軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:虚無期間のちょっとした襲撃イベント

ログインまだです。

ここ数日の僕らはのんびりとレベル上げに精を出しつつ、ドロップした素材を貯め込んだりして、昔ながらのMMOらしい遊び方をしていた。

他のプレイヤー達も船出が本格的に始まったり、砂漠の塔に挑んでは返り討ちにあったりと忙しいらしい。

特に大きなニュースは、攻略サイトを運営している人が『夢のミノカサゴ幻獣』ちゃんと契約したらしいって事。

わぁお、タイムリー。

夢の幻獣はペット用従魔みたいに拠点特化型らしくて、睡眠バフに大きく貢献するんだって。

そして100%じゃないけど、睡眠中に希望する夢に行くことが出来る……つまり、『夢の牢獄坑道』に頻繁に通う事ができるようになる特殊能力があるらしい。

これには武具職人系の生産職が食い付いた。

レゾアニムス鉱は常に一定の需要があるからね。

睡眠バフは生産スキルにも効果があるから、どっちにしろ嬉しい仕様。

ただ、仲間にする方法が『夢で会う』しかなくて、夢で会うには雄夜が占い用に作ってくれた『夢見る白紙』が必要らしい。

そして『夢見る白紙』を作るには、『 微睡(まどろみ) の森の木』が必要。

ベッドの素材としての需要が大きい上に、僕らが気紛れにしか放出しないから、かなりお高い素材……

だから、今のところは『夢のミノカサゴ幻獣』ちゃんとの契約は、狭き門になっているんだって。

……さて、そんな風に過ごしていたある日の事。

夕飯の支度をしていた雄夜のスマホからピロンと通知音がした。

「なんか鳴ったよー」

「うん…… エフォ(EFO) の通知だ。『緊急襲撃ミッション』だって」

「へぇ~」

「……真紀奈のスマホの通知は?」

「ゲームの通知が鳴るの好きじゃないから切った!」

「だよな、知ってた」

なにやら初回ピリオ襲撃の時みたいにイベントムービーがあるらしいから、出来上がった夕飯を食べながら見る事にする。

本日のメニューは、ご飯と焼き鮭にお味噌汁っていうテンプレ和食です。

「「いただきます」」

ムービースタート。

シーンは、どこかの深い森を分け入って進む誰かの姿で始まった。

『ハァ……ハァ……』

獣道も無い薄暗い木々の間を息を切らせながら辛そうに進む、農民っぽい恰好をした誰か。

武器らしい武器は草刈り鎌だけっていう中年男性は……たぶん、NPCかな? なんかちょっと目付きが悪い。

ガサガサと藪を掻き分けて進む男性は、森の中に隠されるみたいに作られた畑に辿り着いた。

……これ歴史漫画とかで見たことあるやつだ。後ろめたい事情のある、偉い人に内緒の畑。

畑には大根がたくさん植えられていた。

大根……ん? 大根???

男が近付くと……大根達は振り向いて、つぶらな瞳を男に向けた。

違うこれ大根じゃない!

マンドラゴラちゃんだ!

男はマンドラゴラちゃん達を見て、ものすごく悪そうな顔でニヤリと笑った。

『へっへっへ……元気に育てよぉ、俺の可愛い金蔓ちゃんたちよぉ~』

わぁお、絵に描いたような悪役台詞。

『今日はお前たちにとっておきを持ってきたんだぜぇ~……これだぁ』

そう言いながら男が取り出したのは、ずっしりと重そうな紙袋。

紙袋の表には……マッスルな豊穣神が酒瓶片手に乱痴気騒ぎをしているような姿が描かれている。

『かつて豊穣神が酒の神と祭りの神との酒宴で酔いつぶれた時に出来たとされる伝説の肥料……『作物栄養剤~マッスル御乱神~』!!』

名前がひどい。

『作物への影響が大きすぎるってんで、ほとんどの国でご禁制になってる代物だぁ……やぁっと手に入ったぜぇ……開拓中の異世界ならお上の目も届かないってもんよ。こいつを使って、巨大で効果の大きなマンドラゴラを育てれば、俺もお貴族様の仲間入りだぁ!』

