軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初の魔物遭遇戦

俺のスキル『 影薄(シャドウ・ノット) 』はランクD。最低クラスの残念スキルである。

自分の存在感を薄くするとかその程度。

が、他の面々のスキルが魔力を乗せるとけっこう効果が上がったので、俺もやってみるかと試したところ、自分を含めて広範囲内の指定した人を完全隠密状態にできるようになった。

で、さっきまではそのスキルで魔物からは気づかれないようにしていたのだ。

スキルを解除するとさっそく魔物が現れた。

腰丈くらいの大きさで、二足歩行のネズミっぽい何か。タキシードみたいなかっちりした服を着ている。

さっそくスマホで調べてみれば、『ジェントル・ラット』。脅威ランクは最低のD⁻。その中でも弱い部類らしい。手にしたステッキを振り回して襲ってくるそうな。

「それではわたくしがお先に失礼します!」

ピンクの衣装の我が天使、シャルロッテちゃんが魔法のステッキを手にぐいーんと上昇。

『チュチュチュッ!?』

困惑しながらも、魔物はこちらもステッキを構えた。

シャルはきりりと表情を引き締めると、

「 魔力弾(マジック・バレット) !」

魔法のステッキをずびしっと魔物へ指し示した。

バヒュンッ! レーザービームが容赦なく小さき魔物へ伸びていく。

紳士なネズミはただ呆然と、まばゆい光に蹂躙されていった。

しゅわしゅわしゅわ~、と魔物が光の粒になって消えていく。

おや?

魔物が消えゆくその瞬間、緑の光が弾けた。すると、

「なにか出てきましたね……石?」

シャルの言葉のとおり、黒っぽい色をした石だ。

光を反射して濃い紫や、角度によっては赤っぽくも見える。

まさかアレ、ドロップアイテムか? だとしたらショボそうなんだが。

「『魔水晶』ってのじゃないかしら」

事前に予習していたらしいユリヤが告げる。

そういや、そんなのがあるって聞いたな。大きさに比例して買い取り価格が上がるとかなんとか。

つまりお金の成る木である。

さっそくゲットするか、とシャルにお願いしようとして。

『チュチュ、チューッ!』

近くの草むらからまたもネズミ型モンスターが飛び出した。

同じく二足歩行のネズミだが、タキシードではなくみすぼらしい格好をしている。

警戒するシャル。上空から魔法のステッキを構えるも、

「チュ、チュチュー!」

ネズミ型モンスターは魔水晶を拾うと、

「たったか逃げ出しましたー!?」

まずいな。

たしか魔水晶ってわりと脆くて、壊れると価値がなくなるそうな。

シャルの攻撃魔法だと威力が強すぎて、魔物を倒した勢いで魔水晶を壊しかねない。

俺が動きを止めるか、と準備するより先に。

「残念♪ 逃がさないわよ」

瞬きの間にユリヤが魔物の行く手をふさいでいた。

あいつのスキル『 空間跳梁(ワープ・トリックスター) 』ってやつか。瞬間移動で回りこんだのだ。

そしてユリヤは続けざま、 第二の(セカンダリー) スキルを発動した。

「 威圧(スケア) 。そこで竦んでいなさい」

そう告げただけで、二足歩行のネズミは文字通り固まってしまった。

小刻みに震えるネズミの手から、ユリヤは優しく魔水晶を取り上げると。

スパパパッ。

哀れ、ネズミ型モンスターはおそらくあいつの魔法によって切り刻まれて消えていった。

「あら? またドロップしたわね」

さっきと同じく緑色の光が弾け、さっきとは異なり小汚い巾着袋が地面に落ちる。

「今回はハズレか?」

「そうかしら? ドロップのときの色は同じだったから、このサイズの魔水晶と同程度の価値はあるんじゃない?」

そういえばドロップするときの光の色でドロップアイテムのランクも変わるんだったか。

こいつ、けっこうちゃんと予習してるな。

「当たり前でしょう? 行き当たりばったりも楽しいけれど、ゲームはある程度ルールを把握してから始めないとね」

俺、口に出してたかな?

