軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やっぱりという感想しかない

王都西側にある共同墓地。

イリスフィリアは配達のアルバイトが終わると、時おりここに立ち寄っていた。

先ごろ大騒ぎがあったばかりだが、破壊されたところも修復が終わり、以前の光景に戻っている。

魔王軍との戦いによって散っていった者たちが眠る区画で足を止めた。

この中には、かつて自分が殺めた者もいる。

感傷に浸りたかったのではない。ただ自身の決意を再確認するため、彼女はここへ来る。

「ボクは、いつか必ず……」

人と魔が手を取り合って暮らせる世界を――。

「お、いたいた。てかなんで墓参り?」

意外な人物に呼びかけられて驚いた。

「ハルト? キミこそどうしてここに?」

質問に質問で返してしまったと反省し、すぐさま言い直す。

「ボクは慰霊だよ。この辺りは配達のアルバイトでよく通るからね」

ハルトは「ふうん」とだけ返し、手のひらを合わせて目を閉じた。どうやら弔っているようだが初めて見るやり方だった。

「俺はお前に用があって来たんだよ。折り入ったお話ってやつだ」

ちなみにこの人もいるぞ、と手を向けた先には、全身真っ黒な仮面の男が浮いていた。

(存在そのものに魔力は感じるけど、あの吹き飛ばされそうな感覚はない)

視線をハルトに戻す。

やはりこちらから、その圧倒的な魔力圧に射竦められる思いだ。

「ここで立ち話もなんだし、場所を変えようぜ」

ハルトが言うと、おそらく偽物のシヴァが奇妙なポーズを取った。直後に現れたのは扉だ。

(この男、本気で隠す気があるのかな……)

半ば呆れながら扉をくぐる。

広いリビングだった。窓の外では魔物たちが闊歩している。そして室内には、先客がいた。

「なんでティア教授がいるんっすか。しかもソファーでくつろいでるし」

「キミ、急に出ていったからね。どうせ自分がコントロールできる参加者を早く見繕いたいからイリス君の勧誘に向かったんだろう、と思ったのさ。で、込み入った話だし腰を据えて説得すべく、ここへ来ると読んだってワケ」

「名探偵すぎる……」

今の会話でハルトの用件は知れたような?

「ま、ティア教授ならいっか。イリス、ちょっと座って待っててくれ」

促されるままティアリエッタの横に座り、ハルトが用意したお茶をすする。

「お前も魔法少女にならないか」

ティアリエッタにバラされたから観念したのか、ハルトはまったく飾らず誘う。

つい先日、神代の古文書に記された大魔法儀式が始まった。その場に居合わせたとき、あらゆる願いを叶える究極の魔法具の話に興味が引かれたのは事実だ。

「お前もなんか願い事くらいあるだろ」

ある。

それは一朝一夕で成し遂げられるものではなく、人の身の今、志半ばで寿命が尽きてしまう危険すらあるものだ。

もし、奇跡に頼れるというのなら――。

「誰かを傷つけてまで叶えたい願いなんてないよ」

それでも彼女は拒絶した。

件の儀式は自身の願いと矛盾する。

別の誰かと戦い、その人物の願いを直接叩きつぶす。そんな哀しいことをしたくないから自分は魔王から人に転生したのだ。

「傷つけるだのはまあ、この人がなんとかしてくれるから安心していい」

ハルトの背後で黒い戦士(偽?)がシュバババッとポーズを決めた。

「だとしても――って、どうしてボクにこだわるのさ? 他にもたくさん……もしかして、参加者が少ないから人数合わせで?」

「ははは、まさか」

「どうして目を逸らす」

おそらくただ参加者が少ないというより、都合のいい人材が乏しいのだろう。

さっきティアリエッタも言っていた。『自分がコントロールできる人物を見繕いたい』とは正鵠を射ていたようだ。

「ともかく、ボクは儀式に参加する気は――」

今度こそキッパリ断ろうとしたそのとき。

「うぉーい本体、お客さんだぞー」

やる気のない声で扉が開かれ現れたのは……ハルト(?)だった。魔力をまったく感じないところから、本物のハルトではないとイリスフィリアは確信する。

「「あ」」

ソファーのハルトと今しがた現れた偽ハルトは声を合わせた。

この男、本気の本気で隠す気はあるのだろうか。ないんだろうな。

隣ではティアリエッタが笑いをこらえるのに必死な様子。

偽ハルトがすさささーと本物のハルトに駆け寄った。

立ち上がるハルト(本物)。

指を一本突き出すと、偽ハルトの鼻をぐいっと押す。

「縮んだ!? いやこれ……人形になった!?」

躍動感あふれるポーズの、シャルロッテが好きそうなフリフリの衣装を着た少女だ。

「なにそれ初めて見た! どうなってんの教えて詳しく!」

ティアリエッタの歓喜は横に置き、一体全体どんな魔法を使えば? との疑問も後回し。状況把握にイリスフィリアは全力を傾けた。

ハルトが無表情に向き直る。

いつの間にか黒い戦士の姿も消えていた。

「ふっ、バレちゃあ仕方ない。はっ!」

「眩しっ!」

「――っ!?」

突然ハルトが光を放った。直後、ハルトが消え、代わりに再び黒い戦士が姿を現し、

「そう! 俺こそ正義の執行者、黒い戦士シヴァだったのさ!」

仮面を自ら剥ぎ取る。どういう心理状態なのか、ドヤ顔のハルトが顔を晒したのだが。

「うん、まあ、そうだろうとは思っていたよ」

「あ、そうなんだ……」

ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめる姿に表情が緩みかけるも、彼には酷な指摘をしておかなくては。

「それよりハルト、実に言いにくいんだけど」

イリスフィリアは彼の背後を指差す。

ハルトが振り向いた。「ぁ」と小さな声が漏れる。

偽ハルトが入ってきた扉の向こうは、ティア教授の研究棟にあるハルトの部屋だった。

そして偽ハルトはこう言って現れたのだ。

――お客さんだぞー。

「えっと、その……ごめんなさい。部屋の外で待つよう言われていたのですけど、なんだか騒がしいのが気になってしまって……」

居心地悪そうにもじもじしていたのは、

「あ、でも、私もなんとなく気づいていたというか、『そうじゃないかなー』と思っていましたよ?」

制服姿のマリアンヌ王女だった。

「ぶわっはははははっ!」

ティアリエッタの笑い声が、リビングを満たしていった――。