軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〝黒〟と〝白〟

月夜の王都中心街。

遅くまでやっていた露店が店じまいをしてしばらく、中央広場には誰もいなくなった。

いや、虚空に一人。

漆黒の大鎌を後ろ手に、宙を鼻歌まじりにゆるりと歩むは〝黒〟の魔法少女――メルだ。

今日は誰と遊べるかな? そんな期待に胸躍らせる様が見て取れた。

「やあ、ブラック。いいところでお会いしましたね」

呼びかけられて歩を止める。

振り返ると、中央広場の只中に〝白〟の魔法少女が立っていた。

「遊んでくれるの?」

「残念ながら、自分は貴女を満足させる遊び相手ではありません。見てのとおり武器も持っていませんから、きっと幻滅させてしまいます」

肩を竦めるホワイトに、メルはしょんぼりとうなだれる。

ホワイトはその様子を眺め見て笑みを消した。

「……以前より 濃い(・・) ですね」

「濃い……って?」

ホワイトは答えず、独り言ちる。

「なるほど。完全に記憶が消されたものと思っていましたが、それでは人格そのものが破壊されかねない。多少は『残していた』のですね。実に甘い。本当に〝神〟以外には甘いですね、あの女は。そしてその甘さが、今のこの異常を引き起こしたのです」

メルは意味がわからず首をひねる。

ホワイトは再び笑みを寄越した。

「失礼。ところでブラック、貴女のサポーターはどうしたのです? 深夜に単独で徘徊させるのを許すタイプなのでしょうか」

「タヌキならここ」

ぬっと虚空から現れたのはベッドだ。その上にはぐーすか寝息を立てるデフォルメタヌキが一匹。

「各魔法少女に用意された収納魔法空間……生き物を入れて大丈夫なのですか?」

「死んでないからきっと平気」

「ずいぶんと雑に扱うのですね……。まあ、好都合ではありますけど」

ホワイトがちょいちょいと手招きする。

メルはとくに警戒するでもなく、タヌキになったティアリエッタを再び異空間へ戻して地に降りた。

「貴女はパープル陣営と同盟関係にありますね?」

「紫? うん、タヌキが仲良くしろって言った。もう戦っちゃダメなんだって」

どこかしょんぼりした様子に、ホワイトは薄く笑う。

「ダメではありませんよ」

「そうなの?」

「ええ。そもそも貴女は従う相手を間違えています」

キョトンとするメルに、ホワイトはゆっくりと、まさしく幼子に言いつけるように、

「お前の 主(あるじ) は誰だ? あのタヌキではないだろう? そう、お前の主は俺と同族だ。ゆえにお前は、俺の命令にこそ従う義務がある」

「ぁ、ぅ……」

メルは金の瞳に縛られたかのように動かない。

ホワイトの瞳から、どうやっても逃れられなかった。

「おっと、あまり強くすると精神が破綻するみたいですね。失礼、そう難しく考える必要はありません。貴女はただ、〝紫〟と遊べばいい。誰がなんと言おうと、全力で、迷いなく、心躍るまま、ね」

「遊んで、いいの……?」

縛りから解かれたのか、わずかに体をよろめかせ、それでも金の瞳は見つめたまま、メルは尋ねる。

「ええ、 自分が許します(・・・・・・・) 」

その言葉に、どこか安堵したような表情になるのを見計らい、

「この魔法少女ホワイトと一緒に、パープルを倒してしまいましょう」

さらなる刷りこみを試みた。

だが――。

メルはびくんと一度、細身の体を跳ねさせると、

「うん、メルキュメーネスは、がんばるね……ふっ!」「なっ!?」

突然ホワイトに襲いかかった――。

魔法少女ホワイト――ヴィーイは防御魔法陣を眼前に展開。

初撃をなんとか防いで後退する。

「何をしているのです! 自分は敵ではありません」

「うん、知ってる。でも遊ぶんでしょ? 紫はまだいないから、白と遊ぶ」

言い終わるや姿が消える。

(刷りこみが弱かった? いや、こいつの中で『遊ぶ』という言葉が強すぎたのか)

ホワイト――ヴィーイは歯噛みしながら自身を包むようにいくつもの魔法陣を展開した。

接近される前に白い魔弾を乱れ撃つ。直線的なものではなく、それぞれが射出されてすぐに不規則な曲線を描いていく。

面ではなく、立体的な制圧射撃だ。しかし数が多いがゆえに、一発一発の威力は低い。

それでも――。

「見つけましたよ」

姿を消した相手を炙り出すには十分だ。

左斜め後方、三メートルほど上。白い魔弾が弾かれ消える場所に、ブラックはいる。

位置を特定されたと感じたのか、ブラックは魔弾から逃れようと動き回る。

それを執拗に追いかけるも、やはり威力が足りない。決定打にはなり得てなかった。

(ええ、べつに倒そうなどとは思っていませんよ)

それは自分の役割ではない、とヴィーイは一瞬だけ、上空へ視線を移した。

月を巡るようにして、一羽の鷹が舞っている。

たしかに、注意を向けたのは一瞬だった。

――だがそのわずかな隙を、あの女は狙っていた。

ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!

流星のごとく放たれた幾つもの矢が、ホワイトの頭上を襲ったのだった――。