軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

存在しないはずの八枚目

すべての参加者が決定したみたいよ?

究極の願望機を奪い合う大魔法儀式その名も『魔法少女戦争(仮)』を実質的に管理・運営する立場である俺様が伝聞調なのは、大魔法儀式のシステムから実に淡白なお知らせを脳内で受け止めて初めて知ったからだ。

ティア教授からシャルのサポーターも見つかったと連絡を受けた。

蚊帳の外感がパナいのですが?

にしても俺、魔法少女の参加者7名のうち3名の情報を入手できていない。特殊能力に至っては自陣営のものだけだ。

だからこそ面白くなるとも言えるのだけど、俺もイリスのサポーターになっちゃったから立ち回りは考えないとな。

てなわけで――。

湖畔のログハウスにイリスを呼び出して、儀式開始にあたっての作戦会議を始める。

「ハルト、キミが手にしている金属製カードにとても見覚えがあるのは横に置くとして、方針は前に決めたとおりでいいね?」

本音では横に置きたくないっぽいがまずはメインの話を進めるか。

「シャルを勝たせる。そのためにも正体不明の三組を引きずり出して化けの皮を剥がす。お前は連中に 一対一(サシ) の戦いを挑み、できるなら特殊能力を使わせて情報を手に入れる、だったな」

「そうだね。できればもうすこし特殊能力を使いこなせるようにしたかったけど……。いや、時間のなさで言ったら最後までサポーターが決まらなかったシャルの方が大変なのだから、贅沢は言えないか」

なんか殊勝なこと言ってる。

「しばらくは『 破滅に誘う破城杭(パイル・カタストロフ) 』の拡張効果だけでもどうにかできそうだしね。アレはなかなか強力だ」

パイル……なに? と首をかしげたら、呆れた眼差しに加えてため息まで吐き出す始末。

「キミが用意した聖武具だよ。もう忘れたのか?」

あー、アレね。オリンピウス遺跡の探索課題で偽造した聖武具もどきだ。名前で呼ばんから気づかんかったわ。

「たしかにアレの拡張効果ってやつは強力だな」

なにせ相手に当たれば一定時間、確実に 動きを封じられる(・・・・・・・・) のだ。

あの聖武具もどきは杭を打ち付けるモノ。杭は主に目印用途らしいが、武器そのものの特性から『固定する』意味が拡張されたらしい。

まともに食らえば動きが固定され、さらに影に打ち付けてもかなり動きを制限できる。

「実際に魔法少女相手にどんな効果になるかはまだわかんないけどな」

相手の特殊能力との概念バトル次第、とも言える。

この際だから使えそうな道具はイリス用の謎時空に放りこんでおきたい。

「他になんか有用そうなのなかったっけ? メガネだろ、枕と毛布はいちおう持ってくか。箒は……魔法少女のデフォ機能があるからいらないな」

「どうして戦闘と関係ないものばかり試したのさ? そもそもなぜ箒で空を飛べるのかを説明してほしい」

俺が前世でいた世界ではそうだったんだよ。フィクションだけど。

道具の意味を拡張する特殊能力――それに俺の常識が色濃く影響しているんだろうな、というのがわかっただけでも十分じゃないか。

「あとはそこら辺にあるものを使って試せば一石二鳥だな」

「最初は聖武具だけでいいと思う。ボクの正体は知られてしまうけど、特殊能力の本質を隠せるメリットを取ろう。幸い聖武具の機能を知る者はボクとキミだけだ。当初は『聖武具の付帯機能』と誤解を与えるよう振舞った方がいい」

