軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:天へと届かん高みを目指して

最近流行のフルダイブVRMMO『Endless Field Online』

通称、 エフォ(EFO) のゲーム内にて。

プレイヤー界隈が秋イベント最後のパレードだ新ダンジョンだと時事ネタで盛り上がっているその頃に、脇目も振らず険しい山を登っていた男達がいた。

広大な原生林を遥か下方に臨む、高い高い岩山の絶壁。

そこにへばりつくようにして、少しずつ、しかし確実に、道具を駆使して命綱を繋ぎ登っていく。

岩壁をよじ登っていく男達は三人。

先頭は『元登山家』

リアルでは高齢により引退したプロの登山家であり、今なお衰えぬ山への情熱をフルダイブVRのゲーム内で発散させている中年男性アバターのプレイヤー。

二番手は『そこに断崖があるなら』

リアルでは身体に先天性のハンデを持っており、その反動でフルダイブVRの様々なゲームで本来登れないはずの場所をプレイ技術で攻略する『崖登り・壁登り』にのめり込み、そのまま エフォ(EFO) 内ではロッククライマーのような活動をしている若い男性アバターのプレイヤー。

そして最後尾の三番手だけは、従魔に乗り、さらに数匹の従魔を引き連れていた。

名前は『バイトリーダー』

テイマー界隈のトップ勢に名を連ねる、それなりに有名な若い男性アバターのプレイヤーである。

三人が挑んでいるのは、ファンタジーならではの奇妙な形をした岩山だった。

形状を簡単に例えるなら、『プリンを乗せたお猪口』

上部五分の四は富士山のような形をしているくせに、下部五分の一が内側に抉れて鼠返しのようになっている、登らせる気の無い難所である。

しかしその高さたるや周囲の山を置き去りにする勢いで高く、頂上は空に浮かぶ雲よりも遥かな高みにあって地上からははっきりと見る事すらままならない。

この山を見たプレイヤーのほとんどが『超長距離飛行が可能にならなければ登れない』と判断した。

鳥系獣人やフェアリーといった飛行可能ユニットでも恐らくスタミナが続かない程の標高。そも初手のネズミ返し部分でさえ飛んで上がる事ができるかどうか。

木の一本も生えていない岩山は、まともな休憩場所すら存在しない。

【石魔法】や【木魔法】で足場を作って登る事を考えた者もいたが、この岩山は魔法防御がむやみに高い特殊な岩で出来ているらしく、魔法による手段は取らせてもらえなかったのだ。

だが、今、先頭を行く二人は違った。

これを飛んでスルーするなんてもったいない!

どんな無茶をして死んだとしても復活可能なゲームという環境の中。一見踏破不可能な形状の地形は、登山ガチ勢にとっては至福のチャレンジコースにしか見えなかったのである。

是非ともこの山を最初に制覇したプレイヤーになりたい!

登山好き同士友人となっていた二人は、せっせと登頂チャレンジの準備を進めた。

途中、ラリーストライクの景品でドラゴンや巨大鳥を入手したプレイヤーが出たので先を越されるかと危惧したが。この山は周囲の気流がおかしなことになっているらしく、入手直後の低レベル段階では頂上へたどり着く事はできなかったらしい。

