軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:既に死んでいる魂は

俺達がダンジョンから飛び出して最初に目に入ったのは、聖女の無事に号泣しながら喜んでいる親衛隊の群れだった。

うわぁ……

いやでも推しの死が現実になるかもしれなかったわけだから、仕方のない反応か……

なんとも言えない気持ちになりながら周りを確認する。

突入前に現れた敵は、もう片付け終わった後らしかった。

たぶん意見交換みたいな事をしていたんだろう、グリードジャンキーの面々が遠くで座っていて、飛び出してきたこっちに顔を向けているのが見えた。

麗嬢騎士団もその意見交換に参加していたのか、近くでこっちを見てホッとしている女性達が見える。

……見覚えのある駄犬は俺の方を見てそわそわしていた。やめろこっちに来るな、来なくていい。

検証勢は検証勢でドロップアイテムっぽいのを片手にシステムウィンドウを大量に開きながらあーでもないこーでもないと話し合っている。

その内の何人かは『あ、終わった?』みたいな顔でこっちを見ていた。

ヒラヒラと手を振りながら近付いてきたのは、外にいた同盟メンバー達。

地面に座り込んでいる夾竹桃さんと、それを見下ろすラウラさん、そして俺達が固まっている出入口前へやってくる。

「お疲れ様」

「お疲れさん」

「うむ! 無事でなによりである!」

上に残った3人の労い。

ラウラさんは「お、お疲れ様でした」とホッとしたように返事をして……夾竹桃さんは

「あー、無事にクリアできてよかったー……けど、外に出た途端に狼ちゃんから放り出されたんだけどー???」

「ああ……ちょっと緊急だったんで」

無事に聖女が脱出したのを確認してすぐ、同化するのに呼び戻したからな……

「まー、そっちの奥さんが着地ってか墜落みたいになってたのは見たけどさー……てか奥さん大丈夫?」

「出てきてからボーッとしてない?」

キーナは出てきてからずっと俺に引っ付いたままだった。時々後ろから背中にグリグリと額を押し付けている。

「……大丈夫?」

「ん……へいき〜……」

「……ちょっと燃え尽きてるだけですね」

「あらら」

まぁ、引っ付けておけばそのうち復活するだろう。

ジャック達三兄弟はそんな相棒を少し心配そうに見ていたが、大丈夫と頷いてみせると安心したように座り込んでのほほんと休憩の構えになった。

そして聖女は、号泣している親衛隊達に「心配かけてごめんなさい」と声を掛けている。

……と、そこへ──

「えっ?」

「おお?」

ダンジョン召喚や地下で見たのと同じ、髪の毛のような帳がゆっくりと現れた。

同時にうっすらと、霧がかかったように周囲が白み始める。

好きに会話をしていた面々も気付いて口を閉じる。キーナも不思議そうに顔を上げた。

そして聖女の側に、地下で現れたカボチャ頭が出現する。

プレイヤー達の視線を集めるカボチャ頭は、ニッコリと笑ってスイッと小さな手で一方向を指した。

聖女が素直に指す方へ目線を向けると……

「……あ」

そこには……鎧姿の男性と、普通の街人の姿をした女性の……半透明な霊の姿があった。

「……アリリア」

「アリリア」

2人の柔らかな声が、聖女を呼ぶ。

「……母さん、父さん」

呟くような言葉と共に、聖女の目から涙が零れ落ちる。

解放した被害者は、縁者の元へ連れて行く。

その言葉通り、魔女は聖女の両親を聖女の元へ連れてきた。

きちんと聖女が安全地帯へ出た後で。

「母さんっ! 父さんっ!」

やっと親を見つけた迷子のように、聖女が両親の霊の元へ駆け寄った。

それを、同じように泣きながら抱きとめる両親。

……触れられるんだな。

それも魔女の力なのかもしれない。

「戻ってくるの……遅いよっ! ……私、ずっと……待ってたんだからっ……!」

「っ……ごめんねアリリア……夕飯、シチューにするって約束だったのにね……」

「すまない……でも、約束守って強く生きててくれたんだな……偉いぞアリリア」

果たされなかった約束と、守り続けている約束と。

やっと会えた喜びと、もう取り返しがつかない悲しみと。

全部が入り混ざった声で、一家は泣いていた。

「迎えに来てくれて、ありがとう……」

「ありがとう……皆さんも、助けていただき、ありがとうございました」

深々と頭を下げられたから、軽く会釈を返す。

助けられて良かったなぁ……

「じゃあ、アリリア……元気でね」

「アリリア……強く、幸せに生きるんだぞ……」

それを最後に、聖女の両親の姿が解けて、虹色に煌めく蝶へと変わっていく。

思わずといった様子で、泣き顔の聖女は溢れかえる蝶の群れに抱き着いた。

溢れる蝶は、捕まる事なく、腕の隙間から溢れ零れて飛んでいく。

「っ……戻って来てよぉ!」

悲鳴のような声だった。

「戻って来るって、言ったじゃない! 待ってるから! 戻って来てよぉおお!!」

言うまいと耐えて、耐えきれなくなった声だった。

……大丈夫、きっとすぐに戻って来る。

ヒトが死んでも蘇るようになったこの世界では、こういう形で死の海へ向かうのは珍しいだろうから、どうなるのかは分からないが。

姿が変わったとしても。

全部忘れていたとしても。

きっとすぐに、生まれ変わって帰ってくる。

聖女の手には、まだ、キーナが渡した火色の花が、数本握りしめられていた。