軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

授業参加免除への道

イリスはあんまり大丈夫じゃなく、俺に抱きついたあとぷっつりと意識が途絶えた。ティア教授ほんといい加減。

彼女を教授の仮眠室に寝かせ、俺は研究室に連れていかれた。

「ほうほう、なるほど」

とりま状況を説明してやると、一を聞いて十を知り百まで妄想を広げる(だったかな?)ティア教授は納得顔でうなずいた。

「あの管ってなんですか?」

「知っていながら質問するとはワタシを試しているのかな? ま、お察しのとおり魔法レベルの 概念そのもの(・・・・・・) だね」

「なるほど?」

「管の数は最大魔法レベルで、地面に接続されているのは現在魔法レベルで間違いないね。『レベルが閉じる』とはすなわち本来地面につながるものが何らかの理由でつながらなくなってしまったがゆえだ」

ティア教授は「いやはやまいった」と肩を竦めて俺をずびしっと指差すと、

「キミ、もはや神だよ」

なんじゃそりゃなことを言い放つ。

「もうね、ここに至ってワタシは確信した。神代の化け物どもと同等かそれ以上。いや確実に上回っているね。神の領域たるレベル概念を視認できて尚且ついじくれるなんてほんとキミ何者なの!?」

支離滅裂な発言では?

「でもアレを視ようとすると頭が痛くなるんですよね」

「むしろその程度で済んでいることが不思議なのだけど? なのだけど!?」

あんたちょっと落ち着きなよ。

「ただ視えるだけならまだしも触れて思いのまま動かせるとはねえ。ふむ…………」

「地面から引っこ抜いたりはしませんよ?」

「むろんワタシにはやめてほしい。でもちょっと試したくないかな? それでレベルが下がるのか、他にどんな影響があるのか、期待は膨らむばかりだよ」

期待とか言っちゃってるし。赤の他人には本当に無慈悲だな、この人。

「それはさておき、早急に試したいことがあるのだけど」

「他人を巻きこまないでくださいね」

「棘のある言い方だねえ。ま、君自身に関することさ。その目をもってして自身の魔法レベルを正確に知りたくはないかい?」

ああ、それね。

「自分の背中は見えません」

物理的に首が回らないのもそうだが、監視用結界や鏡を使って間接的に視ようとしたけどダメだった。直接この目で、しかも背中を視ないとダメらしい。地面に伸びてる管だけを数えようとしても無理。

「首を切り離せばいいじゃないか。例の魔人を切り刻んだやり方があるだろう?」

「あれを自分にやるのはちょっと抵抗が……」

デュラハンみたくなるのは嫌だ。

だいたい、俺は三桁表示できる改良版『ミージャの水晶』を作っている。それでもやっぱり魔法レベルは2のままだった。

「さすがに四桁ってことはないですよね?」

「キミなら100や200は超えていても不思議はないけど、さすがに四桁は神をも超える領域だ。でも、うーん……」

べつにレベル問題は今さらだからなあ。知ったところで変わることなんてない。

「ならひとまずワタシのを視てもらおうかな」

べつに構わないのだが、ティア教授はなぜか白衣を脱ぎ始めた。

「服から飛び出してるので脱ぐ必要はないですが?」

背中を直接視る必要があるくせに、服を着ていてもOKな不思議。

「魔法レベルは人に紐づく概念だよ。だったら肌からどんな風に出ているかを確認すれば新たな発見があるかもしれないだろう?」

シャツのボタンに手をかけてせっせと脱ぐちびっ子メガネ教授。

「さあ、思う存分視てくれたまえ!」

慎ましやかな胸くらいは隠したまえよ。ていうかこの状況って……。

油断していた俺も悪いが、いきなり生徒の前で半裸になったこの人が一番悪いと思う。

この最悪のタイミングで、唐突にドアが開かれた。

「ハルト、ここにいたの――かぁ!?」

おおイリス、意識が戻ったんだね。でもゆっくり休んでいてよかったんだよ?