「ほぉん、お前も卑怯な作戦を立てられるようになったじゃないか」

「そう、かな? 戦術としては一般的な部類だと思うのだけど……」

以降の話し合いで、作戦らしい作戦というより『ともかく誰かを見つけて戦いを挑む。そこからは成り行き任せ』との行き当たりばったりな策に落ち着いた。

話は終わり、と腰を上げようとしたところ。

「それで? さっき持っていた金属製カードは何に使うつもりなのか聞いてもいいかな」

やっぱ気になるよな。

できればクソが付くほど真面目なこいつには直前まで秘密にしておきたかったが、チームを組む以上、隠し事はすくなくせんとね、信頼関係がね。それくらい俺にもわかります。

「これこそ、存在しないはずの〝八枚目のルシフェル・カード〟だ」

ずびしっと突き出してやると、イリスさんは今日何度目かの呆れ 眼(まなこ) を向けてきました。

「不本意だけど、キミの考えがなんとなくつかめるようになってきた。不本意だけど」

大事でもないことを二回言わなーい。

「べつに不正はしないぞ? あくまでこれは『似たようなブレスレットを付けた魔法少女っぽい奴がたまたま現れて正義の味方のまねごとをしてたら意図せず儀式を引っかき回しちゃいましたてへぺろ♪』という状況に持っていくだけだ」

「却下だ」

イリスさん、珍しく強い口調で抵抗を示す。

「ボクでは力不足だとキミが判断したなら実戦で納得してもらう。そのために、ボクは魔法少女になったのだから」

なんだか深刻そうな顔つきになったな。

そんな重く考えなくてもいいんだけど……。

「ま、お前が気に入らないならやらないよ」

ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべたところ申し訳ない。

嘘ですから!

俺は使えるモノは使えるときに正しく使う男だ。

卑怯だろうがなんだろうが躊躇わない。

いや、シャルに拒否られたらやらんけど。

そんなわけで――。

イリスには早々にお帰りいただき、俺は自室で再び〝八枚目〟を取り出した。

背後に控えるそいつに見せながら、カードをブレスレットに変貌させる。赤い宝石が嵌められたやつだ。

「お前はあくまで切り札だ。序盤は戦況を見定めるのがメインだから、投入はしばらく先になる。 刻(とき) が来くるまで大人しくしてろよ?」

しなやかな手が俺の横に差し出された。その上にブレスレットを置く。

「肝に銘じておきます、ハルト様。ところで、その〝刻〟が来たならば――」

振り返ると、赤髪ケモミミのメイドさんが、

「暴れ回っても、構わないのでしょう?」

赤い瞳をギラつかせていた。

……人選、間違ってないよな? 今回は引っかき回す役だし、ある程度は暴れるのを許容していいよね?

一抹どころか全面的に不安を覚えるが、大丈夫、フレイはやればできる子なのだ。

ともあれ!

これで準備は整った。

『魔法少女戦争(仮)』、俺は必ずシャルを勝利に導くのだ!

――後半へ続く!

刻(とき) は満ちた。

ついに〝聖なる器〟はその所有者たる資格を持つ者七名を選定し、彼らをそれぞれ補佐する七名を加え、計十四名による儀式が開始されたのだ。

ずっと待っていた。

いや、辛うじて残り香にすぎない彼女に、もはや自我はもちろん意識すら残っていない。執念とも呼べない、極めてかすかな残滓だ。

それでも『この刻を待っていたモノ』は確かに在って、図らずも儀式の中核に根を下ろしていた。

とはいえ、だ。

いかに 魔神だったモノ(・・・・・・・) であろうとただの残りかす。

意志などなく。

行動も示せず。

大魔法儀式になんら影響を与えるものではない。

だが、それでも――。

ティアリエッタは雑多な部屋でお茶をすすりつつ、あれこれ考えていた。

『魔法少女戦争(仮)』――勝者にあらゆる願いを叶える〝聖なる器〟を奪い合う、大魔法儀式が始まったのだ。

主催者(ハルト) により勝者は決定しているようなものだが、どうにか隙をついて勝利を自分たちの手に、と策を練り練り。

頭をフル回転する彼女の隣では、儀式の賞品であるはずの〝聖なる器〟が無造作に転がっていた。

さらにその横でお絵描きする褐色幼女が、ふいに傍らに目を向けた。

じぃーーっと。

黄金の器を凝視して。

女の子は柔らかにほほ笑んだ。

そのつぶやきに、ティアリエッタは気づかない。

その意味するところも、きっと思い至らない。

なにせ当の女の子ですら、自身がどんな言葉を口にしたのか知らないのだから。

――うん、 メルキュメーネス(・・・・・・・・) はがんばるね、 お母さん(・・・・) 。