軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王宮でのあれこれ

二年前、魔王討伐が成し遂げられた。

『閃光姫』ギーゼロッテを中心とした特殊部隊が魔王城の中枢に潜入し、多くの犠牲を払いながらも魔王を滅したのだ。

世界中が歓喜に湧き、王国民が誇りに満ち足りていた中、国王ジルク・オルテアスだけが不安で胸中を曇らせていた。

国民はみな、ギーゼロッテを持ち上げている。

王も前線で何度となく指揮を執り、軍を鼓舞してきたが、人気があるのは閃光姫。

この世界は、魔法の実力がモノを言う。

とはいえ、当代で最も魔法レベルが高い人が王になる、という単純なものではなかった。

血統が重視されるため、突然変異的なぽっと出が台頭することは周りが許さないのだ。

ところが、である。

ジルク自身は国王であるものの、最大魔法レベルは【34】と歴代の王に比べてやや低い。

さらに現在の魔法レベルが【17】と、青年期を過ぎてから伸び悩んでいた。一般に現在レベルが上がらなくなる現象は、『レベルが閉じられた』と表現する。

王は、閉じてしまったのだ、と。

対する閃光姫の魔法レベルは【41】/【46】。

現代でトップクラスの素質を持ち、当時17歳の若さで魔法レベル40を超えた逸材だ。

彼女の家は下級貴族で、最近では爵位の剥奪が取りざたされるまでに落ちぶれていたものの、彼女の活躍で盛り返しつつある。

王は思う。

これ以上、彼女の台頭は許されない、と。

そんな中、魔王討伐の報酬を問われたギーゼロッテは、とんでもないことを口にした。

「以前よりわたくしは、ジルク国王陛下をお慕い申し上げておりました。不遜、不敬は百も承知でございますが、わたくしを哀れとお思いになりますなら、この想いを遂げさせていただきたく」

周囲は沸いた。

これで王家は安泰と、誰も彼女を咎める者がいないばかりか、賛成一色に世論も動く。

だがジルクは戦慄した。

ついに王家を乗っ取りにきたか、と。

ところが閃光姫の人気はすさまじく、王妃が前年に逝去していたタイミングでもあり、拒否できる雰囲気は掻き消された。

その年、ギーゼロッテは王妃となったのだ――。

「陛下! 思いとどまってはくださりませぬか!」

国王の私室に、強面でひげ面の大男が乗りこんできた。歳は国王よりやや上の辺境伯、ゴルド・ゼンフィスである。

「その話はもう済んだ。決定は覆らぬ」

ジルクは椅子に腰かけ、こめかみに指をあてて苛立ちを吐き出す。

「なんの罪もない赤子を、ただ素質がないとの理由のみで処断するなど納得がいきませぬ!」

ゴルドは唯一、ラインハルト王子の命乞いをしていた。

「くどいぞ! ゼンフィス卿が納得するしないの話ではない」

「しかし!」

ジルクはふぅっと大きくため息を吐き出した。

「よいか、ゴルドよ。これは好機なのだ。ギーゼロッテの発言力を奪う、絶好のな」

ゴルドはその場にどかっと腰を落とし、苛立たしげな口調となった。

「ふんっ。王妃も処断を受け入れていると聞く。アレがこの程度で弱まるものか」

「素質の低さを問題とするなら、余と王妃、どちらにも責を求められよう。が、死産となれば『母体に難あり』との印象操作が可能だ」

ジルクはにやりと笑う。

「素質が高ければ王妃から引きはがし、余にのみ忠誠を誓う人形に仕立てるつもりだったが、それに比べれば今回は楽だと思わんか?」

「ゲスに堕ちたか、ジルク」

「発言と言葉遣いには注意せよ、ゴルド。余は今や国王。幼きころのような間柄ではない」

歳の近い親戚同士。かつては兄と弟のように過ごした時期もあった二人の間には、いつしか溝ができていた。

ゴルドは怒声をぐっと堪え、弟を諭すがごとく口調を柔らかにした。

「身分を隠してどこかへ預けてみてはどうだ? 本当に命を奪う必要がどこにある?」

ジルクは首を横に振る。

「あやつの左胸には〝王紋〟がある。いかに隠そうとも、王族であると知れるだろう」

王家には特殊な魔法がかけられている。

王位継承の儀式で国王以外の〝王紋〟は消え、その代の国王の子にまた現れるのだ。

「次の王が決まるまで隠し通せぬものか? なんなら儂が預かってやる」

「いい加減にせぬか。あんなポンコツ、この世にいるだけで腹立たしい。これは高度に政治的な問題だ。いかに辺境伯であろうと、余の決定に従わねば卿も処断の対象となるぞ!」

