軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王妃に這いよる何か

実の母親を訪ねてきた俺ですが、ぶっちゃけこのおばさんとはあまり関わりたくなかった。これまで俺や今の俺の家族であるゼンフィス家に、よからぬことをしまくってきたからね。

ただ、このおばさんが表舞台から退場するのはちょっと困る。

国内が乱れに乱れてしまうかもしれないからだ。なのでシャルロッテが成人するまでは、国内の均衡を保つためにも生かしておかねばならない。

とはいえ首輪を嵌められても野心は削がれていないようで、裏で魔人とつながったりしてたんだよね。しぶとい。

で、今度は学院のオモシロ集団と接触するのだとか。

そいつらと何を企もうと俺にはどうでもいいのだが、問題はシャルロッテがそのオモシロ学生集団を次なる遊び相手に決めてしまったこと。

妹の安全を確保すべく、俺は上手く立ち回らなければならない。

「お前、アレクセイ・グーベルクを知っているな?」

ぴくりと、警戒MAXなギーゼロッテの片眉が跳ねた。

「……唐突ね。ええ、知っているわ。グーベルク伯爵家の後継者というだけでなく、魔法力でいえば現状、学院でトップの英才だものね」

ふうん、やっぱすごい人だったのか。

「そいつと近々会うそうじゃないか」

「彼は王都でのグーベルク当主の 名代(みょうだい) よ。有力貴族が王族と意見交換するのは、そう珍しいことではないわ」

「会うのは貴族家当主の代わりとしてじゃなく、〝ナンバーズ〟の代表として、だろ?」

ギーゼロッテがぎろりと俺を睨みつけてきた。おーこわ。

「……そう。すべてお見通しってことなのね」

ぐいっとグラスの中身を飲み干して、ギーゼロッテはソファーに深く腰掛けた。

「貴方、ゼンフィス卿と懇意にしているものね。つまりは国王派」

いきなりなんの話だ?

「ふふふ。さすがの貴方でも、王妃であるわたくしと、貴族派が手を結ぶのを恐れているようね」

だからなんのお話で?

「いいわ。なら取引といきましょうか。彼らの申し出を断る代わりに、この首輪を――ッ!?」

すぽーんとギーゼロッテの首が真上に飛んでいき、「ぴぎゃっ!」天井に頭をぶつけた。落っこちてきた頭は体と引き合って、すぽっと元の位置に収まる。

「な、なななな……」

「お前、自分の立場がわかってないのか? 俺と対等な取引ができるとでも?」

「だったらなんの用があってここに来たというの!?」

いやまあ、『1』の人ことアレクセイ先輩に嫌がらせするため、こいつに『手を組むな』と言いに来たんだけどね。その意味では合っているんだけど。

「ああ、なるほどね」

ギーゼロッテはぶつけた個所を手で押さえながら薄笑いを浮かべた。

「わたくしに手を組ませたうえで、彼らから情報を引き出そうという魂胆かしら」

その発想はなかったな。悪だくみに関しては俺より一枚上手だな、こいつ。

「いいわ。この際だから使われてあげようじゃないの。わたくしだって初めからそのつもりだったしね」

話についていけずに黙っていたら、とんとん拍子に進んでってますね。

でもまあ、いいのかな? 予定とは違うが、ナンバーズとやらの思惑が知れるかもしれないし。

となれば一点、釘を刺しておくか。

「学生を危険な目には遭わせるなよ」

どうやらこいつ、まだナンバーズにシャルがいるとは知らないようだ。他のメンバーはどうでもいいんだけど、いちおう今の遊び相手だし、ドロドロぐちゃぐちゃした状況にはしたくない。

「どういうこと? 貴方にとっては敵視すべき貴族派の子息たちよ?」

貴族派とか知らんがな。さて、どう言い訳しよう?

考えていたら、またも勝手に素っ頓狂な答えにたどり着いたらしい。

「……なるほど。あくまで貴方の敵は、彼らの背後で暗躍する〝教団〟というわけね」

また妙なワードが出てきたぞ。教団って何よ?

