作品タイトル不明
ユ:鎖を断ち切り自由を得た霊
「……【ダブルクリエイト】!!」
力強いキーナの叫び。
その声に応えて、2種類の魔法を合わせた仄かに光を発する火色の花が、地下のホールで満開になった。
一瞬、火事になったかと誤認するような花畑。火の粉のように舞い上がる花弁。
赤く照らされる大ホール。
床一面を埋め尽くしてまだ溢れ出す花々が、スケルトン達の肋骨の中から、そして石の壁の隙間から、爆発するように咲き乱れる。
「なっ──!? 馬鹿な!?」
花勢に気圧されるように後退するレイス。
感情を無くしていた浮かぶオバケ達は、ハッと我に返ったように自我を取り戻した。
肋骨から花を咲かせたスケルトンは力を失い倒れていき、そこから分離するように半透明の兵士のオバケが、理性を取り戻した表情で現れる。
……そうか、スケルトンってそういう仕組か。
肋骨部分を檻に見立てて刻印を刻んでいるんだな。
キーナも不死鳥の肋骨をそのまま鳥籠に仕立てていた。アイデアが同じだったのか。
レイスの支配が解除されたのが、【死霊魔法】に詳しくない俺達でもひと目で分かった。
「な、なんだとぉお!? お、おのれぇっ! 下僕が自由を得るなど許さ──ガッ!?」
やると思ったんだよなぁ。
俺はレイスの喉に突き立てた牙の短剣を、そのまま搔き切るように横に薙いだ。
幽霊兵の数で本国の騎士を退けた奴が、兵数が減るのを許すわけがない。
透明状態のままネビュラと同化して、そっと近くに忍び寄っていたのは大当たりだ。……あまりにも透明化が有利すぎるから、そろそろナーフされる気がする。
レイスは喉への一撃に仰け反って、解放を妨害する一手は打てなかった。
……だが、俺の一撃で仕留められるほどダンジョンのボスは弱くも無かった。
たぶんアンデッドには急所が無いんじゃないか?
喉への一撃で【急所攻撃】が入った手応えが無かった。
それに加えて……
不死爵・オーキモンド Lv95
レベルが高すぎる。
いくら俺達が変わった職業の集団だからと言って、それはイコール極端に強いわけじゃない。
鏡の中の時に、レイド状態で倒したシェイプシフターより高レベルのボスモンスターだ。
今の段階でこの人数だと、まだ勝てない。
つまりは、今みたいに足止めが精々だ。
……だが、それでも時間稼ぎには充分だった。
花が咲き乱れるホールの壁に……髪の毛のような帳が降りる。
召喚の時に見た巨大な手が、何かを握るような形で現れて……その手が開かれると、中からカボチャ頭の黒いてるてる坊主のようなモノがポンと浮かび上がった。
「アッ、お揃いダ!」
ジャックが嬉しそうに笑うと、現れたカボチャ頭も嬉しそうに笑って、布の一部で手を振った。
死者を案内する、カボチャランタンを頭に持つ魔女のしもべ。
相棒が言っていた、解き放つ事さえ出来れば、魔女が被害者の死霊を本国の縁者の元へ連れて行く。その約束を果たしに来たんだろう。
髪のような帳が細く開かれて、オバケ達が喜びに泣きながら、カボチャ頭の誘導に従いその隙間の向こうへと去っていく。
その中の1体……明らかに身分の高そうな壮年の男性の霊が、キーナの前へ進み出て深々と頭を下げてから、上の階を指して何かを言っていた。
俺の位置からは聞こえなかったが……キーナが頷いたから後で聞こう。
「おのれ古代の魔女めが!! そのまま廃れ消え去ればよいものを……ぬぅ!?」
悔しげに叫ぶレイスが驚き慌てるように振り返る。
そこには……明らかに兵士達とは違う、巨大で禍々しい霊の姿。
片方は巨大な赤黒い蛇。
もう片方は不定形の黒い影。
悪霊・三つ首ブラッドコブラ Lv75
悪霊・オッドマッドシェイド Lv82
