軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

即興劇は難しい

俺が本当は王子様であることを知られてはいけない。なにせ俺もすっかり忘れていた事実なのだ。

どうやらユリヤは勘が鋭いみたいなので、こいつが俺の体(王紋)に意識を集中させている今が細工のチャンス。

彼女の後方にあるおっきな魔法具に、無数の結界を貼りつけて――。

ゴゴゴゴゴ……。

地鳴りも演出。

「はわわ! 地面が揺れてますー!?」

「い、いったい何が起こっているのですか?」

「……」

なんかユリヤだけ俺から目を離さんのだが今さら止まれない。

「ゴウゥゥゥゥゥンッ!」

重々しい咆哮が轟き、

「あ、あれは!」

「はあぁぁぁぁ!? 洗濯用魔法具がぁ!?」

「ん?」

さすがのユリヤも二人の驚きように興味が移ったのか、振り向いた。

三メートル四方の立方体。そこになんか手が生え足が伸びお目目がぱちくり。洗濯物の投入口がおちょぼな感じになった。

「もしやルシフェル・カードが!?」

よし。狙いどおりシャルがまず食いついた。しかもベストすぎる予想じゃないか。

「ルシフェル・カードってなに?」

いいぞ。ユリヤの興味が俺から完全にそちらへ移った。

「ルシフェル・カードとは、遠い昔に悪いことをして封じられてしまった魔神さんが完全復活するために必要な、七枚の特殊な魔法具なのです。そこから漏れ出す闇のパワー的な何かが周囲に悪影響を与え、不可解な事件が起こってしまうのですよ!」

「魔神……」

ユリヤが笑みを消した。神妙な面持ちでつぶやく。

思いのほか深刻に受け止めているな。シャルと同い年だし、そういう年頃なのかな。

「その特殊な魔法具で、あれが魔物化したってことかしら?」

「おそらく。いえ、きっと!」

シャルちゃんものすごく頼もしい。

「どうして、私たちの研究成果に……」

そしてマリアンヌお姉ちゃんは涙目で申し訳ない。けど、必ず無傷で元に戻してあげるからね!

心の中でそう決意する。

さて、あとは適当に暴れさせてシャルが倒してめでたしめでたし、にしてしまおう。

突発的に(というか思い付きで)始めたので、学内に潜伏中の魔人さんが来ちゃうといろいろ面倒だ。すぐさま周囲に結界を貼って奴が現れる前に片をつけるとするかね。

「あっはっはっはっは! やはり 学院(ここ) に例のカードがあったようね!」

もう嗅ぎつけて来たんかーい!

しかも制服のままやんけ。変装してる状態で出てくるなや面倒臭いなあ。

だが俺は慌てなかった。

「――へげっ!?」

後頭部に透明結界をぶつけて気絶させた。別の結界の中に閉じこめ、光学迷彩効果を付与。防音効果もバッチリです。

「今、誰かの高笑いが聞こえなかった? そのあとに轢きつぶされたみたいな声も」

「魔神さんの女幹部さんの声に似ていましたけど……いませんね」

ふぅ、どうにか気づかれずに済んだ。

金に染まる疑惑の目がこちらに向けられているような気がしなくもないが、今は目の前の脅威に対処しようぜみんな!

「シャル! 周囲の安全は俺が確保する。お前たちはルシフェル・カードを探し出すんだ!」

俺は片手を前にして、苦しそうな表情を浮かべる。結界を維持するのになんら苦労はないのだが、こうするとシャルは喜ぶのだ。

「はい! 兄上さまのご助力、無駄にはしません!」

「あの、できれば壊さないように――」

「ねえシャル、魔物化した魔法具のどこかにルシフェル・カードというのが隠されているのよね?」

「お願いしたいのですけど――」

「状況からしてそうに違いありません」

「って聞いてます?」

「なら――」

ユリヤ嬢、腰を深く沈めましたが?

「まずは動けなくしなくちゃね♪」

めっちゃ楽しそうな笑顔で飛びかかりやがりましたよ?

ガッキィィィィンッ!!

おそらく地面に打てば巨大クレーターができるほどの威力で、右こぶしを打ち抜いた。

「壊さないでーっ! って言いましたよーっ!?」

ご安心ください王女殿下、ギリギリ防御結界が間に合いました。ホント危なかった……。ユリヤさん、予想外の動きしないでもらえます?

「へえ、けっこう硬いのね」

このお嬢さん、見た目に反して武闘派だったのか。そういや四騎戦では近接戦闘タイプに分類されてたっけ。

今さら思い出す俺を尻目に、銀髪の美少女はパンチや蹴りを連続で繰り出していく。

そのたびにマリアンヌお姉ちゃんが胃のあたりを抑えて苦悶の声を絞り出しているので、いい加減なんとかしてやらんといけない気がしてきた。

でも一方的ってのもマズいよね。盛り上がり的に。

俺は巨大洗濯機の長い腕を振るった。

ユリヤは腕を掻いくぐって着地する。

そこへ目がけ、もう一方の腕を振り下ろした。

たぶんユリヤなら受け止めるなり避けるなりするよなーとお気楽に考えていたのだが。

「危ないです!?」

身構えはするも、ユリヤは頭上から迫りくる大きなこぶしに目を向けていない。

あ、これヤバくね?