軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃れた先で待つものは

革命開始直前。ルセイヤンネル博士の拉致部隊は彼女の研究棟を包囲していた。

「ライアス王子とマリアンヌ王女が魔法術式で妙なことをしている?」

林の中に身を潜める部隊長は報告を聞いて眉をひそめた。

「形状からして『氷結の破城杭』だな。魔法術式の破壊が目的ならばすぐにでも実行するはずだが……」

もしや破壊によって他の魔法術式が起動することを知っているのだろうか? だとすればなぜそれを知った?

そもそも二人の魔法レベルでは破城杭を一本でも作れはしないだろう。高位の魔法使いの手によるもので、彼らに魔法の維持だけ依頼したと考えるべきか。

「二人を暗殺する部隊は?」

「監視役の姿も見当たりませんでした」

もとより隠密行動している部隊だ。あちらから接触してこなければ把握は難しい。

「まあ、連中が動き出すのは我らよりも後だ。静観しているのかもな」

暗殺部隊は革命が開始され、エルダー・グールが解き放たれた混乱に乗じて王子と王女を暗殺する。方法は痛めつけて動けなくして、エルダー・グールに喰わせるのだ。

証拠は残さず、暗殺が先にあったとの印象を民衆に与えないよう細心の注意を払っている。

「いちおう二人を魔法術式に向かわせろ。暗殺部隊が手を出さないようなら破壊を阻止する。目的が達成されたらこちらへ戻れ」

その場にいた二人が選ばれ、足音を消して駆け出した。

「さて、我が隊の目標はどうしている?」

「二階の一室におります。助手の男と、それから……ハルト・ゼンフィスも同じ部屋に」

厄介だな、と隊長はため息をつく。

「想定の範囲内ではあるが……奴の周囲には黒い戦士が現れる可能性がある。そちらを対応する部隊は到着しているか?」

「はい。正面玄関に近い場所に集めています」

「よし。作戦はCプランを選択。例の黒い戦士が現れたらその部隊を使って目標から引き離す。目標の確保が最優先であることを忘れるな」

「はっ。ではみなに伝えます。ルシファイラの加護よあれ」

「うむ。ルシファイラの加護よあれ」

部下たちが散っていく。部隊長は高い木の上に飛びあがり、研究棟を睨みつけた。

しばらくののち、強化した聴覚が遠く爆発音を捉えた。

「革命開始だ」

片手を挙げると、研究棟にいくつもの影が襲いかかった――。

「もう帰っていいっすか?」

ハルト――のコピーであるハルトCはソファーでぐでぐでしながら尋ねた。

「いいよ。キミの攻撃型魔法具を置いていってくれるならね」

ソーサーとカップを持ってにししと笑うのはティアリエッタだ。彼女の背後ではポルコスが散乱した本やらを片付けている。

ハルトCはホルスターから魔法銃を抜いてひらひらさせた。

「こいつは預かりモンでしてね。おいそれと渡せないんっすよ。てか、解析する気満々じゃないっすか」

「当然。謎があればそれに迫ろうとするのが研究者だ。謎といえば君自身をあれこれ調べたいところだね。最近調子が悪そうじゃないか。というか初日に比べると以降がさっぱりだと聞いているよ?」

「ほう? さっぱりですと?」

「なぜ嬉しそうなのかな? まあ、それでも一年生ではAクラス相当の評価は確固たるものだ。次のクラス替えでは上に行けるだろうね……って、今度はどうして落胆しているんだい?」

「いろいろあるんっすよ、俺にもね」

はあ、と深いため息をついたそのときだ。

ガシャーンッ!

