軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たなる魔人

ドッカーンッ!

「ひょわぁ!?」

大音響にポルコスは物理的に飛び上がって驚いた。

「な、何が……?」

爆発音のような轟音は外からだ。おそらく正面玄関の辺りだろう。

確認に行きたいところだが、ソファーで横たわっている幼い女の子を一人にはしておけない。

ひとまず何か異変は見て取れないかと、窓を開いて身を乗り出したそのとき。

「ばあっ!」

「ぎゃわーーーッ! ――ぁ」

何かが目の前に現れて、びっくりしすぎたポルコスは気絶して倒れてしまった。

「あっはっは、『ぎゃわー』だって。ウケるぅ」

窓の外、整った顔立ちの男が逆さまになっていて、ケラケラと笑う。白く長い髪。少年のような少女のような屈託のない笑みを浮かべていた。

するりと窓から入ってくると、足元のポルコスを見て首を傾げる。

「にしても、この程度で驚いて気絶? うーん、外の結界はめちゃくちゃ固かったんだけど、こいつじゃないのか?」

足で小突いても目を覚まさない。魔力もさほど感じず、男は不思議がった。

「オルセ……」

ソファーにいた少女が弱々しくつぶやく。

「うん、久しぶりだね、メルキュメーネス。やけに小さくなっちゃったなあ」

男――オルセは軽薄な笑みを浮かべて彼女に歩み寄った。

「何をしに、来た……?」

「ん? そりゃあもちろん、魔力が枯渇して力を失くした君を救いに――なぁんて!」

オルセはケタケタ笑うと大仰に両手を広げた。

「いつまで経っても王都を壊滅させたとの報が届かなかったからね。様子を見に来たのさ。そうしたら王都は平穏無事。なけなしの魔力を辿ってみれば残り滓みたいな君がいるじゃないか。だからさ――」

ぞくりとメルキュメーネスの背に怖気が走る。

「話せ。何があったのか。その後、君は処分する」

オルセは軽薄な笑みを顔に貼りつけたまま続ける。

「生存に特化した君には受け入れがたいとは思うけど、これはもう僕の中での決定事項だよ。王都を壊滅させる任務に失敗したばかりか、それを報告もしないなんてね。許されるなんて考えるほうがどうかしてるよ」

「……」

「うん、話すつもりがないならすぐに殺すよ? だったらすこしでも生存のための考えを巡らす時間を稼ぐ意味で、洗いざらい報告したほうがいいと思うけどなあ」

いずれにせよ、自身の『死』は確定事項だ。

メルキュメーネスは壊れてしまった。

魔神復活という最優先目標を失いかけている。ただ生存のための機能が暴走し、生きること以外がおざなりになっていた。

今やるべきは、この窮地を脱することのみ。

だから彼女は――。

「い、いや! いやだ! 助けて!」

ソファーの上で体をまるめて叫んだ。

「おいおい、なんのマネだい? 本当に君、どこか壊れちゃった――ぐっ!?」

真横からの衝撃。見えない何かに押され、オルセは開いた窓から外へ飛ばされた。

これでいい。

ひとまず目の前の脅威は〝彼〟が排除してくれるだろう。だが自分が魔人であるとオルセから告げられれば、今度は自身が〝彼〟に殺される。

今から逃げたとしても、きっと追いつかれる。もはや祈るしかなかった――。

屋外に放り出されたオルセはいまだ透明な何かに押されていた。角度が変わり、今度は上昇を始める。

「なんなんだ、これは……?」

ダメージを受けるものではなかった。弾き飛ばそうにもびくともせず、離れようとしてもぴったりくっついている。

「……結界? この魔力の質は、さっき僕が破壊した結界にそっくりだ」

調べようとした矢先、唐突にそれは消え去った。自由になったところで体勢を整えた瞬間、

「なっ!? 今度は床だと!?」

格子状の模様が入った白い床にオルセは着地した。しかしここは上空――おそらく数百メートルに位置する。 しかも床は前後左右に大きく広がっていて、目測で直径一キロにも及んでいた。

「バカな……。さっきまで、こんなものはなかった。いつの間に……」

オルセは正面を睨み据えて問う。

「貴様がやったのか、真っ黒いの」

全身が黒の異様な姿をした男が立っていた。

「そうだ。そして質問に答えてやったのだからお前も答えろ。お前、魔人だな?」

いくつもの声が重なったような耳障りな声音だ。

「へえ、よく気づいたね。ミージャの水晶でもバレないようにしてるのに」

「だからだよ。お前、メルキュメーネスやアゴスと同じでよく 見えない(・・・・) からな」

言っている意味がわからなかった。

意味が解らないのは彼の思惑もだ。

「不意をついたなら、一気に殺すつもりでやるものじゃないかなあ? 最低でもダメージを与えておくものだろう? かといって友好的に対話しようって様子もない。君、何がしたいのさ?」

「なに、俺の都合だよ。聖武具もどきのプレゼンをやるのに、俺自身がやったんじゃマズいと気づいてね。改めて魔人相手に相応の使い手が試して、学院長には納得してもらおうと考えたまでだ」

ますます言っている意味がわからなかった。

だがもっと意味が解らないのは――。

「なん、だ、それは……?」

彼の腕に、板状の何かが突如として現れた。そして背には杭のようなものが複数。

床もそうだが、何もないところから物体が出現するなどあり得ない。それは神の域――創造魔法の領域なのだから。

(いや、そんなはずはない。何かカラクリがあるはずだ)

オルセは会話の中で何かしら情報を得ようと躍起になる。

「ついでに訊きたいことがいくつかある。まずはオリンピウス遺跡でなんやかや悪さしてたのはお前だな?」

ずびしっと指差されても心当たりはまったくなかった。

「それからメル――あの幼い女の子を攫って何を企んでいる? 魔神の復活と関係が?」

「そんなもの……裏切り者を殺しに来たに決まってるだろう?」

「ふん、裏切り者ときたか……。無理やり協力させておいてその言い草、本当にゲスだな!」

「貴様、さっきから何を――」

「黙れ!」

質問しておいてその言い草はどうかとオルセは思う。

(ともあれ、こいつはアレがメルキュメーネスだとは気づいていないようだね)

だとすれば、メルキュメーネスが正体を隠してこの奇妙な男に接触したと考えられる。

なら、あえて真実を教えてやることはない。

「俺は正義の執行者、その名もシヴァ。名も知らぬ魔人よ、俺が学院で引きこもるため、ついでに小さな女の子を虐めた罪を贖え!」

黒い男が妙なポーズを決めた。

もはや話す余地はない。そもそも話が通じない。

得体の知れない男ではあってもしょせんは人間。魔人たる自分が負けていいはずがなかった。

魔人オルセは、戦闘態勢に完全移行した――。