軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〝白〟の思惑

王都中央広場。

商店が立ち並んで多くの人で賑わう中、覇気にあふれる男が歩いていた。

服装は垢抜けておらず庶民のそれ。

精悍な顔立ちながら笑みを浮べて上機嫌に歩く様は、田舎から出てきたばかりで都会を全力で楽しんでいるようで微笑ましい。

ただその首に、白いチョーカーがあるのには誰も気づいていなかった。

否――。

「いくら自分たち以外にチョーカーが見えないからといって不用心ではありませんか?」

ひっそりと男に付きそう白い少年がこぼす。

純白のスーツ姿の彼は、くすんだ灰色のショートボブと上品な顔立ちで少女に見紛うほど愛らしい。一方で金色の瞳が妖しく光る。

「ヴィーイ、拠点を確保したとはいえ籠ってばかりでは気が滅入ろう。そも危険を賭してこそ成果は得られるというもの。いや逆か。危険を避けては成果など得られぬよ」

「成果、ですか……?」

「む? 見るがよい、ヴィーイ。奇妙な色をした果実があるぞ。あれは南国のものか?」

目を輝かせ、小走りで向かうこの厳つい男こそ、帝国皇帝ヴァジム・ズメイその人である。

呆れ顔で付いていく少年――ヴィーイは姿こそ愛らしいが、神代に名を轟かせた三主神がひと柱だ。

「自分は腰を据えて作戦会議をしたいところなのですけれどね」

ヴァジムは商店からは離れたものの、人波に逆らわず緩やかに歩を進める。

どうやら広場から出る気はないらしい。

ヴィーイは仕方ない、とその後ろを歩きながら話し始めた。儀式でのつながりを利用して、ヴァジムの脳内に直接話しかける。

『 王国(こちら) に潜入して調べた結果をお伝えした通り、〝神殺し〟がこの地で活動しています。全盛期には程遠いようですが、それは自分も同様。見つかれば有無を言わさず襲いかかってくるのは確実です。儀式には関係なく、ね』

「ふむ、神を殺す神とはまた度し難いものよ。しかし 其方(そなた) と同じく多くの権能が剥離しておるなら、さほど脅威にならぬのでは?」

『さて、人に偽装するため権能の多くを別に移している可能性もあります。他の〝神〟の存在を認識したなら、その一部でも回復させる危険も否めませんね』

「なるほど。しかし脅威には違いないが、そもそも情報が足りぬ。今はあれこれ考えても仕方あるまい。ワシらはワシらで忙しいしな。作戦会議と言うなら、まずは既存の情報を分析することをこそ優先すべきだろうよ」

『たしかにそうですが……』

「先の戦闘、気になるところがあるのだろう? ワシの瞳を(・・・・・) 介して観察した(・・・・・・・) 其方の所感、ぜひとも聞かせてほしいものよ」

究極の願望機を巡る大魔法儀式では、サポーターとの感覚共有は行われない。特殊能力の効果によっては可能な場合もあるが、それも限定的だ。

ヴィーイがヴァジムの視覚情報を共有できているのは彼らが特別な契約を結んでいるため。そしてその契約はヴィーイの〝神〟としての『特性』によるものだった。

『いいでしょう。ではまず〝黒〟について。アレは自分と同類、おそらく自分らに連なるモノでしょうね』

「ほう? つまり 彼奴(きゃつ) は其方らの眷属といったところか」

『ユリヤは眷属を作りません。せいぜい人に擬態するため〝半身〟を切り離すくらいです。それから〝神殺し〟もそういった話は聞きませんでした。最近この国で復活しかけた魔神がいましたから、その眷属の生き残りでしょうね』

「であれば 神のひと柱(そなた) が声をかければ傀儡にできようか?」

『さて、すでにユリヤか〝神殺し〟の息がかかっているかもしれません。どちらかが事前に服従させ、この儀式に参加させたか……』

混雑する中をあえて進み、会話を続ける。

「その二名、参加していると思うか?」

『ユリヤは嬉々として参加しているでしょうね。〝神殺し〟は性格的に絶対にありえません。アレはただ〝神〟を殺すモノ。それは望みではなく〝機能〟ですから』

「後者が介入する可能性は?」

『あります。が、それは自分かユリヤが彼女に〝神〟と知られた場合のみです。儀式そのものを認識したとしても、彼女は警戒こそすれ静観を貫くでしょう』

ならば今は考える必要はないか、とヴァジムは話題を変える。

「話が逸れたな。改めて 彼(か) の四名、其方の見立てを聞かせてもらおう」

『〝黒〟が魔人ならば相応の警戒は必要でしょう。特殊能力が面白いので、 手に入れたい(・・・・・・) ところではあります』

にやりとしたヴィーイは続ける。

『〝青〟からは奇妙な雰囲気を感じました。人のそれでありながら、魔の趣も醸しているような。魔法力そのものは脅威と呼べませんけれど、注意は必要でしょう』

「 入手の必要は(・・・・・・) ?」

『今のところありません。特殊能力にさほど魅力を感じませんから。もっとも〝青〟の特殊能力はまだ測りかねてはいます』

残る二名はどうか、と訊かれ、ヴィーイは肩を竦めてみせた。

『〝緑〟も〝ピンク〟も取るに足らない。あれは凡庸なる人族です。特殊能力も自分には必要のないものですから、早々に排除してしまいましょう』

ただ、とヴィーイは続ける。

『〝緑〟には他とは違った魅力を感じてはいます』

「ほう? 其方にそう言わしめるとは、彼奴にどのような価値があろうか」

『価値などありませんよ。『使い道』がある、というだけの話です。性格面でとても扱いやすそうなので、自分の代わりに前線でいろいろ注意を引いてもらいましょう。そのうえで――』

怖気を感じてヴァジムは振り返り、

『自分は儀式の根源に迫ります。なんとしても、自分と貴方が勝利するために』

幼い顔つきとは真逆の、禍々しい笑みに身震いするのだった――。