「とりあえずアイテムのチェックは後回しにして」

俺は再びスキル『 影薄(シャドウ・ノット) 』を、魔力を絡めて発動する。周囲の魔物たちから、シャルやユリヤも含めていっさい認識されない状態を作る。

そうして三つのスマホを回収した。

「うーん……この程度の動きでもブレブレだな」

魔物との戦闘を撮影した動画をチェックする。

適当に動かしただけで画面を見ながらじゃないからか、シャルやユリヤが見切れていたり、そうなれば当然ピントも合ってなかったり。

「撮影中にスマホが使えないってのもなあ。せっかく通信できるんだから、手元でいろいろ調べものするのに使いたいか」

となれば、撮影は専用の機材が必要だな。

けど、どんなのがあるのかわからん。いろいろ調査せんとなあ。

「ひとまず撤収するか」

「もっと遊びたいけれど、お腹は空いたわね」

「もうすぐお昼ですし、せっかくですからノエルさんも誘いましょう」

「そろそろ 試験組(あっち) も終わるかな」

などと話しながら帰路についていたら。

「フレイ! それ以上はいけない!」

「うわはははっ! 我がスキルを喰らえぇーい!」

ドドドドドーッ! ってな地響きとともに、様々な獣っぽい雄叫びが轟く。

「本当になんなんだお前らはーっ!?」

どこかで聞いたことのある、おひげが似合いそうなおじさんの絶叫も届くのだった――。

結果だけ言えば、フレイたちも合格した。

憔悴しきったおひげの試験官さん、マジでお疲れさまっす。

ともあれ、これで俺以外はみな『トウキョウ=ダンジョン』へ合法的に入れるようになったな。

必要な準備はあれこれたくさん。

それでも配信をするとなれば、真っ先に決めなければならない最重要事項がある。

「やはりカッコいい名前がいいですよね」

「わたしにはその手のセンスがないから、シャルに任せるわ」

鼻息荒い(訳:可愛い)シャルちゃんと、にこにこ顔のユリヤが楽しそう。

ぽかぽか陽気に誘われて、俺たちは東京タワーのすぐ近くの公園でお昼ご飯としゃれこんでいる。キッチンカーがそこらに止まっていたので買ってきたのだ。

木漏れ日差す大樹の下。

ベンチもあるが、あえてレジャーシートを敷いてピクニック気分を高めている。

「それはいいですけど! どうして私の目の前で始めるんですか!」

ベンチには黒髪で制服姿の美人さんが、手作りだろうか、小さなお弁当箱を膝の上に乗せていた。

ダンジョン管理局の受付嬢、天由良ノエルさんだ。

たまたまぼっち飯中なのを見かけ、もともと誘うつもりだったらしいシャルとユリヤが遠慮なく近寄った次第。

「お邪魔でしたか?」

「ぅ、べ、べつに邪魔ってわけじゃ……」

シャルのウルウル上目遣いに抗える人類などいない。この人はエルフ耳だから人類かは定かではないが、人外でもきっといない。

「というわけで、チャンネル名を決めたいと思っています」

「それ私、関係あります? そもそもダンジョン配信は特定の配信者に人気が偏っていますから、今から始めるとなればよほどの差別化が――――まあ、貴方たちなら、差別化できるとは思いますけど……」

なぜか不満そうに目を逸らす天由良さん。

シャルちゃんがキリリと表情を引き締める。可愛いね。

「そうですね。すでに飽和状態にあるダンジョン配信界隈において、わたくしたち新参がまず注目をされるために、なにが必要か? はい、つい今しがた兄上さまがおっしゃいましたね。チャンネル名を! カッコいいやつ!」

くわっとおめめを見開く様も可愛いね。

そうして議論が始まったわけだが、

「見た目的に子どもの視聴者を取りこむのも手ではあるけれど、ダンジョン配信そのものがあまり子ども向けではないのよね……」とか、

「深淵、漆黒、異界、迷宮……どれもありきたりよね。やっぱり厨二要素をメインに据えるなら造語的なものが必要だわ。ただすべてを造語にするとくどくなるから、チャンネル名としてならひとつかふたつにとどめるべきね」とか、

「は? 生配信? そんなの無理に決まって――って、もしかしてさっきの――ッ!? ぃ、いえ……そ、そんなことより名前! チャンネル名、もう少しだからがんばりましょう!」

などと、天由良さんはかなり協力的だった。つっけんどんなイメージがあったけど、わりといい人なのかもしれない。

そうしてこうして、決まったのは。

チャンネル名:侵界実況†禁呪の魔法探索少女†チャンネル

「うん、いいんじゃない? シャルロッテさんってセンスあるわよね。ふふ、たまには他のジャンルで思考を巡らせるのも楽し――ってぇ! そう! サブカルチャーってふだんはあまり触れないのよダンジョンのことばかり考えているから趣味と呼べるような趣味があったりなかったりするのよねあはははは」

よくわからんが、ダンジョンに詳しいと自称する彼女のお墨付きがあるのなら、いいチャンネル名なんだろうな、きっと。

さあ、チャンネル名は決まったし、ダンジョン攻略と並行してあれこれやらないとな。

「それではみなさん、『えい、えい、おーっ』の掛け声で気合を入れましょう!」

「いいわね」

「おう!」

「え? 私も? いや、私は中立・公正な立場ですから貴方たちと慣れ合うつもりは――」

「えい、えい――」

「あー、もう……「「「おーーっ!」」」」

うん、ノリもいいな、この人。