軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妹、襲来。いろいろ、決定。

入学二日目にしてお友だちができました。

元ヒキニートの俺にしては信じられない成果だ。

が、嬉しくない。早期退学を目指す俺はまったく望んでいなかったからだ。

「んじゃ、また明日な」

踵を返すも、速攻で呼び止められた。

「どこへ行く?」

「寮の部屋に戻るんだよ。えーっと……ほら、アレだ。授業の選択、まだやってなくて」

「だったらボクも一緒にやろう。ボクも決めあぐねていた。二人で相談しながらのほうが効率が良く、適切な選択ができると思う」

あー言えばこー言う。

なら俺はちょっとカッコ良さげなセリフを吐こう。

「俺は慣れ合うつもりはない」

「もちろんキミのやりたいことに口出しはしない。ボクも使命を果たすためにこの学院に入ったからね。やるべきことがある以上、キミに合わせて妥協はしないつもりだ」

ご立派なことだ。まあ、エリート校に入る奴らはみんなそうなんだろうな。

ここで口論してもイリスは折れないかも。

俺は授業なんてペンを転がして決めるつもりだったし、ちゃっちゃと決めて追い出せばいいか。

「んじゃ、俺の部屋に来るか?」

「うん。よろしく」

で――。

わりと軽い気持ちだったのだが、よく考えてみれば自分の部屋に女の子を招くという一大イベントなわけで。

もちろん前世では母親以外で女が入ったためしはない。この世界でもメイドさんとかシャルくらいだ。

いいのかなあ、と思いつつドアを開けると。

「兄上さま、お帰りなさ――ほわっ!?」

なんでシャルがいるの?

我が妹は満面の笑みで迎えたかと思うと、俺の後ろから入ってきたイリスを見て頓狂な声を上げて固まった。

「そ、そちらの方は……まさか恋人!?」

「友だちだ」

「さすがは兄上さま。早くも素敵なご友人ができたのですね。あーよかったです」

心底ほっとした様子だが、俺はそんなに心配されていたのだろうか。

「もっとも、兄上さまに恋人の五人や十人はすぐにできるでしょう。わたくしも覚悟を決める時期が来たようです」

いろいろツッコミどころがある言葉に続けて、くわっとつぶらな瞳を見開く妹。

「できればわたくしは第二夫人あたりでどうでしょうか!」

「しれっと二番手を狙うか。てかこの国って重婚オーケーだっけ?」

「制度的にはダメですけれど、そこは兄上さまですから如何様にも」

うん、意味がわかりません。

でもそうか。こいつはまだ『あにうえさまとけっこんしたいです』と言った幼少から変わらずか。あと数年もしたら『は? 兄貴とかキモイんですけど?』と舌打ちするような子に……ならなければいいなあ。俺も兄としてしっかりせねば。

「今のは兄と妹の会話として一般的なものなのだろうか……?」

「たぶんな」

とりあえず我ら 兄妹(きょうだい) のやり取りに困惑している様子のイリスを紹介する。

「こいつは昨日知り合ってすったもんだあって今日友だちにならされた、イリスフィリアだ。長いので『イリス』でいい」

「そんな紹介の仕方があるか……。まあ、友だちの妹なら名前を省略してもらっても構わない」

「で、こっちは妹のシャルロッテだ。『シャル』でいい」

「ご紹介にあずかりました、わたくしは兄上さまの妹でシャルロッテ・ゼンフィスです。今後ともよろしくお願いいたします、イリスさん」

シャルはスカートを摘まんで持ち上げ、優雅に頭を下げた。

「うん、よろしく、シャル」

とくにいがみ合うこともなく(当たり前か)、二人は打ち解けた模様。

「シャル、何の用事か知らんがちょっと待ってくれ。俺たちにはやるべきことがある」

さっそく授業の選択に取り掛かった。

学校で配られた冊子を広げ、授業一覧のページの上でペンを転がす。

「待てハルト。キミは何をしている?」

「授業を決めているのだが?」

「わたくしが解説いたしますと、『どれを選択しても兄上さまには余裕よゆーなので無問題』ということです」

「すまない。ボクにはさっぱり理解できない。ハルトにだってやりたいことがあってこの学院に入ったはずだ。ならそれに従い慎重に授業を決めるべきだ」

「兄上さまの目的は学業以外にあります。そもそも兄上さまほどの実力者が誰かから何かを学ぶという前提が間違っているのです」

「ハルトの実力が高いのは認めよう。けれどたとえ実力が劣る者からでも、学ぶことは多いはずだ」

「兄上さまの実力はそういった一般常識を超越したものですから」

「そ、そこまでなのか……」

俺そっちのけで話が進んでいるけど楽でいいな、これ。

「学業以外の目的が何か、俄然気になる。教えてはもらえないだろうか」

「申し訳ありませんけど、いくらご友人でもこればかりは……」

シャルは神妙な顔つきで首を横に振る。

うん、さすがに『早期退学』とは言えないよな。シャルわかってるぅ。てかいつ知った?