「ななな……す、すまない! 二人がそういう関係だったとは知らなくて……。お、お礼が言いたかったのだけど、ボクはお邪魔だね。ごゆっくり!」

ものすごく誤解したまま引き返そうとした彼女の足がぴたりと止まる。俺が呼び止めたのではない。説明が面倒だからべつにいいかなとか思ってるし。

イリスはどかどかと現れた人たちに押されて部屋に戻されてしまった。

「ハルト・ゼンフィスはいるか! うむ、いたな。そこを動くなよ」

先頭にいたのは片眼鏡の美人教師。オラトリア・ベルカム教授だ。彼女の後ろにはタンクトップ教師やお爺ちゃん先生、俺の担任が続いていた。

「さっそくだが貴様、に……ぃ?」

俺に突き刺した鋭い視線がわずかに動き、半裸のちびっ子に向けられた。

あ、これアカン状況や。

個室に男子生徒と半裸の女教師。誰がどうみても禁断で背徳的ないかがわしい関係が今まさに築かれようとしている現場に違いなかろう。

これ、退学案件ですか?

ちょっと心躍ったものの、不貞行為による強制退学は父さんたちに迷惑をかけてしまうので本意ではない。でもこうなったら仕方ないとの諦念も俺の胸に渦巻いた。

下手に言い訳するよりも潔く罪を認めてちびっ子教師ともども学院から追放され――。

「みみみ見るなあ!!」

ベルカム教授は後ろにいた男性教師陣に電光石火の掌底やら膝蹴りをお見舞いする。

「「「ぐげぼぁっ!」」」

魔法体術担当のタンクトップ教師まで一撃で気絶させるとはすごいな。てかなんのコントだよこれ。

とまあ、そんなわけで――。

「古代魔法の研究だぁ?」

仁王立ちするベルカム教授の前で、俺と白衣をはおったティア教授はなぜか正座で説明を求められた。男性教師陣は目を回したままだ。

「具体的に話してもらおう。何をどう調べるのに貴様が裸になる必要があった!」

「無駄無駄。説明したってキミには理解できないよ」

「ききき貴様ぁ!」

むきーっと怒り心頭のベルカム教授もなんのその。ティア教授は煽りに煽って言い争いになった。

それが功を奏したのか最初から狙っていたのか、けっきょく半裸事件はうやむやになる。

「で、オラちゃんはハルト君になんの用があって来たのかな?」

「オラトリアだ。省略するな、まったく……こほん。ハルト・ゼンフィスの今後について話をしようと思ってな」

「俺の今後って……退学ですか?」

「なぜ目をらんらんと輝かせているのか知らんが……そうじゃない。いや、まったくの的外れというわけでもないのだが……」

「煮え切らないねえ。はっきり言ったらどうだい?」

茶々を入れるとこじゃないよ、ティア教授。俺以上に空気の読めない女だな。

ぎろりとにらまれても飄々としている彼女に無視を決めこんだのか、ベルカム教授は俺に顔を向けて真摯に告げる。

「講義にしろ実技にしろ、貴様の実力はもはや学生の枠から逸脱していると我らは判断した」

「だから授業を受けなくていいんですねひゃっほーいっ!」

「突然浮かれてどうした!? 話は最後まで聞かんか」

「あ、はい。すみません」

ベルカム教授はまたもこほんと咳払いして仕切り直す。

「卒業資格はそう簡単には与えられない。入学から一ヵ月も経たずに卒業など前例がないのでね。しかし授業に束縛するのも気が引ける。まだ十五歳の貴様には魔法技能以外にも学んでほしいことがたくさんあるからな」

「つまりどういうことですか?」

煮え切らないなあ。はっきり言ってよ。あ、にらまれた。

「貴様には少なくとも二年、学院に在籍してもらう。だがその間、授業への参加は免除しよう。やりたいことを自由にやってくれて構わない」

おおっ! つまり二年間は学校に引きこもれるということだな。

「ただし」

ん? なんか条件があんの?

「これらはあくまで我ら担当教師の考えだ。むろん学院側に許可を取るつもりだが、その際にはおそらく条件を突きつけられるだろう。貴様がそれに挑むかどうか、我らはその意思を確認しに来たのだ」

「やります」

「だから話は最後まで聞けと……」

どんな難関だろうが、合法的に二年間引きこもれるならなんだってやりますよ。

ベルカム教授が呆れつつも続きを話そうとしたところで、ティア教授がぼそりと割って入った。

「どうせ〝オリンピウス遺跡〟の探索試験だろう? 代り映えしないよねえ」

「私が言いたかったのに!」

またも二人でぎゃーぎゃーと言い争いを始めてしまった。

遺跡の探索ってなんだろう? 忙しそうな二人から目を逸らし、ぼんやり突っ立っていたイリスに視線で問うも。

「……けっきょく、キミと教授は付き合っているのかい?」

まったく俺の意図は伝わっていなかった――。