作品タイトル不明
キ:はじめまして夢魔
明度が反転した部屋の中。
天井に貼り付いているでっかいイモリっぽい真っ黒なナニカ。
……いや、うん、状況的に、アレが夢守なんだと思う。
ただ……デカくない!?
普通にホラーシチュエーションで、怖いデス。
慣れ親しんだ部屋の明度反転表現がまた神経にクる。
「……オバケじゃないよね?」
「……どうかな?」
ヒソヒソとそんなやりとりをすると……真っ黒な影みたいな夢守の金色の目がパチッと開いた。
「否定、ムモリはオバケではない」
「イィィィアァァァァ!! シャベッタァァアアアアア!!」
ビックリして思わずのけぞって叫んじゃったよ!
夢守は僕の叫びにビックリしたのか金色お目々をパチクリさせてる。
「ハー……ごめんよ、ビックリしただけ……どうぞ続けて」
「この空気でそれはキツくないか?」
相棒はもう「話が通じるならいいかー」って苦笑いしながら夢守に声をかけた。
「えっと……夢守はオバケではない?」
「肯定、ムモリはオバケではない。ムモリは夢魔、悪魔と呼ばれる存在のひとつである」
悪魔?
……まぁそっか、夢魔って悪魔かー。
真っ黒な両生類的スベスベボディ……シチュエーションで怖がってたけど、よく見るとカワイイね? 全然悪魔感は無い。
……うん、まずはこのゲームの世界観の把握のためにも、コレを訊いた方がいいかな?
「……悪魔って何?」
「悪魔とは、欲望の欠片より生まれたモノ。半分は欲望の欠片、半分はその欲に噛み合う世界の要素で出来ている。欲に惹かれ、欲と世界を喰らう、そうして生きるモノ」
んん~?
思ったより単純な理屈で動いてる感じの答えが返ってきた。
「ヒトを悪い事に唆すんじゃないの?」
「善悪は移り変わるモノ、悪魔はそれに拘らない。ただ欲望を求める、そのための力を求める、それが在り方」
ふむ、つまり欲望まっしぐらなのが『悪』に分類され気味だから『悪魔』って名前になってるって感じなのかな? このゲームの世界観では。
夢守は大きな金色の目をクルリと回した。
「ムモリは『夢から守りたい』という欲の欠片が、夢溜まりの中で卵になった。そして足りなかった夢をあなた方が与えて生まれた。よってムモリは契約を望む」
ジッと僕らから目をそらさずに、ムモリは言う。
「ムモリはあらゆる夢から何かを守る。そしてあなた方の『夢から守りたい』という欲を満たす。そうして夢と欲をもらい受ける。その契約を望む」
……金色お目々がキラキラしている。
なんだろう、この……謎に懐かれているこの感じ……?
「鳥の雛の刷り込みかな?」
「あ、それだわ」
ようするに、僕らが夢を与えて卵を孵したから刷り込みされてる状態なんだ。
へぇ~、カワイイじゃんすか!
せっせと悪い事するような子じゃないなら僕に思う所はありませんよ?
僕が割と前向きなのを察したのか、相棒が詳細を確認しようと口を開いた。
「普通の従魔と悪魔は何が違う?」
「悪魔は命令無しには動かない、判断しない。命令された場合、それを命令の範囲内で可能な手段の中で、欲望に最も大きく作用する形で叶えようとする」
「……じゃあ、魔物に襲われて、ただ『助けて』って言ったら?」
「可能ならば、主人の脅威となりうる全てを滅ぼす」
「わぁお」
「融通の利かないロボットか」
極端な子だ。
命令する時はめっちゃ気を使って細かく命令しないとダメなんだね。
「悪魔と契約する事で何かデメリットはある?」
「何をデメリットと感じるかは存在による。その問いには答えられない」
「例えば……契約主が何か強制されるとか、何かを提供しないといけないとか、何かが必要になるとか」
「契約主には悪魔の根幹に見合った欲望を提供してもらう。ムモリの場合は『夢から守って欲しい』という欲望を。そして悪魔は、根幹に見合った欲望を叶えた場合のみ力が強くなる」
うーん、どこまでも極端な性能。
これだけ縛りが多いなら、力を発揮できる場所も制限されるとはいえ、相当能力は高そうな気がする。
そして僕らは住んでる場所が場所だから、『夢から守って欲しい』って欲望にも事欠かない気はするんだよね。
……うん、ちょっと面白そう。
僕がソワソワしていると、相棒がこっちを振り向いた。
(どうする、契約する?)
(したい!)
(じゃあどうぞ)
(相棒はいいの?)
(これは魔女の役目では?)
ふむ、そういえば職業魔女の条件のひとつが『死霊か星か悪魔かどれかの技術』って感じだったっけ。それなら確かに、僕が受け持つ方がしっくりくるかな。
「いいよ、ムモリちゃん、僕と契約しよう」
僕が応じると、ムモリが嬉しそうににじりよってきた。
「肯定。ムモリは契約に伴い名付けを望む」
あ、名前ね。
そうだなぁ……イモリとかヤモリとかって、ペタペタ貼り付くイメージがあるから……
「ペタちゃん、にしよう」
「『ペタちゃん』、名付けを受諾。これよりムモリはペタちゃんとなる」
あ、『ちゃん』まで込みで名前に入っちゃった。……まぁいっか、カワイイから。
「ペタちゃんが動けるのは夢の領域のみ。常態は殻の中から寝台に横たわるモノの夢を守る」
「会いたい時はどうしたらいい?」
「殻越しにペタちゃんへ呼びかけてから就寝を。そうしたら夢へ訪ねる。命令の変更や契約の解除を望む場合もそのように」
「うん、わかった。よろしくねペタちゃん」
「承諾。契約に感謝を、ペタちゃんのマスター」
──【悪魔使役】スキル取得