作品タイトル不明
〝緑〟の特殊能力とは?
あり得ないスピードで肉薄する〝緑〟の魔法ごにょごにょ(言いたくない)。なぜか持っている聖剣をイリス目がけて振り抜いたものの、イリスは聖武具もどきでどうにか受け止めた。
にしても、グリーンの動きが明らかにさっきまでとは違っている。
てかめっちゃ強くなってんな。スピードだけじゃなく一撃が重くてイリスは態勢を崩され、反撃の隙が見つけられない。
そういやさっきのグリーンのセリフ、明らかにアレだよな?
イリスはなんとか聖剣の連撃を防いだり躱したりしつつ、苦々しくこぼす。
「これが、キミの特殊能力か」
「だったらどうだってんだ?」
「瞬間的なステータスの大幅な向上……そんなものが長続きするとは思えない。制限時間があるんじゃないか?」
「……テメエ」
「図星か。キミはわかりやすいな」
「はっ! 時間切れの前にテメエを仕留めりゃいいってだけだ!」
グリーンのスピードがさらに上がった。
さすがに手を貸さないとマズいかな、と思ったものの。
イリスは険しい表情ながらも杭を一本、背中から抜くとそちらでも聖剣の連撃を防ぐ。台座部分を盾に、杭を剣に見立てて防戦に徹し、抜群の集中力でしのいでいく。
アレならまだ数分は持ちそうだ。その間に時間切れとやらにならんかな?
「大したもんだぜ」
グリーンが聖剣を振り回しながらつぶやく。
「僕の限界はここまで。これなら時間切れで自分の勝ち――なんて、思ってんだろ?」
にぃ、と不敵に笑うと、
「けど 主人公の真の力(・・・・・・・) ってのは、ここからが本領なんだよ!」
俺を差し置いて主人公の真の力とかなに? イミフなんですけどぉ?
ツッコむ間もなく、グリーンの強烈な一撃が放たれた。
しかしイリスは杭と台座部分を交差させて完全に防いだ。勢いは殺せず後方へ飛ばされたものの、態勢は崩れていない。
いきなり動きが鋭くなって驚いたけど、よくよく観察するにイリスを圧倒するほど能力値が上昇したわけじゃないっぽいな。
これなら手を貸さなくてもいいや。
俺が短い腕を組んでのほほんと見守る中、イリスは着地と同時に防御姿勢を――。
「なっ!?」
ずるり、と。
イリスの足元が滑った。身体が大きく傾いた原因は――。
「なんでバナナの皮がこんなところに!?」
うん、マジでなんでだ?
たしかに小汚い裏路地でゴミとか散乱してるけど、たまたまバナナの皮が落ちていて、踏ん張ろうと足を着いたところがピンポイントでその上ってあり得るぅ?
「見たか! これこそが主人公の力だ! ただ能力が上がるだけじゃない、発動中は相手の特殊能力の効果を減衰できるし、なにより主人公に与えられる幸運――敵からすれば不運に見舞われる特別な力があるのさ。これこそ、主人公補正!」
またもグリーンがイミフなこと言ってる。
運要素高めの主人公ってそれ興ざめするやつだぞ? てか解説しちゃっていいんかよ。
気になって建物の陰に目を向けると、ウサギさんが頭を抱えていた。ですよねー。
イリスはどうにかして倒れるのは耐えたものの、グリーンの攻撃に対応できるか微妙なところだ。
もしかして俺たち、初戦で退場しちゃうのー?
「ボク、は――」
けれどイリスは諦めていなかった。
「負けるわけには、いかないんだ!」
決死の覚悟とともに、手にした『杭』をカウンターで突き出す。
「残念、見えてんだよ」
しかしグリーンは予想していたのか、突進するスピードは緩めず、わずかに体を捻った。
チッ……。ひらひらの衣装をほんのすこし、かすった。
それだけだ。
イリスは攻撃姿勢に転じたために、グリーンが振り上げた聖剣を防ぐ手立てがなくなった。
この儀式では殺し合いにならないよう、魔法少女たちには俺ができうる限りの防御結界を衣装に仕込んである。
だからイリスが大けがを負うことはないが、同時に攻撃を受けた際の衝撃の程度によって、被ダメージ側の自由を奪うような設計も施してあるのだ。
つまり聖剣をもろに食らったら『決定打』となり得るわけで、そうするとイリスはほぼほぼ動けなくなってブレスレットの宝石を壊されちゃう、と。
最悪の場合は変身を解いてブレスレットを隠しちゃえばいいんだけど、まだ変身してから解除可能な五分が経過していない。
オワタ……なんて諦めるのは、俺でもイリスでもなく。
「な、んだ、これは……」
聖剣を振り上げた姿勢で固まっている、グリーンなんだよね。
あっぶねー。
イリスの特殊能力『道具の意味を拡張してやるぜぇ』が正しく発動してくれたか。
武器や防具のみならず、道具が持つ概念を具現化する能力。
今回は『杭』という、本来は目印用途らしいがその特性から、『固定する』意味が拡張されたのだ。道具の用途に関しては俺の認識が強く作用しているっぽい。たとえば『箒で空を飛べる』とか、こっちの世界の住人であるイリスには不思議がられてたからな。
で、聖武具もどきの『杭』は、影に打ち付けても大きく動きを制限するのは確認済み。
相手が特殊能力を発動中の魔法少女でも、かすっただけでかなり動きを鈍らせるくらいの効果を発揮してくれた。
「体が、重い……。くそっ、特殊能力も強制解除されんのかよ……」
「形勢逆転だね。悪いけど、キミにはここで退場してもらう」
バナナの皮が能力の一部だったのもそうだけど、かなり厄介な特殊能力だったしな。
ブルー(こちら) の正体がほぼほぼ他陣営にバレちゃった以上、こいつを脱落させなきゃ割に合わん。
イリスは手にした杭を背中に戻し、こぶしを引き絞った。
狙いは当然、緑色をした宝石だ。
「ぐ……このぉ……っ」
グリーンは全身に力を入れて見えない拘束から逃れようとするも、脂汗を流すだけでのったりとした動作しかできていない。
グリーンの前に、奴を護るようにして魔法陣が現れた。どうやらウサギのサポーターさんが展開したらしいけど、見た感じの強度なら問題ない。
実際、体術を得意とするイリスの強烈なストレートが、まずは防御魔法陣を粉砕した。
続けざま、新たな魔法陣が展開される前にすばやく態勢を切り替え、今まさにグリーンのブレスレット目がけて放たれようとしたところで。
「楽しそう! いっしょに遊んで♪」
第三の魔法少女が乱入してきた――。