作品タイトル不明
ユ:カメラ記念日
襲撃終了。
インターネット老人会の拠点は、それほど大きな被害を出さずに守り切る事が出来た。
外で戦っていた面々も中に戻ってきて、なんやかんやと言葉を交わしている。
「よーしよしよし、今回も助かったぞ」
「お茶とお菓子を用意しましょうねぇ」
「わーい、やったー!」
「いつもありがとうございます」
和やかな空気の中、俺とキーナはそっと透明化を解除して少し離れた所で合流する。
(どうしよっか? 帰る?)
(……さすがに何も言わずにいなくなるのはちょっと)
普通に犬と遊んだりお茶ご馳走になったりしたしな。
……ただ、あっちは知り合い同士だから、そこに混ざるのは少し気まずい。
さてどうしたものかと考えていると……転移オーブに、見たことのない爺さんが現れた。
「今帰ったぞー」
「やっと帰ってきたか『元写真家』! もう襲撃は終わったぞ!」
「街で終わるの待っとったからな。ほれ、これケーキ」
「あら! ピリオの喫茶店で売ってるケーキねぇ。ありがとう」
「こやつ……のんびり茶しばいてきおったな!?」
またマイペースな爺さんが増えたな……
会話の感じ、あの爺さんがトゥティノコゥを欲しがった爺さんなんだろう。
元教授さんがトゥティノコゥが入った檻を指して何か言った後、キョロキョロと視線を巡らせて俺達に目を留めた。
「おお、そんな所におったか! ほれ、こっち来いこっち」
手招きされて、俺達はソロソロと近付いた。
元写真家は早速トゥティノコゥのスクショを撮りまくっていたが、俺達が近付くと立ち上がってニコニコと手を振ってきた。
「貴方がたがトゥティノコゥを提供していただいた方ですか。ありがとうございます。まさか有名人の森夫婦さん方から贈っていただけるとは……」
めっちゃ丁寧なお礼を言われた。
ゴリラの被害者を持ち歩いてただけなんだけどな……
「カメラがあれば早速トゥティノコゥの写真を撮るんですけどねぇ……今の所はスクショで我慢するしかなくて。ゲーム内で写真として扱えないのがもどかしい……」
……さては丁寧と見せかけて話が長いタイプだな?
つらつらと続くカメラマンの愚痴を聞いていると、元の派手な金色装備に戻ったサーカス団のひとりが「あっ!」と声を上げた。
「そーだ、じいちゃん! カメラ出来たよ!」
「なにぃ!?」
丁寧な物腰は一瞬で消し飛んだ。
風を起こして目の前から消えた元写真家。
……たぶん、あの試験管を大量にぶら下げている男が孫のカールトンなんだろう。
元写真家は、何か箱のようなアイテムを受け取ってプルプル震えていた。
「魔法の地図の構造を研究してさ、魔道具で頑張ってみた。そしたらなんとか白黒写真は撮れるようになった!」
「おおお……っ!」
そして爺さんは孫をひしっと抱きしめた。
「うちの孫は世界一ぃいいいいいっ!!!」
「じいちゃん、苦しい苦しい!」
「どーだお前らー! うらやましいだろー! 孫のっ! 孫が作ってくれだ……ガメラッ……グスッ」
「じいちゃーん!?」
爺さん泣いちゃったなぁ。
まぁ、あれは仕方ない。
カメラは身内の希望者に優先して提供してから、まずは新聞屋クランに売り付けるつもりらしい。
まぁあそこはカメラ欲しいよな。今までずっとイメージの挿絵が描かれてたし。
カメラを完成させたカールトンを褒めて称えて持ち上げて、せっかくだから記念写真を撮る事になったらしい。
老人会が前に座り、サーカス団達が後ろに立つ。
犬達も怪我ひとつ無くワフワフと楽しげに外へ出てきて、他の従魔達と一緒に前へ座った。
俺達は完全に通りすがりだから、撮る役を引き受ける事にする。さすがにタイマー機能なんて無いからな。
「撮りますよー、笑ってー」
俺がカメラで、キーナが声かけと【光魔法】で申し訳程度のライトアップ。
スイッチを押すと、中でパシンと弾けたような不思議な音がした。
魔道具だから、リアルのカメラとは構造が違うんだろう。
インスタントカメラみたいに、すぐに現像されるのも楽でいい。
インターネット老人会とサーカス団の面々は、実に楽しそうな笑顔で集合写真に写っていた。
* * *
さて、トゥティノコゥも渡したし。
代わりの肉も貰った。
拠点の修理はいつもの事だから元マタギさんがやるらしい。
(用事終わったし、帰るか)
(そだねー)
……なんて考えていたのを察したのだろうか。
「失礼。少しよろしいですか?」
蝶ネクタイにスーツとシルクハット姿の男が、それはそれは真剣な顔で近付いてきた。
……なんだ? そろそろ用事は無いはずだが?
「自分は『蝶ネクタイ紳士』と申します」
うん、わかりやすい名前だ。
蝶ネクタイ紳士はおもむろにシルクハットを脱いで姿勢を正す。
「っ……森女さん!」
…………
「戦闘中に召喚していた蝶について! 詳しい事を教えていただけませんか!?」
……そんな思い詰めた顔で言うな。
一瞬、何の話かと身構えただろうが。