軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:花の道行きストライク

僕に相棒からの一報が届いたのは、僕がダメージ床役をやめて、前進した事で後ろに数匹回って来るようになった敵を相手にするようになった頃だった。

(あった)

(え、見つけた!?)

(うん、【居場所検知】で方角確認して伝えて)

(オッケー!)

さすが相棒!

死に戻り無しできっちり見つけて辿り着いてる!

(ちなみに、持っては来れない感じなんだよね?)

(無理だね、なんか巨大化してるわ)

おおん、それは無理だわ。

オッケーオッケー、メガホン入りまーす。

「相棒が結晶見つけたよー! 巨大化してて持ち運べないから来てってー!」

「はいよ」

「き、巨大化ですか!?」

「まぁ壊しにくくなってるのは想定内」

「方角を頼む!」

はーい、結婚指輪の【居場所検知】……あっちの方ね。

「行くよー! 【リーフクリエイト】!」

……その時、僕は特に何も考えずに【草魔法】を使っていた。

ただ、岩ばかりだから植物は目立つだろうと思って、それだけの理由で。

いつもの花を。

花の魔法といえばコレって、僕の中でお馴染みになってしまった、火色の花を。

咲いて、咲いて、奈落を真っ直ぐに貫く花の絨毯が伸びる。

だから、それを目にした未練の半分が動きを止めるなんて思わなかった。

「えっ?」

滅びの虫は反応しない。

もう半分の未練も反応しない。

ただ、花を見つめた情念達は……

── ア ァ ア ァ ア ァ ア ア!!

喉も無いのに叫びを上げた。

「何!?」

「なんだなんだ!?」

悲鳴でもなく嘆きでもない、どうしたって喜びの滲んだ叫び声が奈落の空間に響き渡って。

そして未練は、バラリと輪郭が曖昧になった。

体の一部が蝶に変じて、そして成りかけの姿のままで、滅びの虫に食らいつく。

呆気にとられる僕の所に、夾竹桃さんが笑顔でやってきた。

「ねぇ! 今の花って何ー!?」

「えっ……えっと、この世界の追悼の花?」

「あれが!?」

僕は夾竹桃さんに、ネビュラに聞いた花の事を伝えた。

追悼の花。

『はよ戻ってこい』なんて面白おかしく言うけれど、それは結局、戻ってきてほしいって望みの事。

聞いた夾竹桃さんは、ケラケラと楽しそうに笑う。

「なんだー! 道理でピリオの花屋で買った白い花じゃなんにも起きないわけだよー!」

「えっ? えっ?」

「……【呪術士】は、情念を燃料にして呪いと祝福を使う職業なんだよ。だから奈落のモンスターが抱えている未練を見る事もできるんだー」

死んで、死の海で洗われて、洗い流された未練達は。

「ここで一番数が多いのはねー……『花を貰いたかったなー』って、ちょっとした未練だったんだ」

……そう、そっか。

夾竹桃さんは文字通りに受け取った。

白い花を渡して、でもそれは、ただの花でしかなくて。

きっと『花を貰いたかった』っていうのは、『少しだけでも惜しんで欲しかったな』って、『誰かに待ってて欲しかったな』って。

そんな未練。

振り切って次の生に逝くなら、必要の無いモノ。

「未練が成就した。見えるよ、あれらはもう嘆かない。アハッ、むしろブチギレてるねー!『これから生まれ直す世界を滅ぼすとか冗談じゃねぇぞ!』ってー」

わぁお。

嘆いても襲いかかって、嘆かなくても襲いかかって、望みのささやかさに反してずいぶんとバイオレンスな未練ですね??

とはいえ三つ巴状態が2対1になったのは好都合。

それなら今のうちに、一気に結晶の所にむかおうかと思った時だった。

霧で見えなくなるギリギリのライン。

奈落の情念がズルリと集まり、ギチギチギチギチと嫌な音を立ててひとつの巨体を形作る。

それを見て夾竹桃さんが口元を引きつらせた。

「……ヤッバイ!! なんか影に入ってー!! 広範囲精神デバフ来るー!!」

あくまで未練の半分が花に反応しただけで、残り半分は関係ない。

細く長く伸び上がった斑模様の集合体は、頂点がガパリと11枚に割れた口を開き、そこに不気味な光が集まり始めた。

「いかん! 動くなよ!」

「光線系ですか!?」

駆けつけたド根性さんのゴーレムが僕らを庇うように前に立つ。

……広範囲精神デバフ。

ひとつ思いついた。

上手くいけば、なんとかなるかな?

