軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

陰謀に迫るキャメロット

グランフェルト特級魔法学院の敷地は広大で、人の寄り付かない林がいくつもある。

うちひとつのぽっかり開けた場所。放課後でも生徒たちは見当たらない。

そこに集まる三人娘。

「匂うな」

「匂うですか?」

赤髪メイドなフレイが鼻をひくひくさせると、シャルロッテもくんくんした。だが草木の香りがするだけだ。

「この手の感覚は種族による。私は鼻で、リザのような竜種は…………」

目を向けられ、リザが応える。

「わたしは色。うっすらと灰色の靄がかかってる。ハルト様に『学内を注意しろ』と言われてなければ見逃してたかも」

「ふふん、私はこのくらいの匂いを逃さんぞ? ここに立った瞬間つーんときたからな」

フレイもリザも魔族の特徴たる耳や角、尻尾を光学迷彩結界が見えなくしている。

「なるほど。わたくしは探知魔法が不得手なのでさっぱりですけど、とにかく何かがあるのですね」

「うん。この場所に大規模な魔法術式が刻まれてる」

「隠蔽もなかなか手が込んでいるな。探知魔法でも二流どころでは発見できまい。しかも地脈を利用して術式を維持しているようだ。作ったのはここ二、三日といったところか」

「そこまでわかるのですか。すごいです」

「フレイム・フェンリルの鼻を舐めるな。もっとも、どんな魔法が発動するかは知らんがな」

シャルロッテがきらんと瞳を輝かせた。

「きっとこれは、闇の組織の悪だくみに違いありません」

「そう、なの?」

「ナンバーズとかいう裏生徒会的な集団の背後で大きな組織が暗躍しているのは確実です。ナンバーズを陽動に、何かしら大きな企みをしているのでしょう」

「ナンバーズ……あの妙ちくりんな学生集団か。奴らの仕業ではないのか?」

「ティア教授のお力添えで拠点とメンバーを突き止め監視していますけれど、ここ数日で目立った動きはありませんでした。また彼らがこれほど高難度な魔法術式を組み上げられるとも考えられません」

ティアリエッタが告げたのは『シュナイダルと近しい思想を持ちそこそこ以上の実力がある生徒数十名』だった。そこから〝貴族至上主義〟に傾倒した各学年Aクラスの生徒を数名にまで絞り、ドンピシャで引き当てたのはシャルロッテだ。

以降は芋づる式に全メンバーの正体を暴いていた。

フレイが顎に手を添えてつぶやく。

「この匂い、他でも嗅いだことがあるな」

「なんですと! どこですか?」

「王都の西側に大きな墓地があるだろう? そこを通りかかったときにな。中には入っていないので確証はないが」

今度はシャルロッテが顎に手を添えた。

「むむぅん……。複数の場所で同じような魔法術式、ですか。他にもありそうですね」

「よし、ならば私が探してきてやろう」

「「えっ」」

二人が止める間もなく、

「空は飛べぬが我が健脚、疾風のごとし!」

フレイはぴゅーんと駆けていなくなった。

「……とりあえず魔法術式の解析をしましょうか」

「ん。ティアに『鑑定装置』を借りてくる」

リザが体を浮かせようとしたのをシャルロッテが手で制す。

「大丈夫です。すでに兄上さまから良いものを授かっていますから」

腰の小さなポーチに手を突っこむ。肘までが中に収まり、明らかに底を突破するほど奥をごそごそまさぐって。

「じゃーん! これぞ兄上さまの新魔法具、『 解析(わか) るんです』です!」

取り出したのは見た目使い捨てカメラな物体だった。

「……まさか鑑定装置を、作ったの? というかそのポーチは何?」

「こっちはその名も『四次元ポーチ』です。なんでも無限に収納できるものですね。いずれも兄上さまが作成されました」

「どうやって!?」

鑑定装置の仕組みはブラックボックスで現代では再現できない神代の遺物のはず。四次元ポーチなるアイテムも謎すぎる。

「兄上さまですから」

「ぅぅ、それで納得するしかないのかな……」

「仕組みを調べるのは今後の研究課題にするとして」

シャルロッテは魔法具のレンズ部分を上にして地面に置いた。魔法具に手をかざして魔力を練り上げる。小躯がほんのり光を放つ。魔力を続けて流すと、魔法具のレンズから光の帯が現れた。