「なら、わたくしとも共闘できると思うけれど? 誤解しているかもしれないけれど、資金提供しているのは連中を利用するためであって、その教義に共感したわけではないもの」

「お前と馴れ合うつもりはない」

とりあえず本心をかっこよさげに言っておく。ぷぷ、王妃さんぐぬぬしてやがる。

ま、勝手されるのも後々面倒かもしれんし、話に乗っかってさらに釘を刺しておくか。

「ついでに忠告してやろう。教団はお前ごときがどうにかできる相手ではない。足を掬われるどころか、ギリギリつなぎとめている命を、自ら捨てることになるぞ」

ギーゼロッテの顔が強張る。

ぶっちゃけ教団とやらがなんなのか知らんので適当ぶっこいただけなんだけど、かなり効果はあったようだ。

「貴方、どこまで知っているの? ルシファイラ教団のことを、どこまで……」

ルシファイラ? どっかで聞いたような……ああ――。

「魔神……」

の名前だったっけか。バル・アゴスとかいう貴族に扮した魔人が言ってたな。復活させるとかなんとか。

「ッ!?」

ん? なんかギーゼロッテの顔が青くなったぞ? 俺今、なんか口走った? まあいっか。

「とりま用は済んだ。ナンバーズとはつかず離れず、あちらの窓口はグーベルクだけにして情報を引き出してくれ」

「……さらりと条件が追加されているわね」

下手に他のメンバーに接触されてシャルと会ったりする事態になると困るからな。この女は情操教育に悪いのだ。

「では、さらばだ」

光学迷彩結界ですぅーっと姿を消すと、こいつめ、驚きに目を見開いてやがる。俺はこっそり入ってきた窓から音を消して出ていった。そして静かに窓を閉めたのだ――。

★★★

シヴァなる黒い男が消え去った。

ギーゼロッテはしばらく警戒してから、ようやく強張らせた体から力を抜く。ずきりと、頭の奥の痛みが告げる。

あの男には、絶対に勝てない。

一度でも対峙した者なら、この恐怖が呪いのように全身を蝕むだろう。

底知れぬ魔力、不可解な魔法。

たとえ当代最強と謳われた彼女といえど、個の力で勝てぬ相手は過去にもいた。魔王がそうだ。

しかしアレはまだ、群れとして対処できる範疇だった。実際、勝てはしたのだから。

(けれど、あの男は……)

たとえ国内の精鋭すべてを動員しても、勝てるどころかまともな『戦い』になるかも怪しい。

対等に戦える相手がいるとすれば、それはもはや、神代の化け物ども以外にないだろう。

で、あれば――。

「魔神……」

シヴァが思わずといった風に漏らした言葉。

ズキズキと痛む頭を押さえ、ギーゼロッテは歪に笑った。

これまで、いくら探ってもルシファイラ教団の真なる目的が知れなかった。しかし教団に関わる話題で『魔神』なる言葉が出てきたことで、彼女は即座に彼らの目的に思い至ったのだ。

「魔神を、復活させるつもりなのね……」

もし、その力を手にすることができたなら。

ギーゼロッテは、そっと首輪に手を添えた。

「あの男に、勝てるかもしれない……」

キーン、と。頭の中心に激痛が生まれた。割れるような痛みに頭を抱える。

「な、に……?」

そして、痛みとともに、頭の中で響くような声が聞こえる。

『ああ、その渇望、焼け爛れるほどの怨讐。ようやく、見つけたぞ』

「だ、れ……? なんなの、いったい……?」

『我が声を聞きし者よ、そなたの望み、我が叶えてやろうぞ。疾く、我が依り代となるがいい!』

「いや、ちょ、待――」

今さらの拒絶は意味を成さない。ひとたび願ってしまった以上、彼女に抗う術はもはやなかった。

ギーゼロッテは両の眼をぐるりと反転させ、意識を刈り取られた――。