作品タイトル不明
キ:取り替えっこのお店
ビッ……クリしたぁ〜……
ちょっとした浮遊感と、周りの景色がグルンと回ったかと思ったら、僕と相棒は薄暗い部屋のカウンター前に立っていた。
「おや、いらっしゃい」
カウンターの向こうには、モノクルを着けたでっぷりとした体格の……たぶん、ケモ率マックスな猫獣人? 毛並みは三毛猫、声は女性。着ている服は商人な感じ。
「……えっと、すいません、ココどこですか?」
ポカンとしたまま訊くと、猫さんはクツクツ含み笑いをしながら答えてくれた。
「ここは猫の取り替えっこ屋さん。お店のモノとお客のモノを取り替えっこするお店」
お店。
言われて店をグルリと見渡すと、ディスカウントストアみたいに大量の色んなモノが、雑多に籠や棚に入って並べられている。
「同じ種類のモノ同士で取り替えっこするのがここのルール。猫に小判はいらないの。取り替えっこするのが楽しくてやってるお店。いわゆる趣味でして」
趣味かぁ〜
気ままな猫っぽいお店だ。
「じゃあ……例えば剣と何かを交換ってなったら?」
「何か他の武器との取り替えっこ」
「どんな物を交換出来るの?」
「命や心や時間や世界は難しい。取り替えっこ出来るモノがお店に無いなら、もちろん取り替えっこできないし」
それはそう。
そして僕は、カウンターの向こう……猫さんの背後に並んだ棚に目をやった。
カウンターのこっち側にあるモノとは少し毛色の違う、水晶玉みたいなモノがゴロゴロと並んでいる。
「その後ろの棚のも取り替えっこ出来るモノ?」
「もちろん」
「こっちにあるモノとは何か違うの?」
「カウンター裏のは触ったら取り替えっこしちゃうから、猫が知らない内に取り替えっこにならないように、こっちにあるの。中身がスキルとか、魔法とかだから」
……なんと?
「えっ、スキルとか魔法も取り替えっこ出来るの!?」
「もちろん。猫のお店だもの」
ワァオ!
この店って、プレイヤー的にはメインはコレなのでは?
「どんなモノがあるの?」
「そうだねぇ……貴方がたが使えそうなのは、この辺かな?」
そう言うと、「触らないでね」と念を押してから、いくつかの水晶玉をトレイに乗せてカウンターに移してくれた。
「魔女さんにオススメなのは、【鏡魔法】。射手さんにオススメなのは【急所看破】と【遠見】」
おお……自己紹介もしてないのに職業が割れている。
この猫さん、只者ではない。
「……ちなみに、僕らが使えなさそうなのって、例えばどんな?」
「例えば? 鱗が無いのに【鱗斬り】を覚えてもしょうがないね?」
うん、それは使えないわ。
「どうしよう……せっかくだから欲しい。相棒はどうする?」
「んー……俺は今の所は必要ないかな」
じゃあ僕だけ取り替えっこしよう。
「【鏡魔法】ってどんな魔法?」
「【鏡魔法】は鏡みたいな魔法。魔法を反射する、鏡像を作り出す、鏡を作る、鏡の境界を越える。そんな魔法」
鏡そのものは苦手だけど、【鏡魔法】は面白そう。
「じゃあ【鏡魔法】と……何となら取り替えっこ出来ます?」
「スキルか魔法ならなんでも。ただし、取り替えっこしたら、また取り替えっこしないとそれは覚えられなくなるから気を付けて」
なるほど。
簡単に覚えられるスキルを何度も覚え直してレアスキル量産〜みたいな事は出来ないんだね。
さて、僕は魔女職になる前にクラフター職を通過している。
その時に習得した【陶芸】とか【鍛冶】とか【石工】とかがまったく使ってないまま残っているのだ。
特に【鍛冶】なんてね、ジャックがいるからまず自分では使わない。
「じゃあ【鍛冶】スキルと【鏡魔法】を取り替えっこで」
「はい、じゃあ水晶玉に触ってどうぞ」
テンプレ占い師が持ってそうな水晶玉。なかなかテンションの上がるそれに、恐る恐る指先で触れる。
あ、温かい。
思いがけず心地良い温度の水晶玉。
すると水晶玉の中に銀色の光が浮かび上がって、クルンと回転して赤い光になった。
「はい取り替えっこ」
あ、もう終わりなんだ?
ステータスを確認してみると……うん、【鍛冶】が消えて【鏡魔法】になってる。
「面白い!」
「でしょう? 取り替えっこは面白いからやめられないの」
満足そうな猫さんは、使わなかった水晶玉を後ろの棚に戻した。
「取り替えっこのラインナップって、しばらくしたら変わったりします?」
「もちろん。うちは猫のいる色んな世界からお客が来るから。こっちでは普通のモノも、あっちでは珍しいなんてよくある話」
「じゃあ【鍛冶】スキルが珍しい世界もある?」
「もちろん。入荷を待ってる誰かさんはたくさんいるの」
なるほど。
じゃあこの【鏡魔法】も、どこかの世界では珍しくもなんともないかもしれないわけだね。
これは時々新商品チェックをしに来たくなるお店ですよ。
交換するものが無くたって、めっちゃファンタジーしてて楽しいもん。