作品タイトル不明
漁夫の利、やったか?
動きが鈍い。
テレジアは〝白〟の魔法少女――ヴィーイを追いかけながら、そう感じた。
こちらを油断させる意図がある可能性を考えたものの、焦点の定まらない瞳とだらしない口元が彼の現状を示しているようにも思える。
そもそも自分の意思で動いているのか疑わしい。誰か、あるいは何かに操られているようにも見えた。
(いったい彼になにが……?)
疑問をすぐさま排除する。こうやって惑わせるのが相手の策かもしれないからだ。
(ええ、今は迷っていてよい場面ではありませんね)
慎重にしたところで結果が伴わなければ意味がない。
自身の 権能(ちから) の大半を封じた魔力体の所在が、ようやく知れたのだ。そして今、手が届こうとしている。相手の特殊能力が明らかになっていない中、それでも純粋な実力でこちらが上ならば、ここで決着をつけるべきだ。
「はあっ!」
テレジアは大弓を振るう。
「――ッ!?」
ヴィーイの意識が戻ったのか、ようやく焦点を大弓に合わせた。片手を前に出し、防御魔法陣で防ぎにかかった。
激しい音と光が弾ける。防御魔法陣は砕けるも、すぐさま別の魔法陣が現れた。
「はああぁぁああぁっ!」
テレジアはありったけの力をこめた。
自身の〝神〟としての特性――【暴走】を駆使し、力押しで突破を図る。
砕け、現れ、砕き、現し。
光と音の攻防はやがて、
「がっ、は……」
〝紫〟に軍配が上がった。
テレジアの大弓がヴィーイの肩を打つ。儀式の守護によって怪我には至っていないものの、しばらく立ち上がれないほどのダメージ換算であるのは見た目で明らか。
ヴィーイはその場にくずおれる。ブレスレットを嵌めた腕が無防備に晒されていた。
「ひとまずこれで終わりですね」
儀式が終われば即座に抹殺すべき相手だが、今は儀式に護られているので叶わない。
テレジアは大弓の先端をヴィーイの腕に――白い宝石に押し当てて。
パリン。
乾いた音とともに、実に呆気なく白い宝石が砕け散った。
(本当に、拍子抜けするほど……)
簡単だった。ヴィーイはただ為すがままこちらの攻撃を受け続け、最後は宝石を護る術なく破壊される瞬間も感情を失ったように見守っていただけだ。
このとき。
彼女に油断はあっただろうか?
テレジアはヴィーイと戦っている間も、周囲に意識を向けていた。
他の魔法少女が近づけばすぐに気づけるよう、その場合の対処もいくつか考えていたのだ。
たしかに。
ヴィーイの宝石を砕いたその一瞬だけは、高揚から注意が散漫になっていた。またあまりに容易く倒せたことで、気が抜けていなかったと言えば嘘になる。それでも――
「ぅ、ぁ……」
ゼロ距離から聖武具の(・・・・・・・・・・) 攻撃を受けるほど(・・・・・・・・) 接近される(・・・・・) など、あり得なかった。
背に衝撃。
稲妻に打たれたように全身が痺れ、テレジアはその場に崩れ落ちる。
「どう、し、て……?」
うつ伏せの状態で辛うじて目を向けると、〝青〟の魔法少女が立っていた。
だがどうして、これほど接近されるまで気づかなかったのかわからない。その疑問が再び口に出た。
「な、ぜ……」
ブルーは辛そうに瞳を揺らしながらも、『なぜ』の二文字を正しく解釈したようだ。
「転移魔法だよ。もちろんふつうなら出てきた瞬間に察知される。でも今、キミは一瞬だけ意識が緩んでいた。だから気づかれる前に『杭』を打ちこめたんだ」
さらりと言ってのけたが、『空間転移』なんて大魔法をお気軽に実行できる人物など限られている。
「シヴァの、力を使うなんて……、さすがに卑怯では、ありませんか……?」
「そうだね。でも残念ながら、ボクのサポーターの魔法だよ」
シヴァ以外にそんな芸当ができる人物に、心当たりがないわけではなかった。
もちろん〝彼〟が転移魔法を行使できたとの事実は、これまでの学院生活でも学生以前の生活を調査したときにも確認されていない。
それでも『〝彼〟ならやってのけても不思議ではない』との確信があった。
「さすがに回復までの時間を稼がせるわけにはいかない。申し訳ないけれど……」
ブルーは聖武具を異空間に収め、代わりに小さな道具をひとつ取り出した。
小ぶりの金槌だ。
そんなもので? との疑問は、次なる光景でさらに大きくなる。
ブルーが金槌の先をパープルの腕輪――そこに嵌まった紫の宝石に軽く、ただ優しく触るように当てた。
パリン。
たったそれだけで、宝石は粉々に砕け散ったのだ――。