ならば今の内にと準備を進めていると……思いがけない所から同行希望者が現れた。

それが三人目の『バイトリーダー』

ラリーストライクの大会で予選敗退し、それでもドラゴンを諦めきれなかった男。

そんな男は、どこからか『世界で一番高い山の頂上には、力試しを望むドラゴンがいる』という情報と、二人があの山に登ろうとしている情報を得て、二人の前に現れた。

きっとあの山の頂上にドラゴンがいる。

ただその一念だけで、 エフォ(EFO) 内マップ踏破率トップの男は、二人のアドバイスと案内を受けながら、従魔に指示を出しつつ慣れぬ難所に挑んでいるのである。

崖の凹凸を見極めて指先をかけ体を持ち上げて、ハーケンを打ち込んで命綱を通し、また次の場所を見極める。

魔法が使えるゲームだからこそ、完全に天井状態になっているネズミ返し部分さえもいくらかの工夫のみで同じように進んでいく。

身体を預ける岩肌の他は、全ての景色が遠すぎるあまり、まるで絵のように見える壮絶な環境。

それを二人は楽しみ、そして泣き言ひとつ言わずについてくる三人目に感心しながら。

ゆっくりと、しかし着実に、頂上への距離を縮めていった。

地平線がどんどん遠くなり。

雲の波を超えて。

そこからさらに……もっと高く……もっと高く……

……そしてようやく辿り着いた、空の青が色濃くなるほどの遥かな高み。

手をかけて、体を上げる……天頂の、その場所。

そこに、望みのモノが、いた。

広い山の頂は、火口の名残なのか皿のように僅かに窪んでいて。

そこを寝床にしているのか……大きな大きなその生き物が、巨大な体をゆるりと休ませている。

──それは銀色のドラゴンだった。

「……来たな」

到達した三人が、あまりの迫力と美しさに言葉を失っていると、その竜がおもむろに口を開く。

「よくぞ来た、ヒトの子よ。神が受け入れ、滅びと戦う勇士として世界が認めた者達よ。我が名は『ヴェーレンハイド』、『竜の寝床』の門番を務めし者なり」

そして勇壮なる竜は語る。

「我ら竜族は、こことは異なる次元にて、お前たちが強くなるのを待っていた」

竜は強い。

故に、入植したヒト族が滅びと戦う力をつける前に蹂躙してしまわぬよう、世界の意を汲み、『竜の寝床』と呼ばれる次元がズレた場所に引っ込んでいたのだと。

「幻獣や不死鳥から、ヒトの子がどのようなモノかは聞いている。小さな身でありながら、世界の覇権を争う程に強くなる可能性を秘めたる種族。そして、あらゆる意味で我ら竜族を求める可能性がある、変わり種でもある、と」

血肉を望むか

牙と鱗を望むか

あるいは力を、友を望むのか

「血気盛ん、大いに結構。そうでなければ高みになど上がれぬ。まして我らをすら害する滅びに打ち勝つなど夢のまた夢よ。そして我ら竜族は、ヒトの子がいかなる望みを我らに抱こうとも、実力が伴わねばその望みを叶える事など永劫に無いと知れ!」

白銀の竜が立ち上がる。

戦意を持って、咆哮を上げる。

神が、世界が選んだ戦士達は、竜がこちらへ戻るに足る程まで成長したのか否か。

それを見極めるために戦うのだ。

それを受け止めて前に出るのは、複数の従魔を従えたテイマーの男。

キュウと口の端を吊り上げて笑う男は、ギラギラとしたその目でひたすらに竜を求めている。

良い目だ……竜も期待に心が躍る。

「いざ、その力! 我が前に示して見せるがいい!!」

「あー……その前に、ちょっといいですか?」

どこか呑気な『元登山家』の声に、ビリビリと張りつめていた空気が一瞬で霧散した。

「……なんだ?」

「先に記念撮影してもいいです? やっと登頂できたんで」

岩壁をよじ登ってきた男達は三人。

竜を望むのはその内の一人だけ。

他の二人は戦いに来たわけではなく、ただただ険しい岩山を登り切る事こそが使命だったのだと聞かされれば、竜に否とは言えなかった。

「……そういう事ならば、仕方あるまい」

「もしよければ、ドラゴンさんも一緒に写っていただいて良いですか?」

「登頂記念にぜひ!」

「……そのくらいならば良かろう」

「やったー!」

「孫に自慢できるぞー」

竜は言われるがまま指定の位置に体を収めて男達や従魔と共に並び、撮影時のマナーだというVサインを教わってぎこちなく手でその形を作った。

「はい、チーズ!」

従魔の【草魔法】で4回スイッチを押して、4枚の写真が吐き出される。

ピカッと4回光った光魔法に、竜は眩しくてギュッと目を閉じてしまった。

「はい、ドラゴンさんの分です」

「うむ」

受け取った写真は、体の大きな竜にはあまりにも小さかったけれど。

風景や姿をそのまま写しとって絵にした不思議な代物にヒトの子の可能性を感じて、銀の竜は多いに満足した。

貰った写真は【アイテムボックス】に入れておく。竜族の中でも、『竜の寝床』の門番を受け持つほどに実力が上位の者ともなれば、【アイテムボックス】くらいは持っているのである。

「ありがとうございました! では、続きどうぞ」

「うむ」

試練を受けるつもりの無い二人が邪魔にならないよう山頂の端へ移動してから、竜は咳ばらいをひとつした。

「ゆくぞヒトの子よ! その力を示して見せるがいい!!」

「行くぞ皆!」

吠え猛る白銀のドラゴン。

多数の従魔を指揮して立ち向かうテイマーの男。

その戦いは、実に迫力があり素晴らしい物であったと……片隅でのんびりと弁当を広げ観戦していた二人は、後に語ったのであった。