軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺跡を支配する者

薄暗い部屋の中央に、二メートルほどの大きな水晶が浮いていた。青白く光る水晶の周囲には帯状の魔法陣がいくつもゆっくりと回っている。

壁や床、天井にまでびっしりと古代文字が描かれた部屋の片隅で、〝彼女〟は膝を抱えてうずくまっていた。その背には片方だけ黒い翼が生えている。

魔神より生まれし純粋なる魔人、メルキュメーネスだ。

彼女は壊れてしまった。

与えられた使命は『生きて魔神ルシファイラの復活を達成すること』である。

しかし〝神〟に等しい存在を目の当たりにして、生存に特化した彼女は『生き残る』との機能が暴走し、魔神復活の目標を失いかけていたのだ。

遠く離れた場所に身を隠せばよいものを、なけなしの目標がそれを邪魔する。魔神復活を果たすには、 王国(この地) から離れられなかったのだ。

メルキュメーネスはただ『生きる』ため、 ここへ(・・・) 逃れてきた。

生存に特化した魔人だからこそ生きてたどり着いた場所。閃光姫をもってしても到達できない領域だ。

制御権は奪取した。

地脈に加えて自身の魔力も譲渡すれば強力な魔物を生成し展開できる。あの男には無意味と知りつつも、時間を稼ぐには十分だと割りきった。

いや、あの男がここに来ることはない。

「ああ、そうだ。あれほどの者が、朽ちた遺跡に何を求めるというのだ……」

壊れた彼女の思考は最悪を都合よく否定し続けた。その結果が――。

部屋の隅で丸くなっていた彼女の背に、ぞわりと怖気が走った。

遅れて遺跡が侵入者を探知する。顔を上げると、大水晶の横に四角い画面が現れて外の様子を映していた。

ピンクのふりふりな衣装を着た女の子と男装の少女、そして黒髪の少年だ。

馬車を見送り、何やら話してのち、

「なっ――!?」

女の子が妙な棒を振り回した直後、突如としてドアらしきものが現れた。

映像のみで音声も魔力も伝わってはこない。だが明らかに魔法を使っていた。

創造魔法? いやあり得ない。では収納魔法か? そちらも失われて久しい最高難度の古代魔法だ。ではあの女の子は何をしたというのか?

「いや、違う。魔法を行使したのは、あの黒髪の……」

映像を通してではなく、感覚を鋭利にしているからこそ遠く離れてなお感じる、この禍々しいほどの強大な魔力。

知っている。

これは間違いなく、『黒い戦士』のものだ。

ではあの少年がシヴァの正体。それがなぜ、この場所にいる?

「我を、追ってきたのか……?」

メルキュメーネスは恐怖に囚われた。

何かしなければと焦りに焦り、ヒュージ・ロックイーターを送りこんだ。調整する余裕がなかったため最大の強度で生み出されたその魔物を――。

「一撃、だと……?」

奇妙な武器で放たれた一発の魔法の砲弾で、ヒュージ・ロックイーターは沈黙した。

続けて神殿地上階にワンダリング・ナイトを多数放ったものの、こちらも呆気なく一掃されてしまう。

「なん、だ……? あやつは、何をしに来たというのだ……?」

彼と比較して数百段は劣る少女と女の子を連れている不可解。彼自身も『黒い戦士』の姿をしていない。

目的が知れない。

知りたくとも近寄って探るなんて恐ろしくて無理だ。

「我を狙って、なのか……?」

おぞましい想像はしかし、振り払ってよいものではなかった。この遺跡から逃げるにしても外へ出る道はひとつ。迷宮に迷ってくれれば隙もできるが、正確に下の階を目指している彼とはいずれかち合うだろう。

「目的……そうだ。まずはあやつの目的を知らなければ……」

強迫観念に支配されたメルキュメーネスは自身の残魔力も顧みず、ひたすら強力な魔物をぶつけていく。

その表情、口の動きをつぶさに観察し、ようやく手掛かりをつかんだ。

「何かを、探している……?」

それを手に入れれば、彼はこちらの存在に気付かず立ち去ってくれるのだろうか?

だがそれが何かわからない。

こんな朽ちた遺跡に彼ほどの強者が望むモノなんてあるのだろうか?

彼らはのんきに食事を始めた。

ダンジョン内だというのに素材から調理し始め、どこから取り出したのか石窯を置いてピザを焼く。

男装の少女は呆れているような放心しているような表情だが、少年と女の子はさも当たり前のように振舞っていた。

食事を終えても彼らの快進撃は終わらない。

最初は様子を見ている風に慎重だったが、今では出会った瞬間に少年が妙な武器から魔弾を飛ばして魔物を消し飛ばしていた。

俗な表現をすれば、実に面倒臭そうだ。

もはやなりふり構ってはいられない。

メルキュメーネスはただひたすら自身の魔力を大水晶に注ぎこみ、ほんのわずかでも足止めしてくれと願っていた。

しかし彼らは容易く地下二十階層にまで到達する。

最深部まで三分の一にまで、だ。

もう、無理だ。何をやっても無駄に違いない。あのペースなら明日の昼には 制御室(ここ) へたどり着くだろう。

諦念に支配された彼女が放心したその直後。

「……? また、あの扉だと……?」

少年は(少女がしたように見せかけて)ドアらしきものを作り上げた。

ドアを開き、三人はそこを通っていく。

ぱたんと閉められると、少年を含めて三人の姿は消え去った。

「転移、魔法なのか……?」

メルキュメーネスが知るものとはまったく異なるものの、状況からしてそう判断してよいだろう。

であればこの隙に遺跡から逃げおおせるはずではあるのだが。

彼女にはもう、その魔力が残っていなかった――。