軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラスボスさんこんにちは

ヴィーイは黒い霧に全身を覆われていた。

その肉体は帝国皇帝ヴァジム・ズメイのものだ。

目を開けば巨人の視界を映し出し、意識すれば長い黒腕が持ち上がった。両脚は胴と一体化している風だが、前進や横移動も意図するとおりに行えた。

この体は実によく馴染む。

脆弱なる人の身で〝神〟の魔力は受け止めきれないはずなのに、実際にはこうして意識のすべてを移すことに成功している。

人の魔力制御機構とはなかなか興味深い。

その循環型ともいえる魔力制御により、膨大な魔力を受け止めるのではなく流し回して利用できているのだ。

「とはいえ、その弊害でしょうか。魔力練成から実際に魔法を行使する違和感は相当ですね」

少ない魔力ならば効率運用できる仕組みではあるものの、あまりに大量の魔力となれば取りこぼしが多くなる。

それでも、

「儀式の中心部から流れ来る魔力は際限がありません。まさしく使い切れないほどに」

多少の魔力ロスなど気にならないほどだ。

「これだけの力があれば――」

邪魔者をすべて排除できる。

天敵たる〝神殺し〟も。

もうひと柱の〝三主神〟も。

「あの、シヴァでさえも!」

――叫んだ瞬間、視界が切り替わった。

自身を覆っていた黒い霧は晴れ、青空が広がっている。白い床に格子状の模様が敷かれた無機質な地面にヴァジム・ズメイの姿で立っていた。

「どういうことですか?」

自分の声ではない。女性のものだ。

「〝神殺し〟……なぜ貴様がここに?」

脱落したのに魔法少女のときと同じ衣装を着ている彼女もまた、唐突な出来事に驚いているらしい。どうやら巻きこまれたようだが、その元凶は間違いなく、

「なんだ、やっぱり 簡単に剥がせた(・・・・・・・) な」

小柄なクマだった……なぜ、クマ?

「おっと、この姿は変えとくか」

クマが一瞬にして全身真っ黒な男になった。

不快感を隠さないヴィーイに対し、呆れた風に男の隣にいた女が言う。

「シヴァ、まさかあの巨人の中からヴィーイだけを取り出したのですか?」

「ああ。と言っても巨人と奴は今もつながっている。ふむ、操作しているようには見えないのに勝手気ままに動いているな。自動運転もできるのか。手間が省けていいな」

黒い男――シヴァのすぐそばに四角い板状の物が出現する。そこには黒くドロドロした見た目の巨人が映し出されていた。

「何を勝手にしゃべっているのですか。アレは進むだけで辺りを破壊し尽くすモノ。単純な命令で事足ります。それよりも――」

ヴィーイは怒気すら孕ませ続ける。

「自分をここに連れて来てどうするつもりなのですか? まさか倒そうなどと考え――ッ!」

キィィィーン! 眼前で火花が散った。

テレジアが予備動作なしで、どこからか取り出した大弓を振りかぶって襲いかかってきたのだ。持ち手の上部が鋭利な刃になった歪な大弓で。

しかしヴィーイはすぐさま防御魔法陣を展開して鋭い刃を阻んだ。

「この反応速度……ヴィーイ、貴方はやはりッ!?」

ヴィーイの胸から黒い何かが飛び出した。黒くドロドロした見た目でありながら、先が尖って槍状になっている。

テレジアは大きく飛び退くも、蛇のようにうねって執拗に追いかけてきた。

バチンッ、と。

鼻先に突き刺さる直前、今度は黒い槍が弾け飛んだ。

ヴィーイはじろりと横を見る。

「何をした?」

殺気を隠さず問うも、

「結界で防いだのだが?」

黒い男は飄々と応じるのみ。

「あれがただの結界だと? 魔法を術式から消し去っておいて」

「そうなのか? まあ、被害なく完全に防ぐなら『消す』のが一番だろうけどな」

妙な物言いだ。

何かしらの魔法で防いだのは間違いないが、『どうやって防いだか』を術者本人が知り得ないなどあるはずがない。

実力が確かなのはこれまでの観察結果からも、今のこの状況からも疑いようがなかった。

(ですが、ふむ。やはり今の自分が彼に劣っているはずがありません。いけませんね、感情的になっては)

大魔法儀式によって膨大な魔力を得ている今、不可解な魔法を操るとしても負ける要素は皆無なのだ。

(今の自分は、連中の魔法レベルに換算すれば二百を超えます。神代最強だった〝神殺し〟をも圧倒するのですから!)

たとえこの肉体が消し飛ばされたとしても、黒い霧を代用すれば 精神(なかみ) は失われない。

つまり誰であろうと自分を殺せない。

しかも無限に近い魔力があるのだ。

持久戦に持ちこめばやがて相手は力尽きる。

「さあ、どちらが先に倒れるか、競争といきましょうか!」

ヴィーイの身体から黒い霧があふれ出した。

霧はいくつかに分かれると塊になり、魔法弾となってシヴァたちを襲う。

そのことごとくは届く前に消し飛んだものの、黒い魔弾は放たれた先から生み出でて、際限なく撃ち出されていく。

「気をつけてください、シヴァ。あの魔弾にはすさまじい 呪い(・・) が付与されています。かすっただけでも肉体が腐敗し、一分と経たずに朽ち果てるでしょう」

「持久戦に見せかけて速攻を仕掛けてきたのか。卑劣な奴だ」

「なんとでも言いなさい。タネが明かされようと状況はこちらが有利なのは変わりません」

「だいたい、こんなの競争でもなんでもないだろ。こっちはなんも攻撃してないんだから」

「おや? どうやら認識に齟齬があるようですね。貴方たちと競争しているのは、自分ではありません。こちらの勝利はすでに決まったものなのですから。先ほどの言葉――『どちらが先に倒れるか』の意味は、ですね――」

ヴィーイはくつくつと笑う。

「貴方たちともう一方の、 連中のこと(・・・・・) ですよ」

シヴァは無言で周囲に半透明ウィンドウをいくつも展開した。

映し出されたのはこちらと同じ光景だ。

そう。

こちらと同じく、数多の呪いの魔弾が魔法少女とその仲間たちを襲っていた――。