! 汚い! これが悪役RPガチ勢の所業!」

「ほら、お客様が驚いていらっしゃる。きちんと君の口からお客様に非は無いのだと説明したまえ」

「しかも本人の口から説明をさせるその非道!!」

ウナギを掴めないような動きをしていたと思ったら、今度はウナギみたいな動きでのたうち回り始めた忍者さん。

この短時間で僕はお察しました。

この人、ガチで忍ばないタイプの忍者さんだね!

忍者さんは頭を掻きむしった後、ぜーぜーと息を整えながら、ギギギと錆びた機械みたいな動きで僕らの方へ向き直った。

「いや失敬……お二人に非は無いのでござるよ。ちょっと拙者が……ウウッ、リア充を見ると真新しい傷がうずくというだけの話で……」

「……えっと、無理しなくていいですけど」

「情けはいらぬ!! ……ちょっと最近失恋したばかりで、その苦しみを誤魔化そうと エフォ(EFO) を始めたというだけの事でござる!!」

わぁ…… エフォ(EFO) に傷心旅行に来てたんだ、この忍者さん。

そして全然言わなくてもいい事なのに、自らカミングアウトして傷口を広げてる気がする……うん、変な人だ。

そんな忍者さんを眺めて、プロフェッサーさんはとても楽しそうに意地悪な顔でニヤニヤと笑っていた。

「なかなか傷が癒えないようだな」

「このゲーム、リア充が多すぎるのでござるよ!! 森夫婦を筆頭に、サーカス夫婦、ユーレイ夫婦、もっふる夫婦、他にもそこら中にちらほらとカップルの群れ! なんなのでござるか!?」

「大変そうだね」

「他人事のように言うプロフェッサー殿も充分リア充ではござらんか! 悪役RPに付き合ってくれる異性のリア友と二人三脚でこんな立派な拠点こしらえおってからに!」

「我々はただの幼馴染だよ」

「……この先もそうとは限りませんけどね」

「えっ?」

あ、キャシーさんの一言でプロフェッサーさんのRPが崩れた。

年嵩の余裕のある雰囲気の演技が消えて、若そうな素直にビックリしてる表情が出てきた。

プロフェッサーさん、そんなプレイヤー名をしているだけあって、頭の回転は悪くなかった模様。

ただの幼馴染→この先もそうとは限らない→親し気な笑顔のキャシーさん→マイナス感情ではない→つまり幼馴染以上のプラスの感情を持つかもしれない。

という意味にすぐに気がついて、狼狽えた。

「え? いや、だって……今までそんな素振り、全然……」

「先程おっしゃられたように、このゲーム、パートナーと幸せそうにしてらっしゃる方が多いので。ちょっと羨ましくなってきたのでそろそろ……」

「ねぇ?」とキャシーさんが僕らに振る。

僕はそれに、深く深く頷き返しておいた。

どうも、リア充筆頭夫婦です。

相性のいい相手と一緒にいるのは最高に幸せでしてよ。

ヒュー♪と口笛を吹いて囃し立てる検証勢。

完全にRPが崩れ落ちちゃって、若干顔を赤らめて懐中時計をパカパカしながら混乱するプロフェッサーさん。

そして、思いっきり眉間に皺を寄せた忍者さん。

「カーッ!! 爆発しろリア充がぁああああああ!!」

心に傷を負っている忍者さんの怒りの叫びが、薄暗い洞窟の中に響き渡ったのだった。