すごい、なんてわかりやすい浅慮な雑魚キャラなんだ。

男は袋の口を開けて、中の粉を花咲か爺さんみたいにバッサバッサと畑に撒き散らし始めた。

降り注ぐ肥料を浴びて輝き、ぷるぷると震えだすマンドラゴラちゃん達。

そんな様子を見て、満足そうに悪い笑顔を浮かべる男が大写しになって……その男の顔が、徐々に目を見開いて驚愕に変わっていき、そこに下からせり上がる影が重なっていく。

モゴモゴと土の蠢くような音。

畑から、黒い影がどんどん大きく盛り上がっていく。

『ヒ、ヒィイイッ!?』

尻もちをついた男は恐怖に満ちた顔で何かを見上げて……影はさらに大きくなっていき……

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!』

森に響き渡る男の悲鳴と、地面に落ちた紙袋から零れた肥料が、風に乗って飛んでいく描写。

そして最後に『Endless Field Online』のロゴを大きく映して、動画は終わった。

「……なんでちょっとホラー風味?」

「さぁ?」

雄夜が苦笑いしながら、緊急襲撃ミッションの詳細ページを開く。

……肥料で大きくなったマンドラゴラちゃんってどんなかなぁ?

もしかして、まんまるなカブみたいになっちゃった?

それはそれで可愛いかもしれない。

なんて思っていたら、そこには……ムッキムキの筋肉を備えた8頭身マッチョに成長してしまった純白の大根がボディビルダーなポーズを取っている姿が!!

「なんで!?」

「うわぁ……」

あの可愛いゆるきゃらみたいなマンドラゴラちゃんが!!!

小っちゃいおててピコピコ振ってたマンドラゴラちゃんが!!!

「どうしてこんな逆三角形マッチョに!?」

「……まぁ、御乱心した豊穣神の影響だよな、どう考えても」

でかでかと書かれた煽り文句は……『あなたを、健康にしたい』

そしてミッション詳細ページには、導入らしき説明が書かれていた。

『悪い農家がばらまいたご禁制の肥料によって、マンドラゴラ達はマッスラゴラに超進化してしまいました!』

『筋肉の素晴らしさを知ったマッスラゴラ達は、自らを育んでくれたヒトの子達にもその喜びを伝えるため、ピリオノート目指して押し寄せてきます!』

『マッスラゴラに接近され、『マッスラゴラの芽』で殴られると……なんという事でしょう! 一時的にマッスラゴラと同じ姿になってしまうではありませんか!?』

『お願い冒険者達! ドーピングの闇に堕ちてしまったマッスラゴラを倒して、ピリオノートの平和を守って!』

「う~わ! やだぁあああ!」

「健康なのかドーピングなのかどっちだよ」

なんかもう、虚無期間を埋めるのにすーごい雑なイベント出してきた感。

NPCに死者が出ない襲撃だから、かなりラフな気持ちで参加していいらしいんだけど……

「え、でもNPCが襲われたら、そのNPCはしばらくマッスラゴラの姿になっちゃうんでしょ?」

「そうだね」

「ってことは、ピリオの防壁が突破されたら……ピリオはしばらくマッスラゴラの住む町になっちゃうって事でしょ?」

「そうだね」

「う~わ! やだぁあああ!」

ムービーに出てた悪い農家男が、服はそのままに体がマッスラゴラの姿になってしまっている画像が被害の例として貼られている。

……これまみれになるのもイヤだし、これになるのもイヤだ。

「てか展開のベースがゾンビ映画じゃん!!」

「ああ、確かに。感染もしてるわ」

なんでホラー風味だったのかの謎が解けちゃったよ!

嬉しくないなぁ!