光の帯は扇形に広がって、そこに文字が映し出される。

神代語ではない。現代の意味ある言葉が羅列していた。

「さすが兄上さま。わたくしがせっせと作った現代語への変換表を完璧に組みこんでいますね」

「どっちもすごいよ。あれ? でもこれって……」

リザが睨むように文字を読み進める。

シャルロッテも珍しく表情をこわばらせた。

「はい。これは……倫理的にも道義的にもアウトな魔法術式ですね。それに――」

「誰っ!?」

リザが突如叫んだ。冷気が辺りを包む。

瞬時に戦闘態勢を整えた彼女が睨む先。林の中から、一人の女子生徒が姿を現した。

「驚かせたなら謝ろう。害意はない」

白いポニーテールを揺らめかせて歩み寄ってくるのは、イリスフィリアだった。

「イリスさん、どうかしたのですか?」

「それはこちらのセリフだ。キミたちはいったい何を――ッ!?」

虚空に連なる文字を読み、イリスフィリアは驚きに目を見開いた。

「これは……ここに設置されていた魔法術式の正体か?」

「知っていたのですか?」

「設置されていることはね。けれど術式は巧妙に隠蔽されていたから、これほどおぞましいものだとは知らなかった。マズいぞ。同じものが王都の各所に設置されている。それが同時に起動したら――」

「場所がわかるのですか!?」

「へ? あ、ああ。ここと王都の西側にある共同墓地、南の大聖堂。それに王宮前広場の四ヵ所だ」

学院は王都の東側地区にある。王宮は王都のど真ん中なので、北を除いた広範囲にわたっていた。

「ところでそれ……鑑定装置なのか? やけにコンパクトだし、結果を現代語で表示させているし……」

「今は『はい』とだけお答えしておきます。こちらも疑問なのですけど、どうして場所がわかったのですか?」

「……ボクは魔法レベルが極端に低いけれど、魔力の感知は得意なんだ。放課後、配達のアルバイトで王都中を駆け回っていて気づいた」

「アルバイト……わたくしも一度は経験したいものです。それに珍しい特技をお持ちですね。魔族返りか何かでしょうか?」

「……さあ? どうだろうね」

シャルロッテに悪気はなさそうだ。魔族返りが迫害対象だとは知らないのだろう、とイリスフィリアは考える。

「それよりこの魔法術式だ。離れた場所に複数設置し、連動して同時に起動するとある。となればその意図は――」

「はい。王都の警備網を分断する狙いでしょう。おそらく本命は王宮。なんだか思っていた以上に大変な事態が!?」

稀代の素質を持っていてもまだ十一歳のお子様だ。シャルロッテはあわあわおろおろと右往左往。

「はっ!? いけません。こういうときこそ落ち着きませんと」

すーはーと深呼吸。両手でパンッと頬を叩いた。

「痛いです……」

「大丈夫? シャルロッテ様」

真っ赤になったほっぺたにリザが手を添える。ぽわっと光りを帯びて痛みと痺れが引いていった。

「ありがとうございます。落ち着きました。ではさっそく対策を考えましょう」

「え、あのお方に相談するんじゃないの?」

ちらちらイリスを気にしつつ言葉を濁すリザ。

「あのお方……? ああ、シヴァですか」

シャルロッテはふるふると首を横に振った。

「おそらくこれは、我ら〝シヴァを見守りその偉大さを世に知らしめつつ陰ながらお手伝いする会〟――ベオバハターあらため『キャメロット』に対し、シヴァより与えられた試練でしょう」

きりりっと決め顔でシャルロッテは続け、

「我らキャメロットが彼の真に盟友足り得るか、見極めんとしているのです!」

さらにヒートアップする。

「今ごろシヴァはもっと大きな敵――神的な何かと対峙しているのかもしれません。ええ、彼にとってちゃちな魔法術式など些事。ちょちょいのちょいで解決できるはず。それをわたくしたちに――」

「ええっと……あのその……シャルロッテ様?」

リザがちらちらとイリスフィリアを窺っている。彼女は彼女で真摯にシャルロッテの言葉に耳を傾けていた。

「ん? リザ、どうかしましたか?」

「キミたちは、シヴァ――あの黒い戦士の仲間なのか?」

「あ」

部外者がいるのをようやく思い出し、シャルロッテはこほんと咳払いをひとつ。てくてくイリスフィリアに近寄って、その手を握った。

「内緒にしてもらえますか?」

キラキラした瞳で見つめられては、さすがにこう答えるしかない。

「……うん」

「ありがとうございます! では気を取り直しまして、魔法術式への対策を話し合いましょう!」

「「あ、うん……」」

元気いっぱいに言われては、さすがの二人もうなずくしかなかった――。