レベルの高いモンスターの追加に危機感を感じた俺達が、武器を構えて少し下がる……が、大きな体躯の悪霊2体の目は、レイスしか見ていなかった。
禍々しい悪霊が嬉々として襲いかかったのは……俺達じゃなく、親玉のはずのレイス。
「ヒィッ!? やめ……やめろぉおおお!!」
あー、そうか……もしかしなくても、ホールにいた配下のオバケ全部解き放ったのか。
【隷属】や【服従】が基本仕様って話だもんな……うちのオバケみたいにお互い納得していればいいが、そうじゃなかったからこれ幸いと乗っかって自由の身になったのか。
「ヒュー♪ ザッマァァア!」
「え、えーっと……これ、ど、どうしたらいいんでしょうか?」
悪霊にボコボコにされるレイスを指さして笑う夾竹桃さん。
思ったようなボス戦が始まらなくて困惑するラウラさん。
そして聖女は……カボチャ頭に案内されて安全な所へ逃げていくオバケ達を見送りながら、ボロボロと泣いていた。
「あ、ありがとう……ございますっ!」
「いいのいいの、僕がやりたくてやっただけだからねー」
俺は聖女を慰める相棒の近くへ戻って、念話で声を掛けた。
(ダブルクリエイトは、何と何使ったの?)
(【草魔法】と【死霊魔法】だよ)
ふむ、こっちの世界のルールに合わせた花と、死霊使いの力に干渉する術との合わせ技って感じか。
死霊を無理矢理捕まえて従えてたような力を断ち切るには、花にもうひと声必要だったんだな。
……とはいえ、これで終わりになるわけがない。
この世界の死霊は、自分で生まれ変わろうとしなければ海へ行かない。
こんな堂々と悪霊表記されるようなオバケが、素直に霊蝶になるわけがない。
──悪霊・オッドマッドシェイドが、突然ぐるりと俺達の方を振り向いた。
「うおっとぉ!」
ギラリと赤く光ったモンスターの目。
それと同時に、夾竹桃さんの持っていた藁人形のような物が弾け飛んだ。
「やっばー! 相手呪い持ちー! 身代わり消し飛ぶ威力ー!」
「撤退!!」
「ハィイ!!」
このへんまでがひとまずイベント処理だったんだろう。
いなくなった被害者オバケの後を埋めるように、レイスが酷使していたっぽい悪霊が次々とホールに現れ始めた。
「フッシー! 飛んで!」
相棒が箒杖で飛び、ジャックが投げたマリーを受け止める。
ラウラさんは自分の翼でとんだ。
ジャックと俺は俊敏が高いから、自分で走れば問題ない。
……となれば、ちょっと逃げ足が危ういデューと夾竹桃さんと聖女をネビュラに乗せた。
「……てか、アイテムで脱出しちゃダメなのー!? 一応帰還スティック持って来たけどー!?」
「ダメ」
却下したのは、意外にもキーナだった。
「さっき領主さんのオバケが言ってた、『あと10人』って!」
「つ、つまり……来る途中の通路に、ま、まだ被害者いらっしゃったんですか!?」
「そういうこと!」
Oh……クエスト的にアイテムでの撤退をさせてくれないわけか。
だから途中に敵の気配があんなにいたんだな。
そしてホールから逃げ出した俺達の後ろから……大量の悪霊達が追いかけてきた!
「無理無理無理無理! 追いかけられる系ホラーはマジで無理! マリー!!」
相棒の悲鳴交じりの声に応えて、マリーが後ろに蜘蛛の糸を放つ。
幽霊系のアンデッドが、物理が効く仕様だったのが幸いだ。
粘つく糸が絡みついて若干足が遅くなった……が、まだまだ安心出来る速度じゃない。
……そして逃げる先、退路の正面を防ぐように待ち構える幽霊系モンスター。
「つまりー、逃げながら無理矢理突破しつつ、解放もしてけって事ー!?」
「そ、そのようですね……大変わかりやすくて助かります!」
そうだな、脳筋にはわかりやすい仕様だ。
まさか撤退がメイン戦闘だとは思わなかったけどな!