軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妙な〝孔〟の正体は?

その日の朝、俺は珍しい相手に叩き起こされた。

「ハルト・ゼンフィス君、見ていただきたいものがあります」

珍しい、というか本来 湖畔のログハウス(おれのかくれが) に来てほしくない人だ。

ゆるふわウェーブの薄桃の髪。柔和な美人さんだがどこか厳しい表情だ。上品なスーツがメリハリのある肢体を包んでいる。

泣く子も黙る学院長にして自称魔神だった人、テレジア・モンペリエさんである。

「いきなりなんっすか?」

質問に応じたのは、学院長の背後からひょっこり顔を覗かせた天使みたいに愛らしい女の子だった。

「兄上さま、おはようございます!」

元気よくにぱっと笑うシャルちゃんは今日も可愛い。

シャルは一転してキリリと続ける。

「一大事です兄上さま。ともかく学院長さんといっしょにまいりましょう!」

迷いのない瞳だ。

そして理由を語らないところや、学院長が気まずそうに目を逸らしているところからも、シャルもちゃんと理由を聞いていないっぽいなこれ。

まあ、可愛い妹が期待に満ち満ちたおめめをしているのだ。断る兄はいない。

というわけで――。

廃墟にやってきたよ。いやマジで意味がわからん。

そこかしこに瓦礫が散乱して通路をふさぎ、砂埃が空気をくすませているこの場所は、何を隠そう王宮の一画だ。

つい先日、黒くドロドロした巨人が暴れまくってこうなった。

中でもひどい有様なところに足を踏み入れる。

かつては離宮と呼ばれていたが、騒動の中心地だったこともあって今は跡形もない。

たしか完全封鎖中だったはずだが、ふつうにたどり着けたな。学院長がいたから?

瓦礫の隙間からは乾いた砂埃が入り込み、時折吹く風が金属の軋むような音を立てている。

学院長の背を追い、足元を気にするのが面倒なのでふわふわ浮いて俺とシャルは進んでいくと、やがて。

「なんっすか、これ?」

――〝 孔(あな) 〟があった。

地面に穿たれたわけでも、壁に空いたわけでもない。

空間そのものに、黒い塊が浮いている。

横から上から正面から、どこから見ても同じかたちで〝球〟と呼ぶ方がふさわしく思うも、どういうわけか〝孔〟と認識してしまう。

輪郭があるのにあやふやで、光を飲みこむかのような漆黒の塊に、焦点が合ってくれなかった。

俺の質問に、学院長は吐き出すように「わかりません」とだけ返した。

苦悩を眉間に集めるその様から察するに、

「俺に解析しろと?」

「他に頼れる人が見当たりません。お願いできませんか?」

いやいや、こういうのに適役がいるじゃありませんか。

「もちろんルセイヤンネル教授にもお願いするつもりです。ただ彼女は、その……」

言葉を濁す学院長。

うん、みなまで言わずともわかっちゃった。あの人こんな不可思議な現象を目の当たりにしたら、あらゆる無茶を試そうとするもんな。

つまり俺にはそのストッパーになれ、と。

「申し訳ありません……」

俺がものすごく嫌そうな顔をしていたからか、学院長は心底申し訳なさそうにつぶやいた。

まあいいけどね。

俺はもう一度、〝孔〟に目をやる。

どこまでも落ちていきそうな、万物を吸いこみそうな黒い塊。

はたしてこれは何なのか?

「これは異世界への門ではないでしょうか!」

シャルちゃんが元気よく叫んだ可愛いね。

とたん、美貌を険しくする学院長。『お子さまの可愛い妄想』と切って捨てるのではなく、重々しく口を開いた。

「すくなくとも国家存亡の危機だと、私は考えています。心して調査に当たってください」

一学生にそんな重苦しい調査を任せないでほしい。

が、珍しく声がかすかに震えていたし、なによりシャルがおめめをキラッキラに輝かせているので断れるはずもなく――。

仕方なく俺は、ティア教授を呼びつけた。というか『どこまでもドア』で有無を言わさず連れ出してきたのだ。

ちびっこ幼女体型はとても教師には見えないが、小さなメガネの奥の眼光は油断ならない。

不満たらたらだったティア教授は〝孔〟を見つけるや瞳にハートマークを浮かべるほど歓喜する。

「ほわぁ……すごい! 吸いこまれそう。吸いこまれたい!」

いっそ吸いこまれてしまった方がよいのでは?

ティア教授はみじんも躊躇いを見せず、小石を投げた。危険があるかどうかは二の次らしい。

「なにかあればキミがどうにかしてくるだろう?」などとニヤついて言われてもね。

幸い、小石は素通りして〝孔〟の向こう側に落ちる。

あちこちから観察しつつ、葉っぱやら虫やらを放りこむも、やはり素通りするのみ。

そうこうするうち雨がぱらついてきた。

濡れるのを嫌い、調査は屋根のあるところでやるべきだ、と俺は〝孔〟を空間ごと切り離して持ち上げる。

「いやキミも大概だよね。てか移動させて消滅したらどうするのさ!」

憤慨しているが、これはその程度で消えるモンじゃない。

見た目もちょっと違うし原理がすこしばかり 俺のモノ(・・・・) とは違うっぽいけど、どうみてもこれ、謎時空へつながるやつっぽいんだよなあ。

しかも、だ。

俺はふよふよと浮いている〝孔〟をもう一度、まじまじと観察してみた。

うん、間違いない。

コレは謎時空につながっているのではなく、そこを経由して――

――『どこか違う世界』へつながってるやつだ。