イメージはハロウィンの仮装。

通りすがりのオバケちゃんに協力してもらって、パーティメンバーをオバケの格好にして怖い精神デバフから身を守るんだ。

いるでしょオバケちゃん。

今まさに未練が消えたばっかりだもんね!

ちょっと蝶々になる前に協力しておくれ!

「【ネクロマンスクリエイト】!」

ポポポポポッとキャラキャラ笑っているポヨンとしたデフォルメオバケが出てきて、皆の頭に抱きつくみたいに帽子っぽく取り憑いた。

── キ ン ッ

怪光線が周囲を包む。

虫達には効かないのか、特に動きは変わらない。

僕らにも……大丈夫、デバフもらったのは一人もいない!

ゴーレムガードが効いたのか、僕の魔法が効いたのかは分からないけど。全員無傷なら問題無し!

「【天来インパクト】!」

僕らが固まった隙に近付いてきた虫達を、アルネブさんが咄嗟に薙ぎ払った。

「キーナさん」

「はい」

「このオバケの帽子は何ですか?」

「精神デバフ防止です。帽子だけに!」

「クソギャグじゃねーか!!」

「アッヒャッヒャッヒャッ!」

「すごくカワイイわ」

ごめんよ緊張感が無くて!

でもギャーギャー言いながらもあっという間に元の戦況に戻せるのすごいよね皆。

「ええい! とにかく前進! さっさと結晶壊して片付けるからな! ──【サモンインセクト:空中楼閣の近衛兵】!」

追加で呼び出された大きな蜂のモンスターが花の道の上の敵を蹴散らして切り開く。

殲滅範囲が広いから敵の湧きにも対応できてる。ゴーレムと【星魔法】とその他でグイグイと押し込んで行く。

そうして辿り着いた隣の広場には、ずいぶん大きくなった結晶が荘厳ささえ漂わせて待っていた。

「あれかー」

「うわデッカ! ……俺が小さいからデカく見えてるわけじゃないっしょ?」

「大丈夫よ、私達から見ても大きいわ」

あれってやっぱり耐久というかHP的なモノも増えてるのかな?

とりあえず相棒と合流しなきゃ。

そう思って僕は声を出す。

「相棒ー! 来たよー!」

「うむ! よくぞ見つけて耐え忍んでくれた!」

そうしたら、ゴーレムを操るド根性さんが、それはそれは嬉しそうな声で言った。

「後は任せろ! ぬぅおおおおああああ!!」

「え、ちょっ」

カステラさんが止める暇もない。

突如最高速度で走り出したゴーレム。

ド根性さんは、前傾姿勢からお手本みたいに綺麗なフォームで、流れるように拳を振り被り。

巨大化した結晶に思いっきり叩きつけた!

──ズガァアアアンッ!!

うわぁっ!?

思わず首を竦めたくらいにすごい音がした。

……結晶は? まだある……けど、今のでもうかなりヒビが入ってバキバキ。

ド根性さんはそのまま結晶に ゴッ! ゴッ! っと拳を入れている。

「……勢いだけで押し切ったな?」

「こうなっちゃえば楽だわ……【天来インパクト】」

「フレンドリーファイア無しだから気にしなくていいもんねー」

「わっ、わわっ、すごい音がします……」

ここまで押し切ってしまえば、虫は湧いたそばからアルネブさんの魔法で蒸発するだけ。

プレイヤーで言うならリスキルってやつだね。

あ、ネビュラに乗った相棒が戻って来た。

「おかえりー」

「……ただいま」

「なんか疲れてる?」

「……結晶の後ろにいたら、ゴーレムの攻撃に巻き込まれかけた」

「あっぶな!」

FFは無いから大丈夫だったとは思うけど!

ゴーレムはなかなか運用に気を使いそうな戦闘手段だね。

後は大きな結晶を、皆でタコ殴りにして破壊して終わり。

ボス敵みたいなのは特に無し。イベントのあの状況を考えれば、例の使徒がボス役だっただろうからね。

そして結晶と虫を片付けると、僕の花に反応していた未練は霊蝶になって消えていった。

こうして、僕らの奈落制圧戦は、大成功で幕を閉じたのだった。