軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

用意周到はこちらもですが?

「一回戦が終わったあとに頼み事しようとしたら、なんか様子が変だったからさ」

気絶させて調べたところ、危険な爆発術式を探り当てた、と言ってのけた。

「他にも聖剣の変な術式も移してたろ。とりま危険そうだから、きれいさっぱり取り除いておいた」

肉体に直接刻んだ魔法術式は、ただ機能を停止するだけならいざ知らず、そう簡単に外せるものではない。術者にだって完全には消し去れないのだ。

「ついでにお前の残骸? 残滓? よくわからんけど、先輩に寄生してるのも剥がしておいたよ」

シヴァの声はルシファイラに届いていなかった。

どうしてこうも、打つ手打つ手がことごとく先につぶされてしまうのか。

「さて、お前の手の内は全部把握してる。でもって、お前の実力もだいたいわかった」

シヴァは見た目以上の高みから 魔神(ルシファイラ) を見下ろす。

「見かけ倒し――てのとは違うか。魔神パワー全開! ってなフリして、実際はハッタリだったんだろ?」

「なん、ですって……?」

この男は、何を言っている……?

「そうだなあ、俺の見立てではズバリ……全盛期の二割くらい! いや神的な何かなんだし、一割も力出せてないんじゃない?」

そんなはずはない。

確かに全盛期の八割ほど、瞬間的になら全盛期に近い魔力を爆発させていた。シヴァに放った魔法弾の嵐であれば、王都はもちろん山ひとつを更地にできるほどの威力だった。

「んじゃ、完全復活してない今のうちに終わらせてもらおうかね」

もし、仮に。

全盛期であらゆる事態を想定し、これ以上ないほど準備を整えて戦ったとしたら。

(無理、よ……。違う……こいつは、 神代の支配者層(わたくしたち) が束になったとしても……)

届かない。

戦いにすらならない。

(初めから、関わってはいけなかったのよ……)

事前の想定は破綻していた。

この男が魔人などという矮小な枠組みの存在であるはずがない。となればシャルロッテとの関係が不可解極まるが、もはやそんなことはどうでもよかった。

今はただ、生きる道筋を探り当てるのだ。

「取引をしましょう!」

「は? いきなりなんだよ? お前と交渉なんてするわけないだろ?」

まったくもってその通りだ。

しかし交渉材料がないわけではなかった。

「王都の各所に、毒を撒く魔法術式をいくつも刻んでいるわ」

「……」

シヴァから魔力の圧が飛んでくる。

「わたくしが死んだ瞬間、発動する術式よ」

嘘は言っていない。本来は遠隔操作で発動するものだが、最悪の事態を想定してのことだ。

「貴方なら時間をかければすべて見つけて排除はできるでしょう? その間に、わたくしはこの場を離れるとするわ」

今は恥も外聞も投げ捨てる。もうこの男の視界の範囲にいたくなかった。

「え、ふつうに嫌だけど」

意外、でもなかった。だがまだ手は残されている。

「あの娘が、悲しむのではなくて?」

「そりゃまあ、王都に毒を撒かれたら市民のみなさんが苦しむからな。シャルは悲しむ」

これですこしだけ時間が稼げる。

きっとこの男はどこまでも追いかけてくるだろう。

しかし この体から(・・・・・) 逃れてしまえば(・・・・・・・) ――そしてそれに気づかれなければ、生き延びることができるのだ。

(よし、まだ 新しい体(ヴァリ) は健在のようね)

つながりは途絶えていなかった。気絶しているようだが機能に異常はない。

(けっきょく最悪の事態に陥ってしまったわね。魔神たるわたくしが……)

それでも生きてさえいれば、再起は図れると――

「けどまあ、そっちも問題ない」

ブブン、と。

シヴァの周囲に半透明の画面がいくつも現れた。

音声だけでなく映像をも伝える通信魔法を無数に出現させる規格外の魔力量には今さら驚きはしない。

だがすべての画面に映る『×』マークの場所を見て、ルシファイラは愕然とした。

「これだろ? お前が仕掛けた術式って」

うなずく気力もなくなり、ただ呆然と画面を眺める彼女の前で、

「壊したのが知られると他になんか仕込まれるかもしれないからさ、今まで放置しておいたんだけど」

キキキキキキキン……。

術式だけが消滅していく。これで切り札は何もなくなった。

(逃、げ、なくちゃ……)

無防備に背を向ける。このままシヴァの攻撃でやられたフリをして、急ぎヴァリの身体に意識をすべて移してしまおう。魔力の回復など二の次だ。

今はただ、逃げて、生きて、生き延びて――。

「ぁ……」

景色が一変する。

さっき壊したはずの白い空間。これほど大規模な結界なら、事前に用意していたものと考えていた、けれど――。

「さっきのより強度を上げたからな。もう逃げられないぞ」

完全なる閉鎖空間を、瞬時に作り上げたその力は、もはや『神』にすら収まらない。

移転先(ヴァリ) とのつながりは、完全に断たれていた――。