作品タイトル不明
速やかに排除せねばなるまい――俺を?
下半身が土に埋まった状態のライアスを眼下に、こいつは放っておいて帰るか、などと考えていたところ。
「シヴァ! こんなところで何を?」
我が天使ちゃんであるところのシャルがやってきた。
やだぼくまだクマさんなのに恥ずかしい、と思ったが、今は上からシヴァのガワを被せてるんだった。
「儀式の監督役として脱落者を保護しにきたのだ」
よいタイミングなので儀式のシステムに入ってちょちょいのちょい。例の新ルールをアナウンスしてみる。
――魔法少女は脱落しても儀式が続く限り身の安全が保障される。
「ほぇ!? なるほど、そんなルールが追加されたのですね。たしかに参加者の安全を考えれば当然の内容。さすがはシヴァですね♪」
にっこり天使の笑みが眩しいです。俺が考えたんじゃないだけにちょっと光が強い。
けれど妹の前で情けない様を表に出す 俺(あに) ではない。ライアスをずぼっと土中から引き抜いてやる。
「そら、お前は自由だ。どこへなりとも行くがいい」
「……なんか雑じゃねえか?」
知らんがな。俺はしっしっと手で払う。
「なんか釈然としねえけど、僕は負けたんだし、ぐだぐだ言うのはよそう。でもな」
ライアスはキッと俺を睨みつけると、
「僕は正義の味方を諦めたわけじゃない。魔法少女でなくなっても、僕の正義は揺るがないからな!」
ドヤァ! って宣言されても勝手にしろとしか。
それよりなにより。
俺たちのやりとりを見ていたシャルちゃんがぷるぷる震えて……。
「ライアス王子が魔法少女グリーンだったのですか!?」
くわっと愛らしいおめめをかっぴらいて叫んだ。まあ驚くよなあ。
「やはり、魔法少女の可能性は無限大……」
おっと、いたく感動している様子。
「この際いかがでしょう? 儀式に関係なく正規の魔法少女として活動してみては!」
前のめりに過ぎないかな?
「へえ、そりゃ魅力的な提案だな。で? 具体的には?」
お前もノリノリになるんじゃないよ。
「はい、まずはこれを」
シャルは謎時空から小さなステッキを取り出した。魔法少女の啓蒙活動用におねだりされて俺が作っていくつか渡したやつだ。シャルのオリジナルには内緒のびっくり機能満載だが、こちらは機能縮小版。なんとなくシリアルナンバーを刻印して特別感を出してるけど。
なるほど、こうして魔法少女を量産するつもりだったんだな。
でもね、やはり魔法少女のイメージを粉砕しかねないマッチョには相応の出で立ちってのがあると思うのよ。
「お前の活躍は聞いている。正義を為すお前に、これは私からのプレゼントだ」
ロボ刑事風全身スーツ型変身セットを放り投げる。
男の子ってこういうのが好きなんでしょう?
「こ、これは…………」
ライアスは目を輝かせて早速着替え、
「すげえ! めちゃくちゃカッコいい!」
俺が用意した姿見の前で感動している。やっぱ好きなんだな、こういうのが。
「魔法少女仲間でなくなったのは残念ですけど、ライアス王子にはそちらもお似合いですね」
みんなの天使シャルちゃんもご満悦。
ふっ、ミッションはコンプリートだ!(なんの?)
やることがなくなったので帰ろうとしたものの、ちょいと気になってシャルに尋ねる。
「ところで魔法少女ピンクよ、君はここへ何をしに?」
イリスと一緒に帰って作戦会議でもしているものと思っていたんだけどな。
「はい、実はブルーさんのサポーター、あのクマさんが気になって後を追っていたのです」
見失ってしまいましたけど、とテヘペロするシャルちゃんマジ天使。
けど、そうか。クマってやっぱ気になるんだ。声出さないとかいろいろ怪しいもんな。
「そういえばブルー陣営と同盟を結んだそうだな。サポーターの正体を明かさないなどとふざけた条件だ、気になるのも無理はない」
「シヴァはわたくしたちが同盟を結んだのをご存じなのですね」
「い、いや、各陣営の動向は監督者として把握できるかぎりをしているに過ぎない。あくまで監督者として最低限の状況をね、もちろん干渉はしないし」
「ええ、シヴァは正義の体現者。この儀式を脅かす不穏な勢力から守るため奮闘されているのは知っています」
そうか、俺そんなことしてたんだ。
「儀式の管理・運営に尽力するシヴァには 参加者(こちら) も干渉すべきではないですね。けれど、やはりシヴァには――尊敬するあなたには、相談に乗っていただきたく思います」
いつも明るい少女が、どこか伏し目がちに言う。
「もちろんだとも、なんでも聞いてくれ」
ぱっと明るさを取り戻したシャルはしかし、どこか困惑したように眉を八の字にすると、
「実はわたくし、あのクマさんが頭から離れないのです」
なん、だと……。
困ったようでありながら、ほんのり頬を朱に染めているのはなぜなのか?