窓が破壊され、

「ッ!?」

ハルトCが光弾の直撃を受けて吹っ飛んだ。背後の長机やら椅子やらを薙ぎ倒し、それらに埋もれてしまう。

「な、なんだなんだ!? キミたちは何者だ!」

黒いマント姿の男女が一人二人と窓を割って侵入してくる。ティアリエッタを取り囲み、ポルコスにも二人が寄って彼に手をかざす。魔法発動直前の状態だ。

「ティアリエッタ・ルセイヤンネル教授だな。我々と一緒に来てもらおう」

あとから悠然と入ってきた隊長らしき男が冷ややかに告げる。

「デートのお誘いかい? ワタシを楽しませてくれるならどこへでも付き合おうじゃないか。だから先に教えてくれると嬉しいのだけどね」

「時間が惜しい。行った先で話してやる」

「面白味のない男だねえ。まったく期待できないじゃないか。でもまあ、拒否してもどうせ無理やり連れていかれるのだろうし、ポルコス君を危険には晒せないか」

「は、博士……」

「うん、心配はいらないよ。このパターンは従えば命を取られることはない。ただ――」

ティアリエッタは肩を竦めて言った。

「初手が最悪すぎたね。彼を怒らせたのは失敗だよ」

ドォン、と。

爆音に続けて隊長格の男が吹っ飛んだ。

崩れた長机や椅子を押しのけて少年が立ち上がる。

「痛くはないけどびっくりしたぞ。いきなり何すんだよ」

続けざま二発、三発と、手にした魔法銃が火を噴いた。狙いを定めている風ではないのに、魔法の弾丸はまるで生きているかのように軌道を曲げて侵入者たちに襲いかかる。

「ポルコス君、走れ!」

「ひっ? は、はい!」

ティアリエッタはポルコスの手を引いて廊下へ出る。

ハルトCは銃を乱射しながら後に続いた。

「いやすごいね。なかなかの威力と精度だ。しかも魔力を使っているようにはまるで見えない」

「弾数に制限はありますけどね。てか、なんで外へ逃げないんですか?」

「侵入者を探知する結界くらいは張ってある。どうやら建物の中に入ったのは彼らだけだ。となれば外は取り囲まれているに違いないよ」

「じゃあ、中で迎え撃つんですか?」

「あちらさんの数がわからない以上、危険だね。そこで秘密の脱出路を使ってこっそり外へ逃げ出す」

「なんでそんなもんを?」

「ロマンさ!」

どこぞの妹と気が合いそうだなとハルトCは思う。

「それよりキミ、やたら冷静だね。無傷なのにも驚いたけど、肝が据わり過ぎている」

「そういう性格なんっすよ」

「彼らに勝つ自信があるのかい?」

「いや、俺自身は弱いっすからね。ま、逃げれるならそっちのがいいです」

淡々と答える彼に違和感が拭えない。

(やはりどうにも奇妙だ。身体能力は初めて会った日に劣る。それでいて防御力は『地鳴りの戦鎚』と同等かそれ以上。さっきの攻撃、ワタシやポルコス君なら死んでるよ)

加えて魔法銃は一級品のくせに彼自身が魔力を与えている様子はなかった。

何もかもがアンバランスで不可解だ。

(防御力にしろ攻撃型魔法具にしろ、〝彼〟が授けていると考えるのが妥当だけど……)

しかしハルト自身は白仮面情報によると、ヴァイス・オウルだのキャメロットだのには所属していないらしいのだ。

(調べた限り例の白仮面はハルト君の妹、シャルロッテ・ゼンフィスで確定だ。だとすればなぜ、ハルト君だけシヴァと直接関係ないように振舞っているのか?)

むしろ二人の関係が最も強いから、それを悟られないようにしているのではないか?

(この騒動で何かしらつかめるかな? というか、今なにが起こっているんだ?)

一階に駆け降り、キッチンの床に隠した秘密路に入る。

そのまま地下の通路を走って林の中に出た。

「建物内にも地下通路にもいくつか罠が仕掛けてある。すぐには追ってこれないだろうさ」

「でもこっからどこへ逃げるんです?」

「人の多いところかな。学生がケガでもすれば、実戦向きの教師連中が大挙してやってくるさ」

「えっ、学生を盾にするの?」

「背に腹は代えられない。ワタシは自分の命が一番大切なのさ」

「博士、貴女それでも教師ですか!」

「ポルコス君、今さらだね。ほらほら、早くしないと追いつかれるよ?」

楽しそうにビュンビュン先行する彼女に二人は必死で追いすがる。が、開けた場所に飛び出たところでティアリエッタが急停止した。

「博士、なんですかこれ……?」

「いやあ、ワタシに訊かれても……」

「カオスだ」

そこには黒い体躯の人型の異形がたくさんと、

「ハルトさん!」

「来てくれたのか!」

「マジ手ぇ貸してくれ頼む!」

それらと戦う三人の学生がいた――。