でもまあ、俺の考えを汲み取ってくれているなら話は早い。

「シャルよ、俺にふさわしい授業を選んでくれないか」

「はっ! 身に余る光栄です。このシャルロッテ、必ずや兄上さまのご期待に応えましょう」

恭しく頭を下げたシャルの演技も堂に入っている。こいつも城で英才教育をがっつり受けているから、こういう息抜きが必要なんだよな。

というわけで、俺はベッドにごろりと転がった。

シャルはイリスと熱心に話し始めたので、俺は目ん玉に張り付けた結界と耳に入れた結界でアニメ視聴を開始する。

ときどき「ふひっ」とか気持ち悪い声を出すも、二人は気にした様子はなかった。

そうして三話分を見終える。

「ふひっ」

今のはアニメを見て出したのではない。肩を揺すられたのだ。

アニメ視聴を中断すると、シャルの愛らしい顔が目の前に現れた。

「兄上さま、ミッション、コンプリートです」

「お疲れ様。助かったよ」

いえいえと笑みで応じたシャルから授業の申請書類を受け取る。

「内容を確認しなくていいのか?」とイリス。

「必要ない」

ぶっちゃけ中身なんてどうでもいいしね。

「兄上さまにこれほど信頼されているとは……わたくし、照れてしまいます」

実際に照れ照れなシャル。いや、うん。信頼はしてるよ、もちろんね。

「それでは兄上さま、わたくしはそろそろ戻ります。イリスさんもごきげんよう」

「おう。何しにきたか知らんが、またな」

「うん。シャルも体に気をつけて」

俺はさささっとイリスの背後に回り、後ろから手で奴の目を覆った。

「いないいない~…………イリュージョン!」

シャルが壁に設えた『どこまでもドア』でいなくなったら手を放す。(扉は使用前後で見た目が壁になる)

「今扉の音が、玄関ではなく壁のほうから聞こえたような……?」

「細かいことを気にする奴は出世しないぞ?」

「むぅ、それは困る。ボクはこの国で権力を手にしなければならないのだから」

ほぉん、そんな大それた野望があったのか。俺は興味ないが、平民のこいつがそう願うのは理解できる。意外に野心家なのね。

「あぁ、でも気になるといろいろ不思議に思ってしまう。キミたちの生家は王都から遠く離れた辺境だろう? それにしてはお気軽にやってきて、主だった用事もなかったかのように立ち去ったのはどうしてだ?」

イリスは止まらない。

「話の内容も理解不能だった。キミの話に及ぶと絶賛する中、ときおり『円卓』と意味深に言う。『闇の組織』だとか『楽園』だとか『裏生徒会』だとかもだ。詳しく知るには『騎士』にならなくてはならない、とも言っていたな。ボクはその候補らしいけど、いったい彼女はどういった立場で、キミはいったい――」

「だから細かいことは気にするな」

「ぅぅ、釈然としないけど納得するしか……」

これ以上ないほど困り顔の彼女に、俺はやんわりと提案する。

「お前も授業は決まったんだろ? んじゃ、とっととお帰りください」

が、イリスは動こうとしない。

「キミはまだ所属を決めていないだろう? せっかくだから一緒に考えよう。特に希望がないのなら、まずはボクと同じところではどうだろう? むろん無理強いはしないけれど」

べつにどこでもいいっちゃいいんだが、あのちびっ子メガネ博士のところはちょっとなあ。

強引な勧誘が嫌だったのもあるが、話を聞く限り他の教師から嫌われまくっているらしく、俺が退学するより早く取り潰しになる可能性大。

先のないところに入ろうとする友人を、むしろ止めるべきではあるのだろうが……。

「ん?」

あれ? でも待てよ?

ティア教授の研究室に入れば、それだけで悪い印象を他の教師に与えられるのでは? もしかしたら研究室をつぶすために所属する生徒を退学に追いこもうとするのでは? ではでは?

天啓がひらめいた。

俺はイリスの肩に手を乗せた。

「実は俺も古代魔法には興味があってな。その研究室に入ろうと担当教授にコンタクトを取っていたのだ」

「そうだったのか。では、ボクも推薦してもらえないだろうか? 正直、成績がよい方ではないので、場所によっては断られる可能性がある。古代魔法を専門に研究しているのはひとつだけだから、どうしてもボクはそこに入りたい」

いや、推薦とかいらんと思うぞ? あそこは常時ウェルカム状態だ、と俺が応える前に。

イリスは肩に乗せた俺の手を取り、真摯に見つめてきた。

「お願いだ。このとおり」

頭を下げ、額に俺の手を押しつける。手も額もあったかいな。

「べつにいいけど」

「ありがとう。どうにもキミに頼ってばかりで申し訳ないな。いずれこの借りは返すと誓おう」

なんだか知らんが貸しをひとつ作ったらしい。

んじゃ、明日は授業の申請書類と所属のお伺いに出かけるとしよう。コピーがな。一日交代だから仕方ないね。

机の上に置いた美少女フィギュアが、意識がないはずなのに俺を睨んでいる気がした――。