軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神殺し、取り乱す

テレジア・モンペリエが異常を感じたのは、学院長室で執務中のことだった。

背に怖気が走る。絶対にあってはならない事態が、自身が施した緊急警報によってもたらされたのだ。

(破られた? あの結界が?)

この数百年、発見もされなかったあの部屋が、何者かの侵入を許した。それだけではない。

「まさか! 奪われたというの!?」

自身の力――かつて〝神殺し〟と呼ばれていたころのほぼすべての権能を封じた、超々高密度魔力体。

視覚的にはもちろん、魔力探知にも引っかからないよう巧妙に隠していたはずなのに。

(あの部屋だって何重にも隠蔽用結界を施していたというのに、なぜっ!?)

最悪の事態だ。

魔神ルシファイラは滅せられたが、新たな魔神の脅威は拭えていない。それこそ三主神の誰かが目覚めれば、ようやく訪れた人の繁栄が崩壊しかねなかった。

(抑止力たる私の切り札が……こうしてはいられません)

とにかく早急に取り戻さねば。

テレジアは椅子を跳ね飛ばすように立ち上がった。が、

「……ぇ?」

次なる異常事態に困惑する。

自身の力を移した超々高密度魔力体は、もちろん所在がわかるよう自身の精神とつながっている。

だからどこをどう移動したかは手に取るようにわかるのだが、

(一瞬にして、移動しました。しかも、これは――)

こちらに近寄っていた。より正確に言えば、学院の敷地内に入ってきたのだ。

(この位置……間違いありませんね)

学院内でも奥まった、ほとんどの人が近寄らない辺鄙な場所――ティアリエッタ・ルセイヤンネル教授の研究棟だった。

となれば、奪った相手が誰かは想像がつく。

(シヴァ、貴方なのですね)

彼は元々ゼンフィス辺境伯領で活動を開始した正体不明の自称正義の執行者。彼の地で悪を成敗して回る奇特な男だ。

そしてゼンフィス辺境伯の息子ハルトと懇意のようで、ハルトはティアリエッタの研究室に所属している。そのつながりか、シヴァもティアリエッタと親交があるらしいのだ。

(ひとまず誰の手に渡ったのか知れただけでも幸いですね)

テレジアは落ち着きを取り戻す。

ただ彼がどう扱うか未知数であるため、油断はできなかった。

(これだけ近づいてくれていれば、最悪アレの封を解いて魔力だけを強制回収することもできます)

多少の欠損はこの際、許容する。

だが魔神クラスの魔力が解き放たれたとなれば、それこそシヴァが黙っていないだろう。

(できればシヴァとは敵対したくありませんからね)

彼の真意はいまだわからないが、今のところ『正義を為す』という彼の主義主張に敵対する要素はないのだから。

テレジアは椅子に座り直した。

天井を仰ぎ、今後の対応策をいくつか頭に思い描く。そのうちに、ひとつの考えに至った。

(いっそ、私の正体を彼に明かしてしまいましょうか……)

いや、それは早計だ。

彼が自身と同じく〝神を殺す者〟であるなら、〝神〟のひと柱たる自身を例外扱いしてくれるとは考えにくい。

(私だって、彼が〝神〟であるならいずれ――)

むろん話し合う余地はあるだろう。混沌に堕ちた神代とは状況が違うのだから。けれど、やはり相容れないとわかれば対決は免れない。

深く、ため息を吐き出してしばらく。

コンコン、と丁寧なノックが聞こえた。「どうぞ」と促すと、静かに扉が開かれ一人の男子生徒が入ってくる。

「珍しいですね、アレクセイ・グーベルク君。どのようなご用件ですか?」

とくに警戒はしていなかった。

彼はかつて魔神の一部をその身に宿していたが、シヴァによって完全に取り除かれている。どのような処置を施したか定かでないので恐ろしくはあるが。

「……学院長、ずいぶん落ちつていますね。これはハズレだったかな?」

「? どういう意味ですか?」

怪訝に尋ねると、アレクセイは冷笑じみた笑みで言う。

「私はつい今しがたまで、シヴァと一緒でした」

「っ!?」

「すこし前はオリンピウス遺跡の最下層までついて行きましたよ」

ガタンと、テレジアは椅子を突き飛ばして立ち上がる。

「ふむ、やはりアタリだったようですね。アレは、貴女のものでしたか」

「どうして、それを……」

「私は魔神の記憶で貴女の正体を知っています。今は人として力を抑えているようですが、それは力の大部分を別の場所に移したと考えるのが妥当。そしてオリンピウス遺跡は学院の管理下にあり、その最下層のさらに奥底に超々高密度魔力体が隠されていたとなれば――」

答えに辿り着くは容易い、とアレクセイは告げた。

「ならば話は早いですね。シヴァがアレをどうするつもりか、知っている情報を教えていただけませんか」

脅すつもりはない。

ただ協力してくれるために彼に差し出せるものは今のところ思いつかなかった。

アレクセイの誠意に縋るだけの現状、応じてくれるとは思えない。だから、いちおう言ってみた、くらいの気持ちだったのだが。

「彼はとある大魔法儀式を行うつもりのようです」

意外にも素直に教えてくれた、と思っていたら。

「その景品に使うそうですよ」

「…………は?」

テレジアの表情が引きつった。

「その儀式は、彼の言葉を借りるなら『仮の魔法少女戦争』という、七組の魔法少女たちが自身の願いを叶えるために競い合うものだそうです。そして貴女の大切な魔力体は、どんな願いも叶える究極の願望機――〝聖なる器〟の素体に使うのだとか」

「ぇ、ちょ、待っ……え?」

言っている内容のほとんどが理解できない。というかしたくない。

「お気の毒ですが、取り戻したいならその茶番……失礼、儀式に参加する以外にない。それともシヴァと直接やり合いますか?」

どちらにしても御免被りたい。

だが魔力体を取り戻すのは必須。どうしても諦めるわけにはいかなかった。

――そう、 強く願って(・・・・・) しまったのだ。

本当に、心の底から、奇妙奇天烈な儀式なんかに加わりたくはないのに。

「「!?」」

二人の間に、突如としてブレスレットが現れた。紫の宝石が嵌めこまれたものだ。

カッ、と。

まばゆいばかりの光が部屋を埋め尽くす。

霧が晴れるように緩やかに、光が弱まっていくと。

「こ、これは、もしかしなくても……」

テレジアの片腕に、ブレスレットが装着されていた。

「ええ、間違いなく参加者に選ばれてしまいましたね。まったくもって不本意ながら」

言いつつもどこか嬉しそうなアレクセイの首には、紫色のチョーカーがついていた。そしてその姿が、とある動物に変貌している。

理解が追いつかない。というか全力で理解したくなかったテレジアはしかし、

「この格好はなんなのですかーっ!?」

自身のあられもない姿に、叫ばずにはいられなかった――。

【現在の儀式参加者】※()内は宝石の色

[魔法少女] |[サポーター]

・シャルロッテ(ピンク) | ??

・メル(黒) | ティアリエッタ

・ユリヤ(金) | ウラニス

・テレジア(紫) | アレクセイ

残り3枠――