軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エリアボスとの邂逅

「ケロ」「ケロッケー!」「ケロケロ」「ケロック」「ケロケーロ!」

カエルが五匹現れた。蝶ネクタイと手袋だけした、それぞれ楽器を携えたカエルの音楽隊だ。

〝アンサンブル・フロッグ、だけど……〟

〝なんで五体?〟

〝最近のダンジョンなんかおかしくね?〟

〝まずいですよお嬢さん方!〟

なんかコメント欄が妙なこと言ってるけど、別にこいつら強くないよな?

事実――。

「シャル、お先に」

「あ、ずるいですぅ」

いつの間にか魔法のステッキからトンファーに持ち替え、ユリヤが低空に構えた。

次の瞬間には、カエル一匹の懐深くに現れて、下から顎を打ち抜く。

くるりと後方に一回転するや、着地と同時にトンファーを高速回転させ、勢いそのままにひと際大きなカエルの横っ面を引っ叩いた。

それぞれ一撃必殺。頭部が吹っ飛び、しゅわしゅわと消え去る。

〝瞬間移動した?〟

〝『 空間跳梁(ワープ・トリックスター) 』か!〟

〝激レアスキル持ってんな……〟

〝てか一撃てなんやの〟

「むぅ、先を越されてしまいました。ではわたくしは――」

シャルは空高く舞い上がり、ステッキを掲げると、

「エターナル★デス☆シャワー♪」

光の雨が残る三体に降りそそぐ。

柔らかな光のシャワーに見えて、鋭利な針となった魔法の光はざくざくとカエルたちの体を貫通していった。

哀れ五体のカエルさんたちは登場して間もなく、なにもできずに消え去ったのだ。

ふぅ、今のカメラワークはうまくいったな。

俺一人だとかなり難しかっただろうが、スタッフのウラニスはなかなか優秀だ。

コメント欄は一瞬だけ止まるも、驚きに染まっていった。

〝おれ今なに見た?〟

〝まず空を飛ぶってどういうこと?スキル?〟

〝飛行系のスキルって今のところなかったような〟

〝これが!魔法!(んなわけない……ない、よね?)〟

〝あらかじめ作りこんでおいた映像に声当ててるだけだろ正気に戻れ〟

〝このリアルな映像、生成AIならワンチャン……〟

シャルとユリヤは空を駆りながら、並走する半透明ウィンドウをみやる。

「まだ疑ってる人がいるのね」

「エーアイ? とかじゃないですよ?」

「なにかリクエストに応えようかしら。でも節度は守ってね♪」

ウィンクで魅了されたリスナーたち。うち一人のコメントをユリヤが拾う。

「え? 逆の目でやって? こう?」

反対側の目でカメラに向かってウィンクを送る。コメント欄は大歓喜だ。

「わたくしはこれにしますね。錐揉み急降下!」

シャルはギュインと空高く上昇すると、ふっと力を抜いて落下しつつ、ギュルギュル錐揉みに回転してから、地上すれすれでぴたりと止まる。

〝リアルタイムでこんなん生成できるんかいな〟

〝これもう認める以外になくない?〟

〝いや、仕込みコメントの可能性も微レ存〟

まだまだ疑う勢力はいるものの、まあ想定の範囲内だ。というか全肯定なら 運営側(こっち) が否定的なコメントをする予定だったしな。

ある程度の疑惑は、むしろこのチャンネルを有名にする原動力となる、はず。今夜にも検証動画とかで盛り上がるだろうし。

空を駆りながら、ときおり 魔物(モンスター) と遭遇しては倒していく。

そのたびにコメント欄は騒ぎ立て、アンチコメントが押されていった。

いつしか同時視聴者数は五万に達していた。他のSNSでも『魔法探索少女』『ダンジョン生配信』といったキーワードが国内のみならず世界トレンドに顔を出している。

「見えました! あそこですね」

シャルが元気よく指差した先にカメラを向ける。

巨大な陸上競技場があった。

すり鉢状の観客席は蔦に呑まれ、折れた照明塔が突き刺さっている。トラックもあちこち隆起したり抉れたり。

そんな風化した巨大建造物のただなかに、

――別の異常が 疾走していた(・・・・・・) 。

七メートル近い石の巨人だ。頭に古びた月桂冠があるだけで、なぜだかにこやかな表情なのが気持ち悪い。

巨躯が百メートルの直線を駆け抜ける。

速度を落とし、いったん止まると、くるりと反転し、来た道を戻っていった。

そうしてスタート地点に着くや、膝を折り、両手をついて腰を上げた。鈍重な見た目に反してすさまじく美しい所作だ。

「実はここにはいちど来たことがあるのですけど」

「この日のために戦わずにいたのよね」

上空から二人はにこやかに告げると、

「というわけで、先制攻撃です!」

シャルは魔法のステッキをずびしっと、遠くの石の巨人へ向ける。

〝はい、初心者あるある〟

〝あれって 走路の覇者(トラック・テュランノス) だろ〟

〝たしか 戦うのに(・・・・) 条件があった(・・・・・・) よな〟

〝そうそう、エリアボスは条件満たさないと攻撃がまったく通らんのよね〟

〝前にどこかの探究者パーティーが検証してたな〟

そんなコメントを見ていないのか、シャルはなんら躊躇うことなく、

「 魔力弾(マジック・バレット) !」

特大の閃光が石の巨人へと突き進み、

どごーーーんっ!

横っ面にぶち当たった。

〝頭ふっとんだけど!?〟

〝マジック・バレットの威力じゃねえだろ〟

〝攻撃無効状態とはいったい……〟

〝検証動画でも完全無効じゃないって言ってはいたけど〟

〝それでもダメージは通らんって話だったよな?〟

ざわつくコメント欄が、さらなる驚きに塗り替えられる。

〝おい、頭……〟

〝元に戻ってる?〟

〝うぉ、立ち上がったぞ〟

頭部を完全に破壊された石の巨人は、みるみる頭部を復元し、月桂冠までも元どおりにして立ち上がった。

そして、にこやかな表情もそのままに、くいっと顎を向け、その先を指差した。

「ふうん、面白くなってきたわね」

陸上トラックの、百メートル走のスタート位置だ――。