ジルクは怒声を張り上げると、「これだから思慮の足りぬ武人は……」などとぶつぶつ文句を垂れる。

ゴルドは怒りを通り越し、呆れ果てていた。

(たしかに儂は政治に疎い。だが、同じくお主が『思慮の足りぬ武人』と侮る閃光姫こそ、小狡く頭の回る女狐であると知らぬのか……)

ギーゼロッテは『武』に特化した魔法剣士である。

自己と武具を強化した接近戦はもちろん、多彩な攻撃魔法で敵を薙ぎ倒してきた。

一方で彼女は、実力と美貌に物を言わせて多くのブレインを従え、本人もまた強かに計略を巡らせ、今の地位に上り詰めたのだ。

前王妃が病気で逝去したのも、彼女の策謀であるとゴルドは睨んでいた。

閃光姫にとっても、王子の処断には意味があるに違いない。それが何か思い至らない自分の愚かさが、もどかしかった。

「もはや卿と話すことはない。すぐに出ていけ」

これ以上は聞く耳を持たない。下手に詰め寄っても激昂させ、王子の死期を逆に早めてしまいかねなかった。

(とはいえ、なんとか救えぬものだろうか……)

ゴルドは重い腰を上げ、部屋を出ていく。

けっきょく夜を徹して、慣れない思案に耽るのだった――。

一方、王妃ギーゼロッテはブレインたちと離宮の奥の間で密会していた。

「王妃殿下、よろしいのですか? 王子を死産扱いすれば、御身に問題があるとの噂が立ちかねませんが」

一人の騎士が尋ねるも、ギーゼロッテは笑い飛ばした。

「構わないわ。『次』で結果を出せばよいのだから。けっきょく陛下は、わたくしにはふさわしくなかったのね。陛下にはせいぜい、今だけ安心なさっていただきましょう」

彼女が目配せすると、ローブをまとった老魔法使いが下卑た笑みを浮かべた。

「〝王紋〟を宿す古代魔法の解析は完了しております。それを王妃様に施せば、次からはいかなる『種』でも王紋が御子に現れることでしょう」

「でもアリバイ作りは必要ね。また何度かお相手しなくてはならないのが、すこし苦痛だわ」

彼女からすれば、王家はすでに衰退の渦中にあるとみている。先々代から最大魔法レベルは下がる一方。なんの期待もしていなかった。ただ、『王家』であることを除いて。

「ま、次のお相手はきちんと選ばないとね。もしかしたら、貴方たちの誰かかもしれないわよ?」

妖艶な笑みに、ブレインの男性陣は目の色が変わる。

ギーゼロッテはその様を楽しむように、くすくすと笑うのだった――。

――で。命の危険に晒されている王子はと言えば。

(ふぅ、すっきりした)

彼はまるで便意から解放されたような菩薩顔で、ふよふよと空中を漂っていた。

実際、そうだった。

襲い来る尿意と便意を結界魔法で押しとどめ、深夜遅くまで耐えに耐えていたのだ。おむつのない中、いやおむつがあっても垂れ流しは御免。

どうにか深夜、周囲が寝静まるまで待ってからトイレに飛びこんだのだ。

寝床に入って考える。

闇夜に紛れて逃げ出すのもひとつの手だ。が、一生追われる立場になるのは避けたかった。

(俺を殺すつもりなら、いっそそれを逆手に取ろう)

まだ殺害方法は知り得ていないので、まずはそれを確認する。そのためにも、

「すぴー」

今はゆっくり休むことに決めたのだった――。