「なんと言いますか、あのクマさんの近くにいると不思議な気持ちになってしまうのです。安心する、と同時に胸の高鳴りを覚え、そわそわと落ち着かないような……」
バキンッ!
「うおっ!? なんだ? 地面が割れたぞ……」
ライアスまだいたの? 強制的にどっかに飛ばしてやろうかと考えた矢先、
「てかさ、お前のそれって、恋とかそういうのじゃないか? クマのぬいぐるみ相手にどうかと思ぉわっ――」
強制的にどっかに飛ばしてやった。場所は知らん。
きょとんとするシャルちゃんは、どうやらよく聞き取れなかったみたいだが。
おのれクマ公! 我が天使シャルちゃんを惑わすとは万死に値する! 早急に抹殺しないければ――って待て、あれ俺だわ。あーよかった、って安心はできない。
シャル的にはあのクマを俺だと認識していないのだ。赤の他人に対して恋心を、だと?
これお兄ちゃん的にはどうしたらいいの!?
ふだんなら難問および面倒案件の対応はティア教授に助言いただくところだが、こと恋愛だの人の感情の機微だのでは、アレはまったく役に立たない。
ホントにどうしたらいいの!?
「シヴァ? さっきからわなわなぷるぷる震えているようですけど、寒いのですか?」
俺を心配してくれるシャルちゃん優しい。
「ああ、問題ない。それよりもクマ……そう、クマだな。詳しくは儀式への干渉となるため言えないが、あまり奴には近づくな。いや近づいてもいいが優しくしない方がいい。いや優しくしてもいいかもだが深入りはやめておけ。うん、そのくらいの距離感がいい」
「は、はあ……?」
俺はマントをばさりと翻すと、
「急用を思い出した。私はこれで失礼する。この儀式、油断せず励むといい」
さらば、と高笑いを残し、俺は空高く舞い上がった、そして――。
「ハルト様、お召しによりまかり越しました、フレイです」
ログハウスの自室に戻るやフレイを呼び出す。
「 刻(とき) は来た!」
「ッ!?」
フレイは一瞬びっくりした表情をするも、すぐさま不敵に笑う。
「ふふふ、ついに私に出番が来たというわけですね。腕が鳴ります!」
ぼわっと炎を拳にまとわせないで。ここ木造なんだから。
ともあれ、俺は事前に用意しておいたブレスレットを謎時空から取り出す。赤い宝石が埋めこまれたものだ。
「わかっていると思うが、お前はあくまで陽動だ。ともかく場をかき乱せ。そして早期にシャルが〝聖なる器〟を手にするよう、万全を尽くすんだ」
「ええ、わかっていますとも。ところでハルト様、陽動とおっしゃいましたが出会ってしまえばシャルロッテとイリスフィリア以外――」
フレイはにやりと口角を吊り上げて言う。
「私が倒してしまっても構わないのでしょう?」
そのフレーズやたら気に入ってんな。てか、なんだろう、めちゃくちゃ不安になってきた。
けど仕方ない。
シャルがこれ以上クマ型サポーターに心惑わされないよう、早々に儀式を終わらせて『あのクマは去った。お前の思い出とともにな』とか言って忘れてもらわなきゃそうしなきゃ。
まだ引き返せるとお兄ちゃんは思うんですよ!(根拠レス)
「まあ、がんばってくれ」
「はっ! 必ずや勝利をハルト様に!」
俺じゃなくシャルなんだけどな。
フレイは高笑いを上げながらブレスレットを装着する。ぺかーっと赤い光に包まれて、フレイが魔法少女に変身した。
魔法少女……なのか?
「ふはははははっ! うむ、しっくりくる。さすがはハルト様、この衣装ならば勝利は確定ですね!」
俺と出会ったときに着せたライダースーツっぽいのをベースにちょっとしたふりふりスカートを穿いて、赤いパピヨンマスクを付けている。
要するに、いつも 俺(シヴァ) と正義執行にお出かけするときのフレイとさほど変わらない。
なんか仮面的にパープルと被るな。あっちは衣装のベースがサンバだけど。まあ同類と思われれば他陣営の牽制にもなるか。パープルサイドにも混乱を与えられるかもだし。
よし、さっそく出撃だ! 新たなる魔法少女、レッドよ!
「む?」
「どうした?」
「いえ、今しがた脳内に妙な叫びが聞こえてきまして」
それたぶんサポーターの声だな。そういや誰になったんだろう? また勝手に選ばれた?
「なにやら『解放されたと! 思ったのに!』とか『どうしてまた私なんですかーっ!?』などと喚いておりますが」
それ、もしかしなくてもグリーンのサポーターさんじゃないかな?
どうやら捲きこまれ系の人だったらしい。まあライアスつながりでその口調なら、ほぼほぼあの人に決まっている。
マリアンヌお姉ちゃん、ご